室内空間を美しく快適にコーディネートする、インテリアコーディネーター。とにかく素敵なセンスの持ち主でなければなれない……というイメージがありますが、仕事ではどのようなことをして、どのような力が求められるのでしょう?フリーランスのインテリアコーディネーターとして、企業カタログの家具コーディネートや、家具・雑貨のデザイン、ウェブサイトでの記事執筆を手がけるなど、インテリアに関連するあらゆる場所を舞台に広く活躍されている土橋陽子さんは、こう話してくださいました。
「私の場合はちょっと特殊かもしれませんが、自分がデザイナーもしているため、クライアントの希望を叶えることはもちろん、家具や雑貨のデザイナーさんが『作ったものをこう置かれて欲しい』と希望するイメージを形にできるように、コミュニケーションをとることを心がけています」(土橋さん)
依頼を受けてコーディネートを手がけるのは、個人宅や、ピアノ・英会話などの教室など多岐にわたり、企業カタログのコーディネートでも、家具シリーズを魅力的に見せる空間をコーディネートし、提案されています。
「クライアントの予算とニーズの両方に応えられる商品知識、動線や家具の配置による人間関係の変化への観察力、家具のメンテナンス知識、搬入経路の確保や撮影準備の段取り力など、インテリアコーディネーターは、ただコーディネートするだけでなく、空間を作るための作業をこなす力を総合的に求められる仕事です」(土橋さん)
土橋さんが見せてくださった、家具カタログのためのコーディネート案は、丁寧で雰囲気のある手書き。「その部屋で起こる物語を細部まで思い描きながら、家具や雑貨をコーディネートします」と土橋さん。部屋の色合い、食事、会話、人の所作まで想像し、ノートに描き込んでいくのが、彼女の仕事の流儀です。
土橋さんがインテリアの仕事を志したのは、ごく自然だったのだとか。
「私は中3までドールハウスのカーテンを自分の部屋と同じように自作するなど、インテリアをいじることが大好きでした。また、母が購読していたインテリア雑誌などを何度も繰り返し読みながら、そのインテリアでの生活に想像を膨らませる遊びもしていました」(土橋さん)
女子大で建築系の学科を卒業後、青山の著名な家具メーカーに就職。結婚と出産で仕事を中断したものの、美しい部屋作りに携わっていたいとの強い思いが生まれ、毎日4時起きで「ユーキャン」のインテリアコーディネーター講座を受講し勉強したのだそう。「当時幼稚園児だった子供が起きてくる7時半までの約3時間が、私の唯一の勉強時間でした」と土橋さんは振り返ります。
大学や社会人経験で建築設計や家具作りの基礎が培われていたため、実技で必要な製図だけスクールに通って勉強し、難関と言われるインテリアコーディネーター試験を見事に突破したそうです。
「私は、今は自分のメインはお母さん業だと思っているんです。でも自分にしっかりとした資格があることで、自由のきく働き方ができています。仕事の時間は9時から5時まで、週に5日あちこちのメーカーのショールームやショップに出向いて、月に1本記事も書く。メーカーからのプレスリリースや展示会などで業界のプロフェッショナルたちから情報を得るなど、フリーの立場でいることが幸いして、情報感度を下げることなくコーディネート提案をしていけるんです」(土橋さん)
土橋さんのテーマは「豊かな日常生活」。インテリアの仕事に携わる人自身が無理をせずに豊かな生活を実践していることで、仕事でも彩り豊かな空間を作れる、というのが信条です。
インテリアコーディネーターは、今あちこちで引っ張りだこ。というのも、「マンションのディベロッパーのチラシ用にインテリアコーディネートできる人や、ショールームで働ける人の需要がとても高い」(土橋さん)から。また、土橋さんがこれからインテリアコーディネーターの需要がきっと高くなると感じているのが、病院やクリニックのインテリア。
「体の不調を持つ人が訪れる相談室などは、機能だけでなく明るく柔らかい雰囲気作りやプライバシーの確保が大切。建築の現場の人では気付かないことを、インテリアコーディネーターなら気付いて提案できるはずです」(土橋さん)
また、雑誌の企画で「20代女子の部屋を1万円でコーディネート」など、予算に制限のある中で答えを出すようなお仕事もあるそう。
「値段は手頃でも素材にこだわるモノと、機能重視で色味に気をつけつつ素材は割り切るモノの区別を伝授して、暮らしやすい部屋を作ってみました。するとその子が本当に喜んでくれて、『これで早く帰りたい部屋になりました』と。それまでは高めの予算を持つクライアントを相手にラグジュアリーな部屋を提案してくることが多かったのですが、20代のその女の子の件では、これまでに感じたことのない喜びがありました」(土橋さん)
また、プロの家具デザイナーさんが土橋さんのコーディネートを「自分のイメージと同じ」と喜んでくれた際には、「デザイナーさんの頭の中をのぞいたような、静かで確かな喜びを感じる」のだとか。素敵な空間はいろいろな人を幸せにするのですね。
これまでも十分に活躍し、プロとしての評価も高い土橋さんですが、将来は「商品のバイイングもしてみたい」との夢も持っています。年齢を経て培った「目利き」の力を発揮して世界中から質のいいものを卸し、「パーソナルコーディネーターのインテリアバージョンをやってみたい」のだそうです。
「インテリアコーディネーター資格は、取得すると各人に独自の登録番号が与えられるため、自信と説得力を持つことができます。実績がまだそれほどない段階でも、相手が話を聞いてくれたのは、決してすぐ取れる資格ではないインテリアコーディネーター資格を持っていたという力も大きかったと思います」(土橋さん)
「私の知り合いに素敵な茶人のおばあちゃまがいらっしゃるのですが、その方がいつまでも若々しいのは、ずっと手を動かして勉強を続けていらっしゃるからだと感じています。だから私も、一生勉強し続けていきたいんです」と笑う土橋さんの表情には、自信が光っていました。
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