テレビや雑誌などで大活躍の洗濯王子・中村祐一さん。あまり知られていない洗濯&アイロンがけの知識を、分かりやすく教えてくれる洗濯の達人です。中村さんは、実家のクリーニング店を継ぐ若き三代目。クリーニング屋の仕事を始めて驚いたのが、「洗濯がうまくいってない……」と感じている人の多さだったと言います。毎日の家事に欠かせないもののはずなのに、洗濯だけ置き去りにされてしまっているように感じたそうです。
「衣食住の中でも、食と住については情報があふれていますよね。料理は料理家がいて基礎から教えてもらえますし、住まいはインテリアコーディネーターのようなプロがいる。でも生活においての衣、特に洗濯には、そういう存在がいないんですよね。
たとえば料理なら、塩を入れたらしょっぱくなるという共通の認識があると思うのですが、洗濯にはそういった万人に共通した基準がないから、洗剤を選ぶにしても、なんとなく選んでしまうのかなって。だったら料理家と同じように『洗濯家』がいて、洗濯の基礎的なことを教えてもいいんじゃないかと思ったのが、今の活動を始めたきっかけです。僕がもっているプロの知識を家庭に入れることで、暮らしが変わったり、生活の質が上がったりするといいなと思います」(中村祐一さん)
キレイに仕上げる洗濯方法の伝授もそうですが、アイロンがけを日常のルーティンに取り入れることを推奨していきたいという中村さん。
「洗濯とアイロンがけは別々のものだと思われがちですが、僕にとってはアイロンがけまでが洗濯です。アイロンをかけていない洗濯物は、盛り付けもせずにフライパンのまま出された料理と同じ。もちろん洗いざらしの良さもありますが、アイロンをかけるとシワがのびるだけでなく、着心地も良くなり、衣服の寿命ものばせるんですよ。
あまりアイロンをかけることがないTシャツも、アイロンで形を整えると、首回りがすっきりしてだらしなさが払拭され、相手に与える印象が良くなります。衣服自体もそうですが、着る人の良さも引き立ててくれるところがアイロンがけの魅力です」(中村祐一さん)
しかし、アイロンの正しいかけ方が分からず苦手意識をもっている人が多いのも実情。そこで、「ちょっとしたコツをつかめば、アイロンがけがハマるほど楽しくなる」という洗濯王子・中村さんに、アイロンがけの基本と、Yシャツ、スカート、パンツのアイロンのかけ方を教えてもらいました!
アイロンがけのコツ①「平らに整える」
アイロンを手に持つ前に、衣服を平らに整える。
キレイにするためにアイロンをかけていたはずなのに、アイロンを動かすたびにシワが増えているような……という経験をしたことはありませんか?中村さん曰く、これこそアイロンがけが苦手な人に多い特徴なんだそうです。
「アイロンがけの仕上がりは、実はアイロンを持つ前に勝負が決まっているんです!アイロンがけが苦手な人は、いきなりアイロンを手に持ちがちですが、これがシワを増やしたり、深くしたりしてしまう原因。アイロンがけで一番大事なことは、まずはアイロン台に乗った部分の衣服を、いかに『平らに整え』られるかにあります」(中村祐一さん)
できるだけ平らに整えたら、いよいよアイロンがけ。
「ついアイロン台狭しとばかりに、縦横無尽にアイロンを動かしたい気分になりますが、それは衣服のズレや生地の縮れ、シワの原因です。アイロンがけを始める場所、つまり起点を決めたらそこからスタートし、生地の端で折り返して、1往復でシワをのばすのが基本です。右利きの人は右手にアイロンを持つと思いますが、アイロンに近い方を起点に左側の端までいったら、折り返して起点まで戻るということですね。
アイロンがけのコツ②「蒸らす」
スチームの湿った熱を繊維に与えて柔らかく。
そしてもうひとつ覚えてほしい基本は、最初に『蒸らす』です。シワはアイロンの熱だけではのばしにくいのですが、スチーム機能を使って熱と水分で蒸らすと生地の繊維が柔らかくなり、簡単にのばすことができます。
この性質を活かし、起点から行きの工程はスチームで蒸らしながら進めます。そして、繊維が柔らかい状態のままだとシワが戻る原因になってしまうので、戻ってくる工程ではスチームを止めて、今度は蒸気で湿った繊維を熱だけで乾かしていきます。
このときのアイロンは、生地の上をなめらかに『滑らせて』使います。さらに、1往復のアイロンがけではのびない深いシワや、キレイな折り線をつけたいところには、重点的にアイロンをギュッと『押し』つけます」(中村祐一さん)
アイロンがけのコツ③「滑らせる」
アイロンの重みを活かして、軽くスーッと動かすイメージ。
アイロンがけのコツ④「押す」
自分の体重をかけるようなイメージで。
ついアイロンを何往復もさせたくなりますが、生地の特性とアイロンの機能を最大限に利用すれば、最小限の動きでキレイにできます。また、アイロンがけが苦手な人が悩みがちなアイロンの温度調節については、「まずは洗濯表示に従ってやってみて!」と中村さん。洗濯表示には洗濯の基本が詰まっています。はじめは基本に忠実に行い、身につけることが大切。そうすれば自然と、手を抜いてもいい場所が分かるのだそうです。
「平らに整える」「蒸らす」「滑らせる」「押す」の基本の動作に加えて、実践編で知っておくべきポイントは、アイロンをかける服の「パーツ分け」をすること。袖や胴体など、パーツを意識しながらアイロン台に乗せます。
「面積が小さなパーツからアイロンがけを始めることをおすすめします。大きなところからかけてしまうと、動かしているうちに、せっかくキレイにした部分にシワがついてしまうことも。二度手間を防ぐためにも、基本は小さい部分からアイロンがけをはじめましょう」(中村祐一さん)
それでは、日頃よく使う3つのアイテム「Yシャツ」「スカート」「パンツ」で、アイロンがけを実践してみましよう。
Yシャツ:
3つのパーツを少しずつキレイに。全体の印象はピシッと整った襟で決まる!
分けるパーツとアイロンをかける順番:①襟 → ②ボタン部分 → ③袖(カフス部分→腕の部分) → ④胴体(後ろ身ごろ→前身ごろ)
①襟は半分ずつアイロンをかけるのがコツ
襟をアイロン台の上でキレイに整えます。襟の右端を起点に中央まで、スチームを出しながらアイロンを進めます。襟の中央のところでスチームを止め、起点までアイロンを戻します。残りの半分も、先ほどの工程を繰り返します。
「一気に端っこから端っこまでかけてしまうと、襟の先端にシワが寄ってしまいがちです。襟はシャツのキメポイントなので、ピシッとさせたいですね」(中村祐一さん)
②ボタン部分は裏からアイロンをかけるのがコツ
続いてボタン部分のアイロンがけ。裏側からアイロンをかけたいので、ボタンが下になるように広げて、手でキレイに整えます。
「裏からアイロンをかけると、ボタンを避ける必要がないので一気にキレイにできます!」(中村祐一さん)
③カフスの部分はアイロンの先を使って
カフスと腕の2つにパーツ分けをして、面積が小さいカフスからアイロンをかけます。カフスも襟と同様に、端から真ん中へアイロンを動かします。
④腕の部分は、縫い目を起点に揃えて
次に腕の部分。袖の下側にある縫い目を基準に手でていねいに平らにしていきます。整ったら縫い目に沿ってカフス側から脇(身ごろ)の方向にスチームを出しながら滑らせます。脇まできたらスチームを止めて戻します。
袖の残り半分にアイロンを移動し同様に。両腕ともできたら、袖は完了です。
⑤胴体部分は、左右半分ずつ仕上げるイメージで
胴体部分は裾が右側になるように置き、後ろ身ごろの半分をまずキレイに整えます。裾側を起点にスチームを出しながら進み、端にきたらスチームを止め、折り返して戻ります。半分まで繰り返したら、一度アイロンを置きます。
後ろ身ごろの上に前身ごろをキレイに重ね、同じ要領でアイロンをかけていきます。終わったら残り半分がアイロン台の上に乗るように、Yシャツを静かに横にスライドするように移動し、同じ動きを繰り返します。
「キレイにアイロンがかかったシャツがクローゼットの中に並んでいると、すごく整理整頓されている感じがするので、扉を開けたときの爽快感が最高ですよ!」(中村祐一さん)
スカート:
筒状の衣類は、アイロン台の先端をうまく活用!
分けるパーツとアイロンをかける順番:①腰回り → ②腰回り以外の部分
①下から上への繰り返しで、腰回りをぐるりとキレイに
ウエスト部分をアイロン台の先端にかぶせ、できるだけ平らに整えます。ウエスト側を起点に下側にアイロンを滑らせます。少しずつ位置をずらして腰回りをぐるりと一周アイロンがけをします。
「アイロン台は足がついているものが理想的です。足がついてないタイプを使っているなら、バスタオルを丸めて平らな面を作り、ウエスト部分に入れてアイロンをかけてもOKです!」(中村祐一さん)
②腰回り以外の部分は、裏地と一緒にアイロンをかけてもOK!
次に腰回り以外の部分。裾側からアイロン台の先端にスカートをかぶせて、手でていねいに整えます。裏地があるスカートの場合は、裏返して裏地と一緒にかけてしまうのもOK。
裾側を起点に腰回りの方向へアイロンを滑らせます。少しずつ位置をずらして、ぐるりと一周アイロンがけをします。
柔らかい素材のスカートは、ハンガーに吊るしてスチームで蒸気をあてるだけでも、ある程度シワがのびます。
「素材によっては温度の影響を受けることがあるので、サテン素材など初めての素材をアイロンがけする場合は、洗濯表示をしっかり確認しましょう」(中村祐一さん)
パンツ:
脚の縫い目をキレイに揃えるのが最大のコツ!
分けるパーツとアイロンをかける順番:①腰回り → ②脚の部分
下準備:まずはパンツを裏返し、縫い目を広げてアイロンがけ
センターに折り目をつけるタイプのパンツの場合、裏側の縫い目部分をしっかりと広げるようにプレスをしておくと、表に返したときに起点が作りやすくなります。
①アイロン台の先端にかけ、腰回りをぐるりと一周
ウエスト部分をアイロン台の先端にかぶせ、できるだけ平らに整えます。ウエスト側を起点に下側にアイロンを滑らせます。少しずつ位置をずらして、腰回りをぐるりと一周アイロンがけをします。
②全体の印象を決める、脚の部分のセンタープレス
脚の片方をアイロン台の上に整えます。このときのポイントは、外側と内側にある裏の縫い目をきちんと重ねること。
縫い目が揃ったら、まずは縫い目の部分にアイロンをかけます。ここは、パンツの脚部分のアイロンがけの起点になります。
縫い目から外側へ向かってアイロンを滑らせ、折り返し戻ります。下まで繰り返し、同様に反対の脚も行います。
「パンツのキメポイントは、センターのプレス加工。裾側から股の方へ縦向きにアイロンを動かしがちですが、線がズレやすく失敗の原因に。しっかり起点からアイロンをかけていくことで、キレイなラインが仕上がります。線の終わりは、ポケットの下部分の上下1㎝くらいを目安にすると、バランス良く決まります」(中村祐一さん)
中村さん直伝のアイロンのかけ方のコツは、いかがでしたか?「スチームの使い方を間違っていた……」などの声が聞こえてきそうですね。今回ご紹介したポイントさえ押さえておけば、今までとは見違えるアイロンの仕上がりになるはずです。
また、「Tシャツやパジャマでも、ぜひアイロンがけを試してほしい」という中村さん。普段アイロンをかけないアイテムこそ、着心地の違いが歴然で、アイロンの威力を感じやすいのだとか。
「生活の中でアイロンがけが日常化していない人も多いと思いますが、ぜひ日常の一部にしていただきたいですね。毎日だったり、1週間ごとだったり、リズムは人それぞれでいいと思います。
アイロンの登場回数が増えるほど、アイロンがけは上手になり、キレイな状態の服が増えていきますよ。服のポテンシャルと、自分の魅力を最大限に引き出しておしゃれを楽しむためにも、ぜひアイロンの登場回数を増やしてほしいですね」(中村祐一さん)
お掃除スペシャリスト講座へのリンク
整理収納アドバイザー講座へのリンク