部屋の中にトーテムポールのようにそびえ立つ漫画や本、ベッドを我が物顔で占領する洋服たち……。かつて私の部屋で支配権を握っていたのは、部屋の主の私ではなく、おびただしい数の物、物、物でした。そして私自身、毎日毎日、そんな自分の状況にウンザリしていました。
おびただしい数の物に支配されることで、忘れ物は当たり前、出かける準備もスムーズにできなくて約束の時間には大体遅刻……。母も、いつも私の部屋を見る度に「汚っ!」と捨て台詞を吐いていました。
それでも、持ち前の明るさと周りの友人の助けによって、なんとか乗り切ることができていたんです。しかし、そんな笑いの絶えない「片付けられない女」も、結婚を機に笑っていられなくなったのでした……。
結婚後は片付けられないことでパニックの連続
一人なら片付けられなくてもなんとかやってこられたんですが、自分以外の人と一緒に暮らすとなると困難の連続です。大事な書類は、期日が守れないどころか紛失。待ち合わせは、準備に追われて時間の管理ができず遅刻ばかり。片付けられないことで起こる失くし物や忘れ物、遅刻によって、私は家族からの信用を著しく失いました。そんな悩みのどん底で、変わりたいと一念発起したのが「片付け」を始めたきっかけでした。
試行錯誤の末、今では「片付け」を仕事にしているという驚き
それから数年が経ち、昔の自分からは考えられないことですが、私は今や「片付け」を仕事にしています。時間は掛かりましたが、しっかりと片付いた状態をキープできるようになっているというミラクル。未だに信じられない極みです。
私が片付けを通じて求めた暮らしは「シンプルライフ」や「ミニマルライフ」なんていうスマートな響きのものとはチョイと違うかもしれません。どちらかと言えば、ひらがなと漢字で「かんたんに暮らす」。こちらの方がしっくりくるかも(笑)。
かっこよく丁寧に暮らすことが生活の基準ではなくて、物事を考える軸はいつでも、一緒に暮らす家族や周りにいてくれる大事な人たちなんです。そう考えると、彼らが私を変えてくれたと言えるかもしれません。
使っていない物は期限を決めて封をして、期限内に開封されなかった場合はそのまま捨てています。
片付けの方法を調べたり学んだりしたことがある方はご存じだと思いますが、どの片付けの方法にも、必ず「減らす」という工程があります。
物を「減らす」コツとは?断捨離はこうして実践しよう
まず、片付けたい場所にある物を、「最後に使った記憶がある物」「最後に使った記憶がない物」に分けます。
「最後に使った記憶がある物」は、「日常的に使っている物」もしくは「愛情がある物」のどちらかに該当するはずです。例えば、お茶碗や食器など昨日今日で使った記憶がある物は、「日常的に使っている物」ですよね。またワイングラスなど、普段はあまり使っていなくても、最後に使った記憶が誕生日や結婚記念日など「愛情がある物」は、記憶に残りやすいです。
年に1度しか使わないお重なども、最後に使った記憶が明確ですし、特別な器なので、思い出も愛情もあるでしょう。長い間使っていなかったとしても、使った記憶さえあれば置いておけばいいのです。物を「減らす」ことは大切ですが、手放して心が寂しくなるようでは失敗です。そこにあるだけで心が落ち着くという物もあり、それは立派な精神安定アイテムなので、残しておくべきです。
一方で、「最後に使った記憶がない物」に関しては、「あらやだ!こんなところにあったのね」というふうに、突然発掘することが多いですよね。人という生き物は、それを見つけた瞬間、急に思い出や愛着を感じてしまいがちですが、残念ながらそういう物は、ほとんどが「なくても暮らしに影響がない物」です。潔くサヨナラしましょう。
断捨離で「減らす」が終わったら「配置する」「維持する」
「減らす」作業が終われば、こっちのものです。「配置する」「維持する」作業に入っていきましょう。
「配置する」際に悩んでしまう方も多いんですが、長期的に置く場所を考えるから難しくなっちゃうんですよね。家族は成長しますし、増えたり減ったりもします。私たちも年をとりますし、暮らしはどんどん変化していくんです。ですから、あまり先のことまで考え過ぎずに、今の暮らしやすさだけを考えた配置をすればいいんです。暮らしが変わったら、その都度、家族で話し合って配置を変えていけばいいんです。
また「配置する」際は、複雑に細かく仕切る、外から中身が見えないように収納するなど、見た目を優先した収納方法は避けた方がいいです。そういった収納方法は、片付けビギナーにとって、自分の首を締めるだけですから。
そういった収納方法でないと片付かないということは、スペースに対して物が多過ぎるということです。スペースに対して物の量が適正であれば、複雑な収納は不要です。大きな箱に物をどかっと入れるだけ、フックに掛けるだけ、重ねて置くだけなどゆるい方法でOKです。
何度も言いますが、暮らしは必ず変化するものですから、配置はゆるく考えましょう。収納方法も、暮らしの変化に柔軟に対応できる、ゆるいものがオススメです。
そして、一番難しいのが、片付いた状態を「維持する」ことです。「維持する」には当然、定期的に片付けをしなければいけないわけですが、毎日必ず片付けの時間を捻出するなんて、ハードルが高過ぎますよね。
最初は、週に1回か2回でいいんです。それに慣れてきたら週3回に、またそれに慣れてきたら週4回に……というふうに、片付けの習慣は長期的に身につけることがポイントです。牛歩スタイルが一番確実。片付けは、日々の暮らしでずっと付き合っていくものですから。
取捨選択をして、必要な物だけで暮らし始めると、困難の連続だったあの頃が嘘のようです。
片付けられるようになったことでの具体的なメリット
あんなに失くし物や忘れ物が多かったのに……。自分が管理できる量まで物を減らしただけで、失くし物や忘れ物はほとんどなくなりました。家族からの信用も、今では回復していると思います(笑)。
準備に手間取り、段取りも悪く、万年遅刻魔だった私ですが、ここ数年は、初めての土地だったり、横断歩道を渡りきれないお年寄りや、風船が木に引っ掛かって泣いている子どもが道中にいたりしない限りは(笑)、5分前行動を徹底できるようになっています!以前の自分を振り返れば振り返るほど、感動しかありません。
片付けることで家族にも変化が
私が片付けられるようになるに連れて、子どもたちの遅刻や忘れ物もどんどん減っていくという、ミラクルも起きました。小学1年生の家庭訪問では、忘れ物の話だけで時間をフルに使われるほど深刻な忘れ物少年だった息子も、今ではほとんど忘れ物がありません。娘にいたっては、忘れ物をするおそれのある友だちの分まで持参することさえあります。私は、子どもの頃はもちろん貸してもらう側だったので、娘が真逆のタイプの人間に成長していることに、ただただ驚きを隠せないでいます。
人を変えることは難しいですが、自分が変わることで、人を動かすことはできます。私が直接子どもたちを変えたわけではないですが、自分が先に変わることで、子どもたちを動かすことに繋がったんだと思います。
また、物が減ることで、物理的に阻む物がなくなり、動線が確保され、仕事や学校の準備などもスムーズにできるようになりました。その結果、家族みんなが、誰かに頼ることもなく、自分のことは自分でできるようになっていったんです。
そして、気付いたら普段感じていたモヤモヤもなくなり、家族との会話やコミュニケーションを隅々まで楽しめるようになっていました。物を減らしてからは、毎日どうでもいいことを話して笑って、くだらないことでワイワイ盛り上がっています。夫婦の会話も増え、家事も旦那さんと一緒にテキパキとこなせています。
「ゆるいミニマリスト」と「ミニマリスト」の違い
おそらく、一般的な「ミニマリスト」は、「物」も「こと」もミニマルにしたいという方が多いのではないでしょうか。しかし、「ゆるいミニマリスト」の私は、「物」と「こと」は別で考えています。ややこしい話ではありますが、私は、無駄な「物」を排除し、手間が減って時間が空いた分、余計な「こと」をいっぱいしたいんです(笑)。それが私の「ゆるい」部分だと思います。
余計な「こと」というのは、やらなくても生きていけるようなこと。私の場合は、休日には仲の良い友だちと料理を持ち寄ってお酒を飲みたいですし、家族ともいろんな体験をしたいですし……そんな時間を確保するために、私は片付けを行っています。
私が目指しているのは、生活に必要な最低限の物だけで暮らそうという「ミニマリスト」とはチョイと違います。人生に必要でない物だけ手放していこうというくらいの、絶妙に「ゆるいミニマリスト」なんです。というのも、私にとっての「必要最小限の物」の中には、「生活には必要はないけれど、私が好きで、私の人生には必要な物」がたくさん含まれているからです。
大切なのは、「物の適正量」です。自分が管理できる範囲なら、いくら物を持っていてもいいと思っています。「物の適正量」のストライクゾーンは人によってそれぞれ。誰にでも当てはまる正解なんてないんです。「物の適正量」の基準になるのはいつでも、他人ではなく自分の暮らしですから。
「頑張って断捨離や片付けをしなきゃ!」なんて気を張る必要のない、自分が無理をしなくて済む「ゆるいミニマリスト」の暮らしを、あなたも実践してみませんか?
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