今回お話をうかがったのは、「女子力男子」という言葉の生みの親である、若者研究の第一人者・原田曜平さん。2014年にその名もズバリ『女子力男子』という本を出版し、リアルな女子力男子の実態について大解剖しています。『女子力男子』の出版時点では、主に都市部に多く存在していたという女子力男子ですが、現状はどうなっているのかお聞きしました。
「女子力男子は、今でもやっぱり首都圏や都市部に多いのですが、じわりじわりと地方にも浸透している感じはありますね。だから、割合的には増えていると言えると思います」(原田曜平さん)
全国で徐々に増え続けているという女子力男子。確かに、ひと昔前に多くいた「俺について来い!」といったタイプの男性を、昨今あまり見なくなった気がします。日本の男子に、一体何が起こっているのでしょうか?
「女子力男子が生まれた理由は、何か1つじゃなくて、いろんな要素が重なり合った複合的なものなんです。その中でも1つの大きな要因として挙げられるのは、お母さんの影響でしょうね。
女子力男子のタイプとして最も多いのが、毎日化粧水をつけたり日焼け止めをぬったりする、スキンケアにこだわる子たちなんです。彼らの多くは、お母さんの影響で化粧水を使い始めているんですよね。恋人の意見や雑誌を参考にしているわけではないんですよ。お母さんから『ニキビができているから、化粧水を使ったほうがいいんじゃない?』『そんなお肌じゃ、女の子にモテないわよ』『私が買ってきたの、一緒に試してみる?』などと言われて使い始めていることが多いようです。
つまり、本人というよりはお母さんの意思なんです。そんな美意識の高いお母さんたちというのは、まさにバブル時代に青春時代を謳歌した世代。だから自分の息子にも美しくいてほしいと思うんですよね。その結果、息子たちにも美への意識が芽生えたんです。
その世代のお母さんって、まだまだきれいだし、感覚がものすごく若いんですよね。アドバイスはするけど、決して押し付けがましくないから、今の若い子たちと相性がいいのだと思います」(原田曜平さん)
また原田さんは、SNSの影響も大きいと言います。
「ここ数年だとYouTubeやインスタ(Instagram)の効果は絶大です。特にインスタは、情報をシェアする女性にとって、とても有用なSNS。だから、タイムラインに女友達やフォローしている人の美容情報が頻繁に流れてくるというのは、もはや日常茶飯事なことであり、男子にとっては影響力が大きいと思います。
そもそも男って、それほど発信するものがないんですよ(笑)。だから女の子の情報が圧倒的に多く流通するようになった今、それを毎日のように見ていたら、自動的に美への意識が高くなりますよね。ファッションやスイーツについても同じだと思います」(原田曜平さん)
日々、お母さんの意見を聞いたりSNSの投稿を見たりしていれば、自ずと女子との共通項も多くなる。だから女子と会話も続くし、楽しい。確かに、男子にとっても女子にとっても、いい世の中なのかもしれません。では、そんな女子力男子のことを、女子たちはどう思っているのでしょうか?
「今の若者男子って、反抗的な子や挑発的な子がいなくて、全体的にやわらかくてマイルドなんです。高校生や大学生の女子に聞いても、同世代の男の子は優しいってみんな言います。逆に、優しくない子っていないんじゃないですかね。
でも女子の意見をきくと、少々頼りないって思われているフシがありますね。時には『俺について来い!』的な要素も持っていてほしい、というのが本音のようです。そもそも、女子力男子自体がモテを狙っているわけではなく、『性別関係なく受けたい、共感されたい』という意識の方が強い。だから、良くも悪くも『ただ女性化している』というように映っているのかも」(原田曜平さん)
なるほど。女子力男子に対する女子の本音は、「優しくて付き合いやすいけど、どこか頼りない」といったもののよう。いつの時代も女心は複雑です。
原田さんいわく、日々化粧水を使っているぐらいでは、もはや特筆すべき女子力男子にはカテゴライズされないくらい常識化されているようです。そこで、特に女子力の高い女子力男子の特徴について教えていただきました。
「もっと美容について熱心な『ビューティー男子』や『美白男子』とか、インテリアに凝っている『DIY男子』、空間にこだわる『アロマ男子』、料理上手な『料理男子』『弁当男子』、お菓子も自分で作っちゃう『スイーツ男子』など、様々です。あとは、母親とものすごく仲が良くて、どこへでも一緒に出かけちゃう『ママっこ男子』っていうのもいますね。
これらも、社会の変化が影響しているんです。働き方改革によって、昔に比べて残業もしなくなってきたし、お金を使って外で飲んだり朝まで遊んだり、ということも圧倒的に少なくなりましたよね。全体的にみんなの意識が家の中に向いているんです。それに、以前と比べて男子が美容やアロマや料理などのジャンルに接する機会も多くなった。だから自然の流れなのかな、と思います。
昔っぽいワイルドな男子や高級外車に乗っている男子って、確実に数が減っているから、みんなも付き合いにくいでしょうね。でもその一方で、希少価値になっていたりもする。だから、そういう男子はちょっとした伝説の人になっているパターンもありますよ(笑)」(原田曜平さん)
最後に、女子力男子のこれからの可能性について聞いてみました。
「女子化してきているといっても、やっぱり女性に比べると美意識には大きな差があります。だから、どんどんエスカレートして本当に女の子みたいになっちゃうか、と言えばそうではなく、化粧水を普通に使う程度の男子の割合がどんどん増える、くらいだと思うんです。でも、あと5年、10年先にはそんな男子たちが世の中を動かしていく世代になる。そうなるといろんな市場が変わってくるでしょうね」(原田曜平さん)
女子力男子は日本の未来を担っていく重要な存在なのですね。女性のみなさんもこれを機に、女子力男子の実態について知っておくといいかもしれません。
生活心理学講座へのリンク
コミュニケーション・スキルアップ講座へのリンク