東京・世田谷にある、さくらしんまち保育園は、楽しくおいしい給食を保育方針の1つに掲げ、子どもたちが「食べることが好きになる」ための、偏食や食べムラへの独自の取り組みが注目されています。
一般的に、子どものおよそ8割に偏食があると言われている中、さくらしんまち保育園に通う子どもは、給食を残すことがほぼないのだそうです。その秘密は、「食事の方法」と「レシピ」にありました。
さくらしんまち保育園が行う、子どもの偏食や食べムラを解消するための取り組みの1つである「食べることが好きになる」食事の方法について、小嶋園長にお話をお聞きしました。
1.食事が子どものストレスにならないよう、決して無理強いをしない
「子どもの成長や栄養バランスを考え、ついつい子どもに『食べなきゃだめ』と言ってしまうお母さんも多いのではないでしょうか?でも、子どもにとってはそのプレッシャーが食べることへのストレスとなり、偏食や食べムラの原因になってしまいます。
そのため、さくらしんまち保育園では、子どもに『心地良く前向きな気持ちになれる食事環境を作る』ことを大切にしています。
食事に対する嫌な気持ちがない状態になって初めて、『食べてみようかな』という気持ちが出てきます。子ども自身が食べたいと思える状況を整えることが重要なんですね。子どもにプレッシャーをかけず、好きなものや嫌いなものを主張することができるようにする。また、お腹が空いたら、自分が食べたいと思うタイミングで食事がとれるようにする、という状況を整えます。
各家庭のライフスタイルが違うので、朝ごはんの時間や登園時間も子どもによって違います。お腹が空くタイミングもバラバラです。そのため、さくらしんまち保育園では、給食を食べる時間を自由に選べるようにしているんです。『お腹が空いた』『食べたい』と思う子どもが5人集まったら1組として、それぞれに給食を食べ始めます。自分たちの意思で食べるので、子どもたちは食べることを楽しめるのです。
また苦手なものについても、一緒に食べている子どもが自分の苦手なものをおいしそうに食べていたり、『おいしいね』と話している姿を見たりして、『食べてみようかな』と挑戦する姿も見られます。そして、苦手なものが食べられた日の翌日は特に大事ですね。『昨日は食べられたね、今日はどうする?』というふうに先生からも声をかけます。
周りの子どもがおいしそうに食べているのを見たり、先生による『これ、少し食べてみる?』などの声かけを受けたりしているうちに、苦手意識を持った食材やメニューに興味を持ち始め、その子のペースで自然と偏食が少なくなっていきます」(小嶋園長)
2.子どもの意思で食事の量やメニューを選べる「セミビュッフェ形式」で責任感を持たせる
配膳にも工夫。盛り付けて並べる際も、少なめに盛ったものを混ぜて園児が選びやすくしています。
「食事のタイミングを選べるだけではありません。配膳を『セミビュッフェ形式』にして、好みやその日の体調によって、子どもが自由に分量を調整できるようにしています。
『何をどれだけ食べるか』を、子ども自身が自分の意思で決めるので、食事に対して満足感と責任感を持てるのです。この満足感と責任感から、給食を残すことがほとんどないというわけですね」(小嶋園長)
3.料理や食材を身近に感じてもらう
「食べることだけではなく、食材にも興味を持ってもらうように工夫しています。『見る』『触る』『名前を覚える』などの方法で、食材を知ることができる機会を設けていますね。
例えば収穫体験を行い、トウモロコシの皮をむいて食べる前の状態を見てもらったり、触って興味を持ってもらったりします。また献立には、旬の野菜や魚など季節の食材を必ず入れて、子どもがその食材を知るきっかけにもしていますよ。
子どもが、そのままでは食べづらい食材、例えば『みょうが』なら、食べやすいように味噌汁に入れて香りを感じてもらうなど、食材の旬や季節を身近に感じてもらえるように工夫しています。
子どもの偏食をなくすためによくやりがちな『苦手な食材をわからないように細かく刻んで、料理に混ぜて食べさせること』はしません。気づかないまま食べることができても、意味がありませんよね。
さくらしんまち保育園では、食材を目で見てわかる大きさで調理しています。それぞれの食材を認識することで、子どもが好きなものや嫌いなものを自発的に選び、食べることを楽しむようになれると思っています。
また、厨房を子どもの目の高さからでも見える造りにして、料理を作っている様子が自然に目に入るようにしています。
おいしく作ることももちろん重要ですが、食べることが好きになるように提供方法を工夫することで、子どもの食への興味が湧き、偏食や食べムラ防止につながると考えています。『食べることを楽しいと思ってもらうこと』と『楽しく食べる食卓にすること』が大事です」(小嶋園長)
子どもに食べることを楽しんでもらうために、家庭でも、器によそうときに子どもに食べたい量を聞いたり、料理を手伝ってもらったり、一緒に食材を買いに行ったり……そんなところから、取り入れることができそうですね。
もう1つの、子どもが「食べることが好きになる」ための取り組みは、さくらしんまち保育園の給食のレシピ。季節の食材やだしにこだわって作られるメニューは、大人も満足する味なのだそう。今回はその中でも、特に子どもに人気があり、家庭でも作れるレシピについて、さくらしんまち保育園の給食を担当されている、 栄養士の鈴木さんにお聞きしました。
秋刀魚のひつまぶし
ひつまぶしは鰻が一般的ですが、秋刀魚にすることで小骨や味の癖が少なく、子どもにも食べやすくなります。
※もっとさっぱりと食べたいときは、きゅうりを増やしたり、千切りの生姜や大葉、みょうがやたくあん、刻み海苔などを上から散らしたりすると、一味変わっておいしさも広がります。
納豆チヂミ
納豆は過熱することにより臭いが和らぎ、食べやすくなります。
※じゃがいもに含まれる水分量の違いなどで、生地が緩くなってしまうことがあるので、ホットケーキを作るときの生地の緩さを目安に小麦粉の分量などを調整します。
きのことベーコンの和風スパゲッティ
ベーコンとコーンの甘みが、子どもにとっても親しみやすい味です。きのこは、冬はほうれん草、春には菜の花に変えれば、季節を楽しむメニューに変身します。
大根餅
桜えびの風味ともちもちとした食感が、「お餅みたい!」と人気のおやつです。
※蒸し器ではなく電子レンジで蒸すこともできます。耐熱容器にラップをして、500ワットなら約6分、600ワットなら約4分蒸してください。透き通っていく様子を見ながら、必要であれば時間を足してください。
いきなり団子
いきなりとは熊本の古い方言で「簡単」という意味です。家庭でお子さんと一緒に簡単に作れる、人気のおやつメニューです。
さくらしんまち保育園の子どもたちのように、「食べることが好き」になると、自然と偏食や食べムラもなくなっていくことでしょう。
子どもの身体や健康を考えて、ついつい食べることを強要してしまいがちですが、大切なのは食事を楽しむ環境を作り、子どもに「食べることを好き」になってもらうこと。子どもの気持ちを考え、食べる楽しさを感じられるシーンを増やしていきましょう。
子どもが食べることを好きになる環境作りには、私たちの食への正しい理解、食材への知識も大切です。ご興味を持たれた方は、この機会にぜひ、食について学んでみてくださいね。
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