――食育インストラクターとして活躍中の和田さんですが、結婚当初は料理音痴だったというのは本当ですか?
私の両親は料理好きなのですが、私自身は料理に興味がなかったんです。例えば、キャベツとレタスは同じ野菜で、方言で呼び方が変わるのだと思っていました(笑)。つまり、球状の葉っぱを北ではレタスと呼び、南ではキャベツと呼ぶんだろうなと。他にも、貝は大きさで呼び名が変わると思っていて、小さい貝がシジミで、中くらいはアサリ、大きい貝はハマグリとか……もちろん、豆腐に絹と木綿があるなんて知りませんでした。
結婚してからは、夫が持っていた料理本を見ながら、最初のページから順番に1つずつ作っていったけど、夕食を作るのに4~5時間もかかって、もう毎日ヘトヘトでした。
――お義母さまが料理愛好家の平野レミさんとのことですが、それは結婚前からご存じだったのでしょうか?
夫と出会ってすぐの頃は知らなかったんです。家にあった料理本を見て、「これ全部、レミさんの本なんだ」「こんなに主婦から支持されているスゴイ人なんだ」とわかり、「(料理音痴なままだと)ヤバイ」って(笑)。
結婚してからは近所に住んでいるので、おかずを「はい、食べな~」って持ってきてくれたり、妊娠中につわりで具合が悪いときに食事を作ってもらったり。でも、私の料理には一切口出しせずに見守ってくれていました。もちろん料理を教えてもらおうと思ったのですが、はじめはそもそも何を聞いていいのかすら分からなくて、聞いたら失礼だと思っていたんです。ようやく質問ができるようになったのは、ある程度料理を作れるようになり、レシピに疑問を持てるようになってからでしたね。
――料理が苦手だった和田さんですが、今は料理を仕事にされています。「料理が楽しい」と思ったきっかけは何だったのでしょうか?
おいしいお味噌汁が作れた時ですね。今考えるとびっくりするのですが、昔はお味噌汁の作り方も知らなくて、ただのお湯に味噌を溶いたものを作っていたんです。あるときレシピに「かつおだし」と書いてあったけど、それが何だか分からず……、ネットで検索して、初めてだしの取り方を知りました。「何だかわからないけど、魚のカスみたいな鰹節っていうもので作るんだ」って(笑)。
さっそく家でだしを取って飲んでみたら、「知ってる味だ! お母さんが作ってくれた、そうめんのつゆと同じ香り。あれは、かつおだしだったんだ~」って感動!
それでお味噌汁を作ってみたら、ただのお湯に味噌を溶いたものとは全然違う味で、とても美味しくて。そのときに「料理ってこれだ、面白い!」って思ったんです。
――旦那さまは明日香さんの料理をどう思っていたのでしょう?
夫は、食べたら必ずコメントしてくれます。私と味の好みが合うので、否定的なことを言われた記憶はないですね。最初の頃は本当に自信がなくて、「今日はしょっぱいと思うんだよね、しょっぱいと思って食べて」みたいに私の方から先にハードルを下げたり、せっかく餃子を作ったのに焼くときに大失敗して、「今日のごはんはありません」って泣きながら電話したこともありました。
そんな私に対して、否定的な言い方ではなく「ちょっとお酢かけてみようか?」「俺はこれだと豆板醤がいいかな~」って、上手にコメントしてくれるんです。そんなアドバイスをもらいつつ毎日作っていくうちに、1時間かかっていたものが30分になったり、自分なりのアレンジができたりして、どんどん料理が楽しくなっていきました。
――仕事として料理を始めたのはいつからですか?
長女の離乳食が始まった頃です。ちょうどレミさんが離乳食の本を出すことになって、「現役(の母親)なんだから手伝いなさいよ」と言われたのがきっかけでした。一緒に本に載せる離乳食のレシピを考えたり、撮影用の調理をお手伝いしたり、テーブルコーディネートをしたり。レミさんの家でアットホームな雰囲気で撮影をすることが多かったので、端っこでちょこちょこと手伝うことから始まりました。
――仕事として料理をしてみて、いかがでしたか?
家でやる料理と仕事でやる料理は、全然違うと思いました。
仕事でやる料理は、小さじ何分の一単位で繊細に味付けをしたり、おいしく見える盛り付けを工夫したり、プロの試行錯誤のうえにレシピがあるんです。手伝わせていただいているレミさんのレシピは、洗練されていて手間も省かれてムダがないんですけど、そのレシピが完成するまでにすごく努力を重ねられています。そんなところを間近で見て、レミさんをプロとして本当に尊敬しました。
料理には終わりがなくて、できるようになったらOKじゃありません。仕事として料理をすることで、料理は突き詰めていくとどんどん面白くなっていくものだ、と改めて感じさせられました。
――食育の資格を取ろうと思ったきっかけはありますか?
あるとき「レシピ本を出してみては?」という仕事のお話をいただいたのですが、全然自信がなくて踏み出せず……。どうすれば自信がつくのだろうと考えたときに、夫が「何か資格を取れば説得力もつくし、肩書きができて周りからも分かりやすくなるんじゃないか?」と背中を押してくれたんです。
いざ資格を取ろうと決めてからは、どの資格をとるかも悩みました。
料理に関する資格はたくさんあってどれも面白そうでしたが、「仕事のため」という側面が強い調理師や栄養士といった資格を取るよりは、プライベートにも活かせるものを学んでみようと思いました。3児の母の私の生活の95%は子育てだったので、そのほうが自分のためになるかなと思って。それで食育に関係する資格を取ることにしました。
――いざ、資格取得のための勉強をしてみてどうでしたか?
空き時間を見つけて毎日ちょっとずつ勉強しましたが、とにかく面白くて! 例えば「この野菜は生で食べるより炒めたほうがおいしいから調理していたけど、味だけじゃなくて栄養面でも炒めたほうがよかったんだ」という風に、今まで手探りでやってきた料理を栄養や調理方法などの勉強として落とし込んでいく感じ。
「現代の子どもの食にまつわる社会問題」といった新しい学びもあって興味深かったですが、基本的には今まで4~5年間やってきた料理を思い返しながらの学習がほとんどだったので、学習自体は全然大変じゃなかったですね。「この食材の組み合わせにこういう相乗効果があるなら明日作ってみよう」とか、献立のヒントにもなって実用的でした。
――食育の資格を取得してよかったことは?
肩書きがあれば、「じゃあ、食育をテーマに」となった時にも専門的で具体的な話ができます。これまではただの「料理音痴だったけど、今はできるようになったレミさんちの嫁」でしたが、「食育のことを聞いたら、ちゃんと答えてくれる人」になれました。それから、周囲からの信頼も高まってきたように感じます。
例えば、食育の知識があると、「今日はキャベツのサラダを作りましょう」と伝えるときに、「春キャベツはやわらかくて甘みが強いので、野菜が苦手なお子さんでも生で食べやすい。さらに、生だと熱に弱い栄養素も壊さずに食べられ、春キャベツに多く含まれるビタミンCやカロテンなどを効果的に摂取できる。だから春キャベツはサラダで食べなきゃもったいない!」といったウンチクがつけられるようになりました。そうすると説明に説得力が増し、多くの人に真剣に話を聞いてもらえるようになりました。
そして何よりも、自分に自信がついたことが大きいです。仕事としてやっていくうえで、私はきちんと説得力を持ちたいと考えているから、資格を取って正解だったと思います。
――これから食の学習をしてみたいという人にアドバイスをお願いします。
勉強だと思わず、正解とか気にせず、まずは自分の食べたいものをどんどん作ってみるといいと思います。栄養や調理法などの基礎的なことはいつでも学べるから、自分の興味をひたすら包丁とまな板にぶつけて、どんどん料理を作っていくことが一番の勉強になるんじゃないかな。そうして料理をしていると「なぜチャーシューにヒモを巻くの?」とか「塩じゃなくて、この調味料を使うのはなぜ?」とか、ふとしたことに疑問がわいてきます。そのときが勉強の出番! わからないことがでてきたときに開けるテキストがあったり、質問できる先生がいたら、より理解が深まっていくと思います。
食育に限らず、介護食だったり、ダイエット料理だったり、世界中のレシピを学んだり……「食」の資格はたくさんあるから、とにかく料理をして、自分が好きなもの、学びたいことを見つけてみてはいかがでしょうか。
料理が苦手なところからスタートして、食育の資格を取るまで腕を磨いた和田さんのお話、いかがでしたでしょうか? 料理が苦手な方もとにかく作ることからチャレンジしてみてください! ここではさらに、食育の意義と取り組みについて詳しくご紹介します。
プロフィール
和田明日香さん
食育インストラクター。3児の母。各メディアでのレシピ紹介、企業へのレシピ提供など、料理家としてのほか、情報番組コメンテーター、コラム執筆など、多方面で活動中。
オフィシャルブログ:http://lineblog.me/askawada/