ファイナンシャルプランナー(以下FP)として、個人を対象とした相談業務を中心に活動している飯村久美さん。飯村さんの事務所には、30~50代のファミリー層を中心に、多くのお客様が家計の見直しやライフプランの相談に訪れるそうです。そんな飯村さんがFPの資格を取ったのは、今から約20年前。金融機関に勤めていた時に、同僚からFPの資格講座に誘われたのがきっかけでした。
「当時は、FPの資格は今ほど注目されておらず、私も『自分のスキルアップに繋がればいいな』と思う程度でした。講座では、ライフプラン、保険、税金、資産運用、不動産、相続の6分野を学んだのですが、住宅ローンの仕組みや給与明細の見方など生活に密着した内容が多く、興味を持って楽しみながら勉強した記憶があります。半年間ほど勉強して試験を受け、FPの資格を取得しました」(飯村久美さん)
FPの知識は、その後どのようなことに役立ったのでしょうか?飯村さんは例として、専業主婦になってから、ご自身のライフプランを立てた時のことを話してくれました。
「私は、結婚・出産後も仕事をしていたんですが、とても忙しい状況でした。そんな時、夫が長期の海外出張になり、一人で子育てをしなければならなくなったんです。仕事との両立は難しく、会社を退職することになりましたが、当然、家庭の収入は減り、この先どうしたらいいか不安になってしまいました。
そこで、FPの勉強で得た知識をもとに、ライフプランを立ててみました。家族のこれからのイベントや夢をおおまかにシミュレーションすることで、『子どもが何歳になったら仕事を再開できるか』『マイホームの購入に適したタイミングはいつか』など、目先のことだけではなく、家族の将来を見通すことができ、目標を持てるようになったんです。漠然と抱いていた不安も解消されました」(飯村久美さん)
この経験がFPとして仕事をする原点になったと、飯村さんは言います。
「私と同じように、子育てで忙しく、時間もお金も限られた中で生活しているお母さんたちを、FPの知識を使って応援したいと思いました。自分の夢とお金をリンクさせたライフプランをきちんと立てられれば、お金に振り回されず楽しく生活できるということを、実感して欲しかったんです」(飯村久美さん)
飯村さんが目指したのは、世の中のお母さんたちを直接サポートできるFP。そこで飯村さんは、企業に勤めるFP(企業系FP)ではなく、自分で起業して仕事を行う「独立系FP」の道を選びました。
「まずは、自宅でママ友向けのミニセミナーを行うことからスタートし、FPの先輩から仕事をいただいたりしながら、少しずつ仕事の幅を広げていきました。
『独立系FP』は、自分の時間が確保しやすいので、子どもたちの学校行事などにできるだけ参加したいと考えている私に合ったスタイルです。子育てと並行してこれまでやってこられたのは、『独立系FP』だったことが大きいですね」(飯村久美さん)
子育てをしながらFPとして活躍している飯村さん。普段はどのような一日を過ごしているのか、仕事内容を中心にご紹介します。
独立系FP・飯村久美さんの一日
6時30分:起床・朝食
朝食の準備や子どものお弁当作りなど、家事をこなします。
8時:ニュース・メールをチェック
経済紙の電子版で、最新ニュースを拾い読み。仕事のメールを確認します。
9時:事務所に出勤
前日に準備しておいた資料に目を通して、その日の相談業務の内容を確認します。
10時:個別相談
相談は1回2時間。ライフプランの相談は、これから必要となるお金が、現在の家計状況が続いた際にまかなえるかどうか、トータルでシミュレーションしながらアドバイスを行います。
12時:相談内容のまとめ・ランチ
相談が複数回に及ぶお客様の場合、次回に備えて相談内容の振り返りとまとめを行います。
13時:移動・個別相談(訪問)
幼い子どもがいるママなど、事務所に来られない相談者のために、ご家庭を訪問して相談業務を行うこともあります。
17時:仕事のまとめ
事務所に戻り、翌日の相談業務の準備を行います。
18時:帰宅・夕食
事務所での仕事を終えるのは18時頃。帰宅して夕食を作り、家族と団らん。一日の中で、ほっとくつろげるひとときです。
21時:仕事の準備・金融情報のチェック
翌日の相談業務の準備などを行った後、専門誌・インターネットなどで金融情報をチェック。社会や経済の動きを常に頭に入れておくことも、FPの大切な仕事です。
23時:入浴・就寝
個別相談の他、日によっては自治体や企業に呼ばれてセミナーの講師なども務めている飯村さん。FPとして仕事を始めて10年以上が経ちますが、これまで活動してこられたのは、FP仲間のサポートがあったからだと言います。
「FPの人脈を広げ、仕事のスキルを磨く場はたくさんあります。私の場合は、『女性FPの会』や地域のFPグループに所属し、みんなで勉強会などを開いていますね。普段一人で仕事をしていると不安になることもありますが、FP仲間と励まし合い、切磋琢磨してここまで成長することができました。本当に仲間に支えられているなと実感しています」(飯村久美さん)
「FPは、お客様の人生に寄り添い、家計の収支バランスを考えながら、ライフプランを立てるお手伝いをするのが仕事」と言う飯村さん。お客様からどのような相談をよく受けるのか、その内容をいくつか紹介してもらいました。
相談例1:家計のムダを診断して欲しい
「年代を問わず一番多い相談が、家計の見直しです。私は、家族構成などを踏まえながら理想の家計割合を考え、そちらをベースに家計診断をしています。
例えば、小さいお子さんがいて、将来の学費を貯めたいという方。世間ではよく『住居費は収入の30%』と言われていますが、こういったケースでは、住居費を25%くらいに抑えて、差分を将来の学費のための積み立てに回すことをご提案したりしています。お子さんがまだ小さい時は、子ども部屋を持たなくても対応できるので、こういった選択肢も考えられるんですよね。
決まり切ったセオリー通りのアドバイスではなく、相談される方の希望や現状の悩みに寄り添いながら、アドバイスをするように心掛けています」(飯村久美さん)
相談例2:資産運用を始めたい
「銀行にお金を預けていても低金利でなかなか殖えない今の時代は、資産運用の相談も多くなっていますね。資産運用というと『FX(外国為替の取引)』や『株のデイトレード』をイメージする人もいますが、そういったものは専門的知識が必要ですし、値動きの幅が大きいのでリスクも高過ぎます。私が相談を受けているのは一般的なサラリーマン家庭がほとんどですから、ハイリスクなもののご提案はできるだけ避けるようにしています。
数年以内に使う予定のあるお金は貯蓄で確実に貯め、将来必要になるお金はリスクを抑えた投資でお金を育てていくことをおすすめしていますね。投資には、株式や不動産、債券などがありますが、リスクを減らすコツは、『分散』『長期』『積み立て』の3つを意識すること。投資先を複数に分けて、1度に大きな金額を投資するのではなく、成長性のあるものに少しずつ投資していくことがポイントです」(飯村久美さん)
相談例3:老後資金の準備をしたい
「『1人でもしっかりと老後を迎えられるように、今から準備したい』という、独身女性の方からもよくご相談をいただきますね。60歳以上でシングル(無職)の場合、1ヵ月当たりの平均支出は約15万円と言われています。一方、女性が受け取れる公的年金(満額)は、今のところ、会社員の場合約10万円、自営業の場合約5万円。年金だけでは足りませんよね。
例えば、老後資金を個人で積み立てていく方法として、最近、国が力を入れている『個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)』があります。積み立ての金額は、毎月5,000円から1,000円単位で設定できて、減税のメリットもあるのでおすすめです。これくらいの金額でしたら、若い女性でも、負担なく老後に備えることができると思います」(飯村久美さん)
さまざまな相談を受けながら、飯村さんはFPという仕事の大切さを日々実感しているそうです。
「日本人は、子どもの頃からお金について学ぶ機会が少ないですよね。ですから、お金の知識をきちんと伝えられるFPは、本当に貴重な存在だと感じています。
また、お金とどう付き合っていくのかを、相談者と一緒に考えながらアドバイスを行うFPは、相談者の人生を応援する仕事だと思っています。相談に来られた方が『不安が解消されて気持ちが明るくなりました』と笑顔で帰っていく姿を見ると、この仕事をしていて良かったなと感じますね」(飯村久美さん)
今回は、「独立系FP」として活躍する飯村さんに、FPの仕事の内容や魅力についてお話を伺いました。飯村さんは、ご自身の経験を踏まえ、ぜひ多くの方にファイナンシャル・プランニングを学んで欲しいと考えているそうです。
「FPの資格を取得すると、私のような『独立系FP』の他にも、『企業系FP』として仕事をする道も開けます。『企業系FP』は、銀行・保険などの金融機関や不動産会社でFPの資格を活かしながら仕事をしたり、従業員向けのマネー相談を行ったりしています。
転職にも有利なFPの資格ですが、その勉強をしてお金の知識を身につけるだけでも、自分の生活にプラスになることはたくさんあります。まずは気軽に楽しく学ぶことから始めて、FPの知識を人生に役立てて欲しいと思いますね」(飯村久美さん)
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