保険は複雑そうで、何をどのように選べばいいか分からない……。初めて保険を考える方にとっては、迷うことだらけですよね。そこで、保険選びの基本的なポイントを、ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに伺いました。テレビや雑誌、セミナーなどで、保険のことを分かりやすくレクチャーしている風呂内さん。「貯蓄や社会保障でカバーできない部分を保険で補うこと」が、リスク対策の基本だと言います。
「病気やケガをしてお金が必要になったり、夫婦のどちらかが亡くなって家計に影響が出たりと、人生にはさまざまなリスクがあります。それらのリスクに備える方法として、『貯蓄』と『保険』があります。
『貯蓄』は、どのような用途にも使えますが、貯めた分しか使うことができません。一方で『保険』は、加入した時点から大きな保障を得られますが、保障内容は限られます。そこで、『貯蓄』と『保険』のバランスをどう取るかがカギになります。
多くの方は、万が一のリスクに対して、とにかく保険でカバーしようとする傾向があります。しかし、保険は本来、『起こる可能性が少ないけれども、起きた時に貯蓄や社会保障でカバーできない部分を補うもの』です。そうでないと、保険料負担がどんどん増えてしまいます。もしもの時に必要なお金がいくらかかるのかを把握し、そのうち社会保障などで賄える部分を確認してから、保険で補う部分を考えるようにしましょう」(風呂内亜矢さん)
まずは保険に加入する目的の見極めを、きちんと行うことが大切なのですね。ところで保険には、どんな種類があるのでしょうか?
保険の大きな3つの分野
今回は「生命保険」「医療保険」を取り上げますが、これらの保険は保障期間の違いで2タイプに分かれます。
「定期タイプの保険は、一時期だけ保障を得たい方向け。通常は掛け捨てなので、保険料は割安です。一方、終身タイプの保険は、ずっと保障を得たい方向け。貯蓄性があるのも特徴で、解約すると返戻金が受け取れます」(風呂内亜矢さん)
保険の基本的な考え方や種類と合わせて押さえておきたいのが、保険に加入するタイミング。風呂内さんは、『働き方が変化した時』『貯蓄額が変わった時』『家族の人数が変わった時』が、保険の加入や見直しを考えるタイミングだと言います。いずれの時も、何に対して保障を備えたいのかに目を向けることが大事なんだそうです。
「例えば、就職した時に、何か保険に入らなければと思う方は多いのですが、何のために保険に入るのかを意識していないことがよくあります。社会人になって病気やケガをしても、親がお金をサポートしてくれる環境があるという方なら、医療保険への加入の必要性は低くなりますよね。一方で、就職を機に親から独立して生計を立てていく、しかも現時点では貯蓄がないという方なら、自分が病気やケガをした時の保障が必要です。
結婚した時は、夫婦どちらかに万が一のことがあった場合の備えが必要ですし、出産した時は、子どもの養育費や教育費に困らないように保険を備える必要性が出てきます」(風呂内亜矢さん)
さらに風呂内さんは、保険を見直すタイミングとして、『マイホームを購入した時』もあると言います。これには、特別な理由があるそうです。
「住宅ローンは高額で、返済は長期にわたることが多いため、ローンの契約者に万が一のことがあると、貸した側も遺された家族も困ります。そこで、万が一に備え、住宅ローンを組む時には、契約者は基本的に『団体信用生命保険(団信)』への加入が義務付けられています。『団信』は生命保険の一種なので、他の生命保険に加入している場合は、保障が重複する部分が出てくるので見直しが必要なのです」(風呂内亜矢さん)
就職して親元から独立する場合は、「医療保険」への加入を考えた方がいいと言う風呂内さん。それでは、「医療保険」の選び方のポイントは、どこにあるのでしょうか?
「病気やケガへの備えを考える時に覚えておきたいのが、公的な保障である『高額療養費制度』です。年収ごとに異なりますが、例えば年収が約370~770万円の会社員の場合、一つの医療機関で1ヵ月に支払う医療費の自己負担額の上限は、約9万円。上限を超える金額は、払い戻しや支払いの免除(事前に限度額適用認定証を取得した場合)がされます。ただし、差額ベッド代や入院のための備品は、保障の対象外です。
この制度を利用すれば、入院や手術が必要になった場合でも、50~100万円の貯蓄があれば、概ねカバーすることが可能です。逆に言えば、50~100万円の貯蓄ができるまでは、『医療保険』を備えておきたいですね。
『医療保険』を検討する時は、保障内容にも目を向けましょう。ひと昔前まで『医療保険』は、入院や手術をしたら給付金がもらえるタイプがほとんどでした。しかし、最近は病気治療の入院日数が短縮される傾向にあり、『医療保険』の保障内容もいろいろなものが登場しています。例えば、通院でも給付金が出るタイプや、所定の病気と診断された時点でまとまったお金が出るもの、患者が全額自己負担しなければならない先進医療も特約ではなく単体で加入できるものなどが出てきています。よく検討して、自分に必要な保障を選びましょう。
また『医療保険』は、繰り返し起こるような病気にかかったり、特定の臓器を罹患したりした場合は、それ以降の加入が難しくなるケースがあります。そういった意味では、健康なうちに加入を検討することも意識したいポイントです。『生命保険』については、独身で何千万円もの備えは必要ない場合が多く、自分の葬式代にかかる200~300万円ぐらいの保障を備えておけば問題ないと思います」(風呂内亜矢さん)
それでは、結婚した時の保険の選び方のポイントはどこにあるのでしょうか?
「保険を考える前に、結婚したらまずお互いの資産を開示して、家庭としてどれくらい資産があるかを把握することが大事です。貯蓄が多ければ保障を少なくできますし、貯蓄が少なければ保障を厚めにする必要があるので、まずは資産を確認しましょう」(風呂内亜矢さん)
「結婚した際の『生命保険』のポイントを考えてみます。二人の収入差が大きい場合は特に、収入が多い方に万が一のことがあった場合、想定している生活が回らなくなる可能性があります。『生命保険』の場合は、年収の3倍から貯蓄額を引いた金額が保障額の目安になるでしょう。それぐらいのお金があれば、3年ほどそのままの暮らしを維持しながら、生活を立て直すことができます。
また、結婚してすぐに子どもが生まれた場合も『生命保険』の備えを。子ども一人当たり1,000万円の保障額が、一つの目安です。と言うのも、子どもが生まれたばかりで一家の大黒柱に万が一のことがあった場合、一時金として1,000万円を用意できれば、遺された家族がもらう遺族年金や働いて得る収入と合わせて、子どもの養育費を捻出できます。ちなみに、養育費のうち教育費が、小学校から大学まで全て公立に進学した場合で、約800万円かかります。
それと『医療保険』については、女性は妊娠したら加入できなくなる商品が多いことは、意外と知られていません。そちらも考慮して、未加入ならば加入を検討してもいいですね。また、結婚して会社員からフリーになるなど働き方を変えた時は、保障を手厚くした方がいいでしょう」(風呂内亜矢さん)
今回は、就職した時と結婚した時を中心に、保険の選び方について教わりました。いずれの保険も、分かりやすくてシンプル、そして最低限必要なものを備えることがポイントだと風呂内さんは言います。また、保険に加入したらそのままにせず、貯蓄が増えたり働き方が変わったりしたら、見直しをすることも大切とのアドバイスもいただきました。
「加入時に保険を真剣に検討しても、一度入ってしまうと、保険への関心を失ってしまう方は多いです。保障内容を忘れてしまったがために、病気やケガでの治療で保障が受けられるのに保険金を請求しないケースも結構あります。
そこで私は、毎年年末に家庭の資産の棚卸をして、加入している保険の保障内容や解約した場合の返戻金の額、銀行の預貯金の残高をリストアップすることを勧めています。毎年同時期にチェックすることで家計の定点観測ができ、保険を見直すきっかけにもなります。貯蓄とのバランスを考えながら、無理なく無駄なく保険を備えていきましょう」(風呂内亜矢さん)
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