――つださんは、なぜネイリストという職業を選んだのでしょうか?
高校卒業後、大手旅行会社で働いていたんですが、「人を美しくする仕事がしたい」と思い立ち、転職先として美容業界を選びました。美容業界の中でも特にネイリストを選んだのは、単純に「かっこいい」と思ったのと、当時はまだネイルサロンが少なく、市場拡大が見込めると感じたからです。
――今では中小企業診断士として活躍していますが、ネイリスト時代から経営には興味があったのでしょうか?
そうですね。ネイルスクールを卒業して21歳でネイルサロンに勤め始めたんですが、元々接客が好きだったこともあり、入社4ヵ月目には店長になっていました。そして24歳の時に、赤字だった銀座の旗艦店に異動して改革に取り組むという経験もして、自然と経営を意識するようになりましたね。
改革では、まずスタッフの数をギリギリまで減らしたシフトを組み、さらに、店の外に出て通行人の方々にも笑顔での挨拶を徹底するなど、ご来店いただくためのさまざまな工夫も実施しました。
また、当時は3,200円程度だった客単価を4,000円以上に引き上げることを目標に掲げていましたが、「目標を達成したら部長にご馳走してもらおう」と企画してスタッフのモチベーションを高め、幸いなことに異動翌月には目標を達成、大幅な黒字化を実現することができました。
――その後も、経営やマネジメントに関わる仕事を行っていたんですか?
はい。スーパーバイザーに抜擢され、不採算店のクローズやマニュアルの整備、社内資格試験制度の構築など、マネジメント側の仕事を行っていました。ネイルサロンの場合、店舗ごとの売上は100万円単位なんですが、マネジメント側だと億単位の売上を任されるんですよ。そういった大きな数字を担当することに、非常にやりがいを感じていました。
担当エリアの業績を上げて会社に貢献することや、部下に活き活きと働いてもらえる環境を整えることに、喜びを見出すようになっていましたね。そして、会社からも頑張りが認められ、28歳で最年少の管理職になることができました。
――中小企業診断士へチャレンジするきっかけはなんだったのでしょうか?
ネイルサロン部門のマネージャーとして、17店舗60名のスタッフを統括する立場になり、体系的な経営の知識が必要だと感じて、中小企業診断士を目指しました。また、資格を取って別の場所で自分を試してみたいという気持ちもありましたね。
私は大学に行っていないことがコンプレックスだったので、「中小企業診断士に合格したら自分に自信が持てるのでは」という気持ちもありました。あと、「ネイリストが中小企業診断士になったら面白いんじゃない?」という、ギャップを狙う気持ちもありましたね(笑)。
――中小企業診断士の勉強は大変でしたか?
大変でしたね。読書が好きなので読解力や文章力は人並みにあると思うんですが、学生時代はまともに勉強した記憶がなく、分数の計算も怪しいほどでしたから。
ただ、試験に落ちた時に「もっと勉強すればよかった」と後悔はしたくなかったので、月平均約130時間の勉強時間を捻出しました。比較的早く帰れる部署に配置転換してもらい、睡眠時間は4~4.5時間くらいでしたね。
当時は、勉強のためにあらゆることを犠牲にしましたね。中小企業診断士の勉強を始めてからの2年間は、ほとんど友達と遊ばず、テレビも見ず、読書もせず、家族とも最低限しか連絡をとりませんでした。お風呂はシャワーで済ませ、髪を乾かす間も壁に貼ったプリントを見て、歩いている時間も学習時間にあてるくらいの勢いで、頭の中でさっきまでやっていた勉強の復習をしていました。
――それだけ努力しても確認テストでいい点数がとれず、ショックを受けたこともあったそうですね。
100点をとっている人もいた確認テストで、私は40点しかとれず、かなりショックでしたね。学生時代にあまり勉強をしてこなかったツケが回ってきたと思い、これまでの積み重ねが大きく影響することを思い知りました。
そんなふうに自信を失くしていた時に支えてくれたのは、勉強仲間でした。「こんなに頑張っているんだから、絶対大丈夫!」と言って励ましてくれたことは、今でも心に残っています。
先の見えない勉強漬けの生活の中では、勉強仲間との交流が息抜きになりました。勉強方法の情報交換をしたり、励まし合ったり……勉強仲間ができるだけで、こんなにモチベーションが上がるものかと驚きましたね。
――中小企業診断士は、どのような資格なのでしょうか?
中小企業診断士は、経営全般の体系的な知識があることを証明する、経営コンサルタントの唯一の国家資格ですね。当たり前のことを当たり前にやれば、それだけで生活していける資格だと思います。クライアントは、メーカーから卸、飲食店まであらゆる業種が対象ですし、資格を持っている人の得意分野も異なるので、あまり仕事の取り合いにもならず、逆に仕事を紹介し合っているくらいです。
女性の視点でアドバイスが欲しいと言われることも多いんですが、中小企業診断士の女性比率はまだ5%未満と小さいので、特に女性には狙い目と言えるかもしれません。補助金の申請書の代行などをして、会社員をしながら副業で稼いでいる人もたくさんいます。
――ネイリスト時代の経験で、役に立っていることはありますか?
ヒアリングなどの接客スキルですね。コンサルタントはクライアントの思いや考えを引き出すことが大切なんですが、それはネイリストも同じです。ネイルの悩みを解消したい人もいれば癒やしを目的に来る人もいて、ネイリスト時代にお客様が求めていることを汲み取るよう努力した経験は、今の仕事にも生きています。
クライアントへの課題設定も大切なんですが、それもマネージャー時代に部下に対して行っていたことですね。またトップネイリストだった時は業務効率化を強く意識していたので、その経験は現在の業務の生産性の向上にも活かされています。
――現在のつださんのお仕事の内容を教えていただけますか?
現在は5歳と3歳の子どもがいるので、比較的時間の融通が利きやすい、美容院の経営者が集まるイベントなどでの講演や、中小企業診断士の講師としての仕事が中心です。子どもが今よりも小さい時は、執筆など家でできる仕事ばかりやっていました。
資格を取ってから10年になりますが、やりたい仕事を一緒に仕事をしたい人と、自分のペースに合わせて行うことのできる毎日を送っています。どこに行っても、子どもを産んでも、自分のライフステージに合わせて働けていますね。これからはセカンドキャリア、サードキャリアの時代と言われ、それこそ60歳以降も働かなければならない時代です。その点、中小企業診断士は、自分の強みを活かして働き続けることのできる、一生モノの資格だと思います。
――中小企業診断士の資格を取ったことで、素敵な出会いもたくさんあったそうですね。
さまざまな業種の方々との、素敵な出会いがありましたね。そういった出会いから学びや刺激をもらうことで、私もビジネスパーソンとして格段に成長することができました。現在の経済的なゆとりや社会的な評価も、中小企業診断士の資格を取ることで得られたものだと思います。
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