今回お話を伺ったのは、アロマのブランド・アットアロマ株式会社の武石紗和子さん。「アロマ空間デザイナー」として、様々な企業のアロマ空間デザインを手がけていらっしゃいます。まず、香りがもたらす効果について尋ねてみました。
「『香り』と聞くと『リラックスできる』というイメージを持たれると思いますが、実はそれだけにとどまらず、様々な機能が期待できるんです。例えばペパーミントであれば、すっきりとした香りで消臭や体感温度を下げる作用、ローズマリーであれば、シャキッとした香りで記憶力や集中力を高める作用など、それぞれの香りで異なった効果効能が期待できます。
また香りをブレンドしていくことで、機能性だけでなくデザイン性も高まり、インテリアや照明、音楽とのマッチングまで考えた提案ができるので、目的に合わせて幅広く調整できるんですよ」(武石さん)
香りとインテリア、または香りとデザイン。この2つの関連性について、具体的に教えていただきました。
「アロマセラピーやマッサージ、トリートメントの分野ですと、それぞれが持つ効果効能に特化することが多いと思います。しかし、「アロマ空間デザイン」においては、香りを空間に広げた時にどういった印象を与えるか、どう広がっていくかという視点で考えます。
あくまでもアットアロマ独自の考え方ではありますが、例えばエキゾチックなお花の『イランイラン』は、エレガントでオリエンタルなインテリアに合う。そして華やかさや甘さを持っていて、季節的には春が合う、と考えています。香りの印象を捉えるのはなかなか難しいですが、ご提案をする際には、共通言語で理解していけるように指標やキーワードに落とし込み、それをもとに説明していきます。その香りを空間に広げることで、どのような雰囲気を作り出すのか、どんな印象を与えるのか、そしてその機能性はどうか、ということをお伝えしていますね。
アロマには、まずシングルオイルがあり、それをベースにオイル同士をブレンドしていくので、香りの種類は無限大になります。アットアロマには、既存のブレンドオイルも60種類ほどありますが、中には10種類ものオイルをブレンドしているものもあるんです。 既存のものでもバリエーションはたくさんありますが、よりオリジナリティの高い香りを目指す場合には、カウンセリングをしながらオリジナルの香りを作ることもありますね」(武石さん)
このような方法で多くの企業向けにアロマ空間をデザインし、現在ではホテルをはじめ、アパレルなどの店舗や商業施設、ジム、マンションのエントランス、介護施設など、幅広いシーンでのアロマ演出を手がけています。場所が違えば当然雰囲気も変わるはず。実際にはどのような形でオーダーを受けているのでしょうか。
「オリジナルの香りは、企業のブランディングを目的として作ることがほとんどです。例えばANAさんの場合は、日本のエアラインらしさを表現するために、ヒノキや高野槇など日本を意識した素材を使っています。ハーブの爽やかさとウッド系のスパイシーさが合わさり、未来への前進を感じさせる、記憶に残る香りになっていますね。
またLEXUSさんのショールームでは、季節感を大切にしていらっしゃるため、香りも春夏秋冬に分けて4種類使用しています。どれも上品で優雅な印象が漂う、統一感のある香りです。
難しいのは、機能性とデザイン性、どちらかに偏ってしまうと、空間にマッチしないということ。やはり両方とも大切な要素だと考えています。また、使用するオイルは自然由来の天然のものにこだわっていますね。
このように様々な企業や施設などの香りを手がけていくうちに、『一般に販売して欲しい』というお声をいただくことも増えてきました。中には、実際に商品化されているものもあるんですよ」(武石さん)
徐々に注目されている香りの演出。香りによって昔の記憶がよみがえったり、嗅覚で体感したことを長く記憶として覚えていたり、という経験をされたことがある方も多いのではないでしょうか。香りに関わるお仕事の魅力と今後の可能性について伺いました。
「私自身、前職で忙しい毎日を過ごしていた時に、香りの力で随分救われました。香り好きが高じて趣味で勉強を始めるうちに、マッサージなどの分野だけではない香りの仕事、香りで空間を作る仕事があることを知り、転職を決めたんです。
アロマセラピーの歴史は長いですが、空間を演出したり空間デザインの要素に取り入れようという流れは、日本では数十年前に始まったばかり。だからこそ可能性を感じています。私は会社としてパブリックな空間でのアロマ演出を手がけることが多いですが、個人の方でしたら、ご自宅や、またお友達の結婚式や展覧会など、身近な空間で香りの演出をされてみたらいいのかな、と思います」(武石さん)
「今後は、イベントなどで全く違う業種の方ともコラボしてみたい」と語る武石さん。好きだからこそゴールのない難しさにも挑めると、笑顔で話す姿が印象的でした。こうした新たな力で、今後既存の枠を超えた香りの可能性が、見つかるかもしれませんね。
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