苦手なことをやらなければならず、気が重い……。そんな経験は、たいていの人に覚えがあるはず。では、なぜ苦手なことが生まれるのでしょうか?
「理由はいくつかありますが、最も大きいのは“人は過去の経験から学習するため”です。例えば、初めてのことに挑戦して、その結果を“これはひどいね”などと他者に言われると、“もうやりたくない”という学習を行います。あるいは、がんばってもできなかった体験から、“私には向いていない”と学習する人もいます。一方で、傍から見て“向いていない”と思われても、本人が“私はできる”と思えば苦手意識は形成されないのです」(足達大和さん)
さらに、「人によっては、“完璧にするべき”“失敗してはいけない”といった思い込みがストレスに繋がり、苦手意識を生むケースもあります」と、足達さん。こうした人による違いが生じるのにも、もちろん理由があるそうです。
「右利き、左利きといった利き手の違いと同じで、五感の優位性も人によって違いがあるもの。人はある事象に直面すると、五感というフィルターを通して脳へ伝えますが、NLPではこの五感を “視覚(Visual)”“聴覚(Auditory)”“触覚、味覚、嗅覚を含む身体感覚(Kinesthetic)”の3つに分け、頭文字をとって“VAK(ヴイ・エー・ケイ)”と呼んでいます。これらの違いを資格の勉強に例えるなら、Vが優位な人はイラストやアイコンなどで理解が深まり、Aが優位な人は話を聞くと頭に入りやすい。そしてKが優位だと、書くことで覚えるのが向いていますね。こうした優位性を活かせるものは得意、活かせないものは苦手となり、これが人それぞれの違いを生じさせる大きな要因です」(足達大和さん)
人それぞれで対象は変われども、苦手意識を抱えているのは同じこと。こうした苦手意識は、やはり克服した方がよいのでしょうか?
「苦手を避けようとすると、人生は障害物競走のようなものになります」と足達さん。
「ゴールしたつもりが、審判に“この障害物を越えていないからやり直し”とダメ出しされて、余計にエネルギーを消費するなど、自分にとって痛いところを突く形で同じような事柄がどんどんやって来ることもあります。例えば、小学校で嫌いなクラスメイトがいたとして、その人と別の中学校に進んで離れたけれど同じタイプの先輩がいた、なんてことも。同じように高校の担任、会社の上司など、人が変わっても自分の苦手意識が変わらない限り、どこに行っても結果は変わりません。一方で、あなたの苦手意識をより強化するような人が次々に出てくることで、乗り越えるべき課題を見せてくれているとも言えますね」(足達大和さん)
では、苦手と向き合うには、どのようにすればよいですか?
「NLPでの苦手克服方法の一つに、“リフレーミング”というものがあります。これは、苦手意識をはじめ、停滞状態の枠組みを変えることで、良い方向に変化させていく手法。例えば私の場合はセミナーで登壇するたび、いまだにちゃんと話せているか、失敗しないかと思うのですが、リフレーミングを使ってこうしたストレスを必要なものであると考え直しています。“過信するより断然良い、むしろ緊張しなくなったら終わり”と、良い意味に変えて、人には乗り越えられることしか起きないのだから、“嫌だな”ではなく“ここが成長ポイント”と考えるんです。例えるなら、筋トレをした後の筋肉痛。痛みがあるから、効果があって成長するということですね」(足達大和さん)
足達さんによると、「リフレーミング」とは「心理的枠組み(フレーム)によって、人や物事への印象や意味を変化させ、理想に向かえる有効な状態にしていくこと」。例えば、以下のイラストを見てください。これは、魚の絵です。切り取る枠によって、それぞれイラストが持つ意味が変わってきます。
(Robert Dilts and Judith DeLozier, 2000年, Encyclopedia of Systemic Neuro-Linguistic Programming and NLP New Codingに基づき作成)
「このように、私たちの認識に影響を与えるのが枠組みで、感情や気分のほか、意味づけや思考、行動にも影響を与えます。リフレーミングには、“状況のリフレーミング”と“内容のリフレーミング”の2種類があり、前者はうまくいっていない人や物事に対して、“他のどのような状況なら役立つか?”と、状況や背景の枠組みを見直すというもの。接着剤を開発している時に生まれた付箋が、接着剤としては役立たないけれど、貼ってはがせるメモとして活躍できるのと同じですね」(足達大和さん)
一方、後者である“内容のリフレーミング”は、内容を作る枠組みを見直すもの。この場合、「その物事には他にどんな意味があるのか」「どんなプラスの価値があるのか」といった考え方になるそうです。
「例えば、リストラに遭った場合、評価されていなかったショックや収入が断たれる不安を感じてしまうもの。でも、この枠組みを変えれば、本当にやりたかった仕事をする機会、退職金と自分の時間が手に入ったなど、肯定的な意味が見いだせます。すべての物事は中立で、未来に向かう過程の一部という考え方ですね。苦手に対しても同じように、苦手の先に好きなことが見えていれば、その苦手は好きなことの一部となります」(足達大和さん)
苦手克服に役立つというリフレーミング。具体的には、どのように実践すれば良いのでしょうか?
「いくつかある方法のうちの一つが、“Want”によるリフレーミングです。苦手に対峙して“うわぁ、どうしよう〜”と思った時、“うわぁ、どうしよう〜、の代わりにどうしたい?”と問い掛ける方法。どうしたいのかを問うことで感情が整い、視野や思考に変化を与えられるので、自然と現状を打破するフレームに移行できます」(足達大和さん)
それでは最後に、足達さんからリフレーミングの活用例を教えていただきましょう。ビジネスシーンでも役立つこと、間違いなしです!
不安に感じるから、新しい仕事を任されるのが苦手……
初めての業務や新規プロジェクトに携わるのは、前例がないから不安に思ってしまいがち。そんな時、リフレーミングはどう活用できるのでしょうか?
「私たちはさまざまな学習をすることで、数多くの知識と経験を得ていますが、“体験して学ぶ”ということは最も効率の良い学び方の一つ。その時は分からなくても時間が経てばその体験や、後に続く体験に繋がることもあると考えて、“新しい知識や視点、キャリアを積む機会”という言葉を自身に投げ掛けてみましょう。また、“不安の代わりに感じたい気持ちは何?それを手に入れるための一歩を考えよう”といった言葉でのリフレーミングも使えます」(足達大和さん)
厳しく指導する上司が苦手……
上司の指導が厳しいと、時には参ってしまいそうになることもありますよね。こんな状況も、リフレーミングで打破することができるもの?
「上司の立場になると分かりますが、部下に厳しくするのは乗り越える見込みがあると思っているから。期待しているからこそ厳しくなったり、信頼しているからこそ頻繁に声をかけたり、次のポジションを渡したいからこそいろいろな経験をさせたりと、上司にはさまざまな思惑があります。言葉にするなら、“目に留まっている証だね”“どうでもいい部下にはエネルギーを使わないから、相当期待されているよね。信頼の証でしょう。後々、成長や感謝に繋がる体験になるよ”“なぜ上司が厳しいのか、上司の立場や視点を学ぶ機会。そのことについて、上司と真っ正面から話をする機会にもなるよね”といった形が良いでしょう」(足達大和さん)
プレゼンなど、人前での発表が苦手……
人前に立つのは緊張することもあり、苦手に思う人は多いもの。会議での発表やプレゼンで緊張やプレッシャーを感じた時は、リフレーミングはどのように使えばいいのでしょうか?
「会議での発表やプレゼンが上手な人も、最初は緊張や不安があったはず。そう考えれば、“自分だけではない”という安心感が生まれます。上手な人の場合、こうした緊張やプレッシャーは“準備の鼓動”と表現したり、その状態を“ときめき”と呼んで本番に挑んだりすることもあります。 “良いパフォーマンスを発揮するには緊張感は不可欠な要素。逆にないとダメ”と言う人もいます。そのため、“本気モードになってきた!”“相当良い発表をしたい気持ちの表れだね。それだけ仕事やチーム、そして家族を大事にしているんだね。家族やチームのためにがんばっていこう” と気持ちを鼓舞するのも良いでしょう。また、“緊張やプレッシャーの代わりに感じたい気持ちは何?そんな気持ちで取り組んだらどんな発表ができるの?”と問い掛けるのも、リフレーミングを活用できる言い回しです」(足達大和さん)