「こんなに頑張っているのに……」「どうして私だけ?」「もうダメ……最悪!」そんなフレーズが頭に浮かんできて、気分が沈むときってありますよね。あなたはそんなときに、どのように気分を切り替えていますか?今回お話を伺った心理カウンセラーの小高千枝さんは、社会心理学、臨床心理学などの考えに基づいた方法で、さまざまな心の悩みについて、論理的に問題解決へと導くための活動をされています。
「私が心理カウンセリングとして行っているのは、カウンセリングを受ける人の性格を構造的に分析した上で、その人にあったアドバイスを行うという方法です。具体的には、まず人の心を5つのカテゴリーから診断する『エゴグラム』と、人の体や心のタイプ、思考や行動の癖を分類する『体癖論』を組み合わせた分析方法を用いています。
これにより、その人が持つ『母性が強い』『天真爛漫』『寛容性が高い』などの性格を細かく構造的に数値化します。そして、その数値の分析結果と相談内容から『こんな気質で、こんなタイプだからこんな悩みが芽生える傾向がある』と悩みの原因を紐解き、その悩み解決するための具体的な方法をアドバイスしながら、『なりたい自分』になるためのメンタルトレーニングのお手伝いなどをしています」(小高千枝さん)
――かなり論理的に心理カウンセリングをされているのですね。では普段の生活の中で、うまくいかなくてクヨクヨしてしまうときに、立ち直るための心構えや方法があれば、教えてください。
「よくみなさんにお伝えしているのは、『心の免疫力』を身につけるという方法です。
人はついネガティブなことからは逃げてしまう傾向にあります。心の免疫力とは、そんなネガティブなことから逃げずに受容し、ストレスと共存しながら問題を解決する力のこと。悩みやストレスを抱えると辛いことも多いですが、解決したときには気持ちがスッキリしたり、達成感を得られたりすることがありますよね。心の免疫力を身につければ、問題を解決できるだけでなく、自分で考え行動するという、自らが成長するきっかけにも繋がるのです」(小高千枝さん)
「うまくいかないとき、クヨクヨしてしまう一番の原因は、悩みの表面的な部分だけを見て、その根源を直視できていないということです。悩みの根源には、生まれ持った気質、過去の辛い経験やそこから生まれるマイナスの感情が影響を与えている可能性があります。『彼氏とうまくいっていない』『仕事が辛い』など、目の前のことがクヨクヨの原因だと思っていても、実は『何ごともネガティブに考えてしまう気質』のせいであったり、『過去の対人コミュニケーションにおける辛い経験や失敗』が原因であったりする場合もあります。
ただ多くの人は、その悩みの根源に向き合うと『自分はダメだ』と自己否定感に陥ってしまいます。そこからクヨクヨせずに、『悩みを解決しよう』というエネルギーを起こすためには、まず自分の持つ気質や、パターン化した思考や行動の癖、良いところ、悪いところも受け入れた上で『本当の自分』を認め、『今の自分でいいんだ』と自己肯定をすることです。そして、『済んだことは仕方ない!繰り返さないようにすればいい』という姿勢で、過去の辛い経験とも向き合い、そのときの後悔や失敗を教訓にできればいい。そんな考え方が、クヨクヨしないための第一歩だとお伝えしています」(小高千枝さん)
――クヨクヨしてしまう人とは、どんな人なのでしょうか?
「基本的に、気質がネガティブ・マイナス思考であったり、自分の弱みをうまく表現できないという人は、クヨクヨしやすい傾向にあります。またクヨクヨしやすいか否かは、その人が持つ『自尊心』と『承認欲求』の割合によって違いが出てきます。よく『プライドが傷ついた』と言いますが、このプライドは自尊心と承認欲求で構成されています。
承認欲求の割合が高い ⇒ クヨクヨしやすいタイプ
何事においても『人に認められたい』というタイプで、具体的にたとえるならば、SNSの『いいね』の数で自分の価値をはかるような人です。そういう人は、周囲から否定されたり自分とは違う意見を言われたりすると、傷つき、強迫観念に迫られて、悩みの渦に入ってしまうことが多いです。
自尊心の割合が高い ⇒ クヨクヨしにくいタイプ
こちらは『自己承認し、自分の中の基準や感情を主軸に考える』というタイプ。なので、たとえ違う意見を言われても『でも自分はこうありたいから、これでいいんだ』と、自己責任のもとに自分を貫く強い意思を持っているため、あまり傷つくことはありません」(小高千枝さん)
クヨクヨしやすい人におすすめ!「心の免疫力」を高めて気分が沈むのを解消するための3つのヒントを、小高さんのところに相談があった実例を元にお伝えします。
ケース①:
家族・家庭の悩み:夫からモラハラを受けて、今すぐにでも離婚をしたいという主婦のAさん
解決のヒント:自分の状況を空間的に客観視してみる
Aさんは、小さな子どもを抱えている上に、経済的に自立できるほどの収入はなく、実家を頼ることも難しい状況でした。『私は離婚できないの?』と落胆して相談に。
まず私は、平面的ではなく、空間的に自分の状況や環境を見るように伝えました。空間的に見るとは、小さな箱庭の中に今の自分の状況や環境を入れ、上からのぞくイメージで考えてみるということです。
すると、冷静に物事を客観視する力がつき、今モラハラを受けている状態は辛いけれど、生活の保障はされ、愛する子どもも満足な教育を受けることができているという状況が見えてきます。その状況が見えたのと同時に、Aさんは『自分と子どもの経済的な自立と、自らの意志と力で家庭を守っていくという自律の準備をしてから、離婚をすればいい』ということに気が付いたのです。もちろん、モラハラから脱するための心のトレーニングをしながら。
最初の相談に来てから8年が経ち、現在Aさんのお子さんは中学生になりました。お子さんが18歳になったら離婚をするという目標を持ち、今Aさんは前向きな日々を過ごしています。
目の前の問題や状況だけを見てただ落胆するのではなく、今置かれている状況や将来について空間的に客観視してみることで、落ち込んだ気持ちを切り替え、周囲に振り回されない自分にとって大切な新たな一歩を踏み出す、突破口が見えてくるという例です。
ケース②:
恋愛・将来への悩み:服装はかわいらしく見た目も素敵なのに、婚活がうまくいかないOLのBさん
解決のヒント:生活スタイルの改善
婚活パーティーや合コンに行っても、なかなか真剣な付き合いには結びつかずに悩んでいるというBさん。服装はラブリーで華やかな彼女ですが、いつもその風貌に合わない使い込んだ紙袋を持っていました。Bさんに紙袋について尋ねてみると、大量の紙袋や賞味期限切れのカップラーメンが捨てられない、たくさんのものを持っていないと不安になる依存傾向が強いタイプであることがわかりました。
そこで、『まず紙袋を10枚捨ててみましょう』『賞味期限切れの食品は、お肌や体に良くないから心と体が喜ぶ食事を一緒に考えましょうね』と、不安感を抱く気持ちを受け止め、依存しているものを徐々に手放すトレーニングを始めました。
部屋からムダなモノがなくなると、華美な服装だったBさんは『私はもともとシンプルなものが好きだったみたいです』と、ご自身の本質を理解し、本来の自分に合うスタイルを選ぶように。そして、自然と食生活にも変化が現れるなど、生活のあらゆるシーンでポジティブな変化が生まれ、以前にもまして内側から輝く素敵な女性になりました。
恋愛や将来において、漠然と『うまくいかない』と気になることがあれば、生活環境や食生活に何か問題が潜んでいるかもしれません。自分の生活と向き合って、一つひとつ見直しや改善を行うと、心や気持ちが前向きに変化していくかもしれませんね。
ケース③:
ダイエット・摂食障害の悩み:ダイエット依存症で、摂食障害やうつの症状を抱えるCさん
解決のヒント:意識の分散
ダイエットに依存するあまり摂食障害になり、心の状態が不安定になってしまったと相談に来たCさん。
食生活の改善をサポートすると同時に、ダイエット以外のことに興味を向けさせるために『何か好きなことや趣味などはありませんか?』『恋愛や結婚に対する価値観は?』と視野を広げるためのアドバイスを行いました。しばらくすると彼女には恋人ができ、徐々に精神状態も良い方向に。
ところが今度は、『彼に摂食障害のことを知られてしまったら……』と新たな悩みが出てきてしまいました。そこで私は、彼女に彼の性格を聞いた上で、どのタイミングで、どのように伝えたらいいか?を具体的に提案していきました。すると『彼女との将来を真剣に考えているから』と、彼が彼女と一緒に面談へいらっしゃり、一緒に頑張っていくと私の前で宣言してくれたのです。お二人は将来的に子どもを持つことを希望されていたので、摂食障害で止まってしまっていた生理も改善できるようにメンタルトレーニングを継続しました。
ダイエットに依存していた意識が『彼と幸せになりたい』という方に向かうようになったCさん。その後、彼と結婚し、妊娠することができました。かつては都心のタワーマンションに住み、ブランドを身にまとい、外見的なことに対する執着心の強さが目立っていたCさんでしたが、最近は郊外にお庭のある一軒家を買ったそうで、今ではカウンセリングが必要ないほどにセルフコントロールができるようになり、症状は改善されました。
彼女のように、何かに執着心を抱き、依存しすぎて心が不安定になってしまったら、まずは依存しているもの以外にも意識を分散させるように心がけてください。それが恋愛でも、ただ音楽を聴くことでも、自分が心から楽しめるものなら何でも構いません。また、自分が一番安心できる方法を見つけることで、心の状態を冷静に受け止められるようになり、問題との向き合いや、心の不安定さを解決するヒントを手にすることもできます。
「彼女たちのケースで実践した、『自分の状況を空間的に客観視してみる』『生活スタイルの改善』『意識の分散』といった3つのクヨクヨしないためのヒントは、さまざまな問題や状況の悩みに応用することができます」(小高千枝さん)
――小高さんが考える、心の免疫力が高いポジティブな人とは、どんな人でしょうか?
「まずは『自律』ができる人ですね。たとえば、経済的な援助を誰かから受けていても、自尊心があり、自分の軸をしっかり持っている、セルフコントロールの『自律』ができる人は、自分の人生にとって必要なものを自分で選択することができるので、ポジティブで、内側から輝いている人だと思います。
次に、衣食住が等身大の自分で満たされている人。周りと自分を比較しても、『うらやましい』という感情が、妬みではなく『私もああなりたい、自分を磨こう』というポジティブな方向に向かえば、自分自身をいい方向に持っていくことができます。
そして、先ほども言いましたが『空間的に客観視してみる』という力が身についている人は、自分の状況を客観視することができ、『次は、自分はこうするべきだ』とわかれば、常に前向きな考えを持つことができると思います」(小高千枝さん)
――最後に、今悩みを抱えている人に一言いただけますか?
「まずお伝えしたいのは、悩むことは決して悪いことではないということです。悩みを抱えている今は辛く大変かもしれないですが、見方を変えれば、他の人が抱えることができないものを抱えているということ。その悩みを解決できれば、『よく頑張ったね』と称えられるべきことでもあります。悩みや問題があるからこそ、人は成長や進化をすることができるのだと、あらためてお伝えしたいですね。
ただ、弱っているときや辛いときに実践できる、自分なりの『浄化方法』を見つけておくことは大切です。世間の情報に惑わされず、自分にしっくりくるものを、ゆっくり見つけてください。相談相手にしても、自分の居場所にしても、お気に入りのエステやマッサージにしても、一つの場所に固執しすぎずに分散させることで、悩みや問題を回避することに繋がるかもしれませんよ」(小高千枝さん)
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