そもそも、「ネガティブ思考」とは、どんな状態のことを指すのでしょうか?
大美賀さんによると、ネガティブ思考とは「事実を悲観的・否定的に受け止め、考える傾向」のこと。理由や背景はさまざまですが、「あらかじめ物事をネガティブな方向から捉えておくことで、ポジティブに考えて期待していたことが思い通りの結果にならなかったときの落胆を防いでいる」ことが大きな要因だと言います。
ポジティブ思考の人とネガティブ思考の人を比較すると、次のような違いがあります。
ポジティブ思考の人……楽観的、意欲的、行動促進型。一方で、軽率、自信過剰になりやすい面も。
ネガティブ思考の人……慎重派、分析的、行動抑制型。悲観的、否定的になってしまうことも。
比較すると分かるように、両者にはそれぞれ物事を考える上で役に立つ面がありますが、行き過ぎると悪い面が目立ってしまうことがあります。
大美賀さんも「ポジティブ思考に偏り過ぎるのも、ネガティブ思考に偏り過ぎるのも良いことではありません。大事なのは、現実的、合理的に物事を見られているかどうか、その思考が論理的になっているかどうか」だと力説します。
デメリットばかりではないことが分かった「ネガティブ思考」。それでは、ネガティブ思考には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
「一言で言うと、ネガティブ思考は『転ばぬ先の杖』だと思います。慎重に検討したり深く考えたりすることで、失敗したときの傷が浅く済みます。」(大美賀直子さん)
どうやらネガティブ思考とは、傷付かないための自衛方法の一つ。社会や人間関係の荒波にもまれるストレスから身を守るために、人が無意識のうちに活用している方法のようです。
このように、ネガティブ思考を働かせてストレスを回避することは可能ですが、ビジネスなどの場面で「どうせダメだろう」「自分なんて…」と悲観的に考え、「転ばぬ先の杖」を使い過ぎてしまうと、新たな挑戦や成長ができなくなります。すると、自分で自分の幅を狭めることになってしまいます。そこで、ここからはネガティブ思考に偏り過ぎないようにするための方法の一つ「コラム法」をご紹介。物事を「現実的、合理的、論理的に考える」ことができるようになると、考え方の幅が広がり、物事を多角的に見ることができるようになります。
コラム法のやり方
悩みごとや、ネガティブな気持ちになる出来事があったら、次の①〜④の欄を順番に書いて埋めていきます。
①事実
②とっさに浮かんだ考え(=自動思考)
③②は「認知の歪み(※下記参照)」の何番に当てはまる?
④現実的・合理的に考えるとどうなる?
(①②を書いたあと、時間を置いて冷静になってから③④を書き込むとより効果的です)
認知の歪み・10種の思考パターン
③に記入するのは、心理学者デビット・バーンズによる「認知の歪み」という非合理的な考え方のパターン。大美賀さんによると、ネガティブ思考の考え方の癖は、ほぼこの10種に当てはまるようです。
1. 全か無か思考(all-or-nothing thinking)
物事に対して極端に白黒つけたがり、オール・オア・ナッシングで考える。
2. 一般化のし過ぎ(overgeneralization)
何か悪いことが起こったときに、それがまた起こるに違いない、それが起こる運命なのだ、というように過度に一般化して捉えてしまう。
3. 心のフィルター(mental filter)
考えることがネガティブなことばかりで、「マイナス」のフィルターを通して物事を見てしまう。
4. マイナス化思考(disqualifying the positive)
良いことや何でもないことを、悪いことにすり替えてしまう。
5. 結論の飛躍(jumping to conclusions)
事実とは違うのに、悲観的な結論に飛躍してしまう。これには、次の2種類があります。
A 心の読み過ぎ(mind reading)
人の態度や言葉を、悪い方に深読みしてしまう。
B 先読みの誤り(the fortune teller error)
これから起こることが不幸なことばかりだと信じ込んでしまう。
6.拡大解釈と過小評価(magnification and minimization)
悪い面ばかり大きく捉え、良い面をあまり評価しない。
7.感情的決めつけ(emotional reasoning)
感じていることが、真実であるように考えてしまう。
8.すべき思考(should statements)
「~しなければならない」「~べきである」と考えて、自分を追い込んでしまう。
9.レッテル貼り(labeling and mislabeling)
根拠もないのに、ネガティブなレッテルを貼ってしまう。
10.個人化(personalization)
良くない出来事が起こったときに、何でも自分のせいにしてしまう。
※参照:『いやな気分よ さようなら』デビッド・D・バーンズ著、野村総一郎他訳、星和書店
「コラム法」は、とっさに浮かんだネガティブな考えを記録し、それがどの認知の歪みのパターンに当てはまるのかを振り返り、現実に即して合理的に考え直す心理療法です。次の例のように、4つのコラム欄を「書いて」埋めていくことによって、ネガティブ思考の原因となる認知の歪みが視覚化されます。そして、これを繰り返していくと、冷静に物事を見つめることができるようになります。
<例>職場の先輩に挨拶をしたのに無視されたと感じた場合。
① 事実:職場の先輩に挨拶をしたが、挨拶を返してもらえなかった。
② とっさに浮かんだ考え:無視された!私って嫌われているのかな…。
…しばらく、冷静になる時間を設ける(数時間〜数日)。
③ ②は「認知の歪み」の中の、「7.感情的決めつけ」に当てはまるぞ。
④ ③を現実的・合理的に考えると?:嫌われているかどうか直接確認したわけでもないのに、1回挨拶をスルーされただけで嫌われたと決めつけるのは合理的ではないな。先輩は何か他のことを考えていたのかもしれない、と考えるのが現実的ではないか。
ワンポイント
ネガティブ思考の真っ只中にいると、③から④の部分を冷静に考えるのが難しいこともあると思います。その場合は、数時間から数日おいてから書くこと。また、④は「友達にこういう悩みを打ち明けられたときに、どんな言葉をかけてあげられるか」を想像しながら書くと、アイディアが浮かびやすくなります。
大美賀さんによると、日々の出来事を「コラム法」で捉え直すことを、できれば3ヵ月くらいは続けてほしいとのこと。すると、自分自身の思考パターンが分かるようになり、徐々にネガティブ思考とも上手に付き合えるようになっていくでしょう。
一般的にマイナスイメージの強い「ネガティブ思考」。自分に自信がなく遠慮がちな考え方はビジネスシーンではデメリットになることもありますが、一方で、慎重かつリスクに配慮して行動できるというメリットもあります。
大切なのは、ネガティブ思考に「偏り過ぎない」こと。上記のコラム法などを活用していきながら、考え方のバランスを取ることを心掛ければ、思考の幅が広がります。思考の幅が広くなれば、はじめからポジティブな人よりも、ネガティブ思考を分かっている人の方が一緒に働く同僚や上司、部下の考えにも共感しやすくなるかもしれません。ネガティブ思考と上手に付き合って、仕事に取り組んでいきましょう!
メンタル&マインドコンサルティング代表。
メンタルケア・コンサルタント。公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持ち、カウンセラー、研修講師などとしても活躍する。現代人を悩ませるストレスに関する基礎知識と対処法を解説。ストレスやメンタルコントロールに関する著書・監修多数。