保育士として働くかたわら、2014年に立ち上げた一般社団法人離乳食インストラクター協会の理事を務めている中田馨さん。「和だし」を基本とした「和の離乳食」の普及を目指し、全国各地でセミナーを開催していますが、そこでは離乳食に悩むママたちの切実な声があがってくるそうです。
「月齢ごとに様々な悩みがありますが、一番多いのは『離乳食の進め方が分からない』というもの。中でも、ネットで調べてみても、言っていることが違うので何を信じていいのか分からないという声がよく見られます。最近は核家族も多いですし、特にはじめてのお子さんだとママ友も少なかったりして、不安に思う方が多いみたいです」(中田馨さん)
そんな中田さんが考える、離乳食の基本とは?
「作るときの基本は、必ず食材を加熱することです。生で食べることができるフルーツも、離乳食初期は加熱をしてください。加熱したものに慣れてきたら、少しずつ生のフルーツを与えても大丈夫です。
とはいえ、離乳食期に私が一番大切だと思うのは、『食べることが楽しい』と思う子に育ててほしいということです。赤ちゃんのことを考えたら神経質になってしまうのは仕方がないと思います。何を隠そう、私自身も第一子の長男が生まれたときはそうでした。でも、赤ちゃんも大人と同じで、なんとなく気が乗らないという日がありますから。食べない日があっても仕方ないか。って。ちょっと肩の力を抜いて、楽しみながら離乳食期を進めていくことが、もっとも大事なことかもしれません」(中田馨さん)
一方、今回相談者として登場していただくしぃさんは、昨年8月に第一子となる女の子を出産した新米ママ。今年の春先から離乳食が始まり、四苦八苦しているそうです。
「離乳食が始まったばかりのころはまだ良かったのですが、月齢が上がり離乳食の回数や食べられる食材が増えるにつれて、これはどうすればいいんだろう?って思うことも増えてきました。せっかく作ったのに食べてくれなかったり、新しい食材を与えるタイミングが分からなかったり。同じくらいの月齢の子が食べているものでも、うちの子は食べてくれなかったりすると、どうしてだろう……って不安になったりすることもあります。特に平日の昼間は娘と二人きりなので、心細く感じることもしょっちゅうです(泣)」(しぃさん)
しぃさんと同じようなお悩みを抱えている新米ママも多いのではないでしょうか。離乳食のプロである中田さんに早速、離乳食の悩みや疑問を解決してもらいましょう!
……中田馨さん
……しぃさん
こんにちは、しぃさん。離乳食にお悩みとのことですが、お子さんは今何ヵ月ですか?
11ヵ月を過ぎたところです。月齢が上がるごとに分からないことも増えてきて、中田さんに聞きたいことがたくさんあります!
遠慮なく何でも聞いてくださいね。では、早速始めましょうか。
子どもに食事を与えるタイミングがいつも分からなくて……。例えば、夕方の離乳食はお風呂の前と後、どちらがいいでしょうか?
どちらでも大丈夫ですよ。ただ、どちらにしても、消化のことを考えて、寝る2時間前までに食べ終えるようにしてください。また、お風呂を後にする場合は、のぼせて吐いてしまうことがあるので、食後30分くらい空けてから入れるようにしましょう。
あっ!のぼせ……経験あります(汗)。
食後すぐの睡眠も、吐いたものが喉に詰まってしまう場合があるので、できるだけ避けた方がいいですね。もし食べている間に寝てしまったら、お布団に寝かせてからも様子を見てあげるようにしてください。
市販の離乳食を使うこともあるのですが、離乳食の原材料に、まだ食べさせたことのない食材が入っているときがあって……。やっぱり食べさせない方がいいですか?
はじめて食べさせるときは心配ですよね。そういう場合は、食べたことがない食材が複数入っているものは避けましょう。
それはなぜですか?
子どもは食べ物でアレルギー反応が出てしまうことがあります。新しい食べ物が何種類も入っていると、どれにアレルギー反応を起こしたか分からないので、1種類だけにしておいた方が安心です。特に卵や大豆製品といったアレルゲンの食材を食べさせるときは、病院が開いている時間にしましょう。そうすれば、万が一アレルギー反応が起きた場合でも、すぐに病院に連れて行くことができます。
最近は食べられるものも増えてきたのですが、アレルギーの出やすい食材は、アレルギー反応が出ていなくても、あまり量を与えない方がいいですか?
アレルギー反応が出ていないのであれば、目安量を守れば大丈夫です。目安量を超えてしまうと内臓に負担がかかり、未消化のものがアレルギー反応を引き起こすこともありますので、目安量は守るようにしてくださいね。
もう一つ質問なんですが、アレルギー反応が出やすい食材の中でも、特に気をつけた方がいいものは、ありますか?
タンパク質をあげるときは気をつけてほしいなと思います。1回の離乳食でいくつかのタンパク質を与える場合は、必ずトータルの目安量は守ってくださいね。例えば、豆腐と白身魚を併用するのであれば、それぞれの目安量から少し減らすといった具合です。
食材ごとだけではなく、全体量を意識することも大切なんですね!また、万が一アレルギーが出た場合は、どんな症状が出るのでしょうか?
一般的な症状としては、じんましんなどの発疹、咳、嘔吐、下痢などがみられます。一番分かりやすいのは発疹で、だいたい食後30分〜2時間の間にブツブツが出てくることが多いです。そしたらまずは病院に行ってほしいのですが、行く前に必ず写真を撮るようにしてください。
写真を撮るというのは?
発疹などの症状は、病院に着くころには引いてしまう可能性があるからです。写真を撮っておけば診察の手助けになるので安心ですよ。
なるほど勉強になります。それから、うちの子は食べるときにあまりモグモグせず、すぐに飲み込んでしまうのですが大丈夫でしょうか?
あまり噛まずに飲み込んでしまうのには、いくつか原因があります。まず見直してもらいたいのが「スプーンの使い方」。スプーンにのせた離乳食を、赤ちゃんの口の中に入れたり、それを上あごにくっつけてしまっていませんか?
やってしまっているかもしれません……。
それだと、まだ舌がうまく使えない赤ちゃんは、飲み込むしかなくなってしまいます。なので、スプーンは口の中まで入れずに口元までにして、赤ちゃんが自分でパクッとするようにしてみてください。
自分でパクッですね!
それから食べるときの姿勢も大事です。大人でも背もたれにもたれかかったままだと噛む力が少し弱まりますよね?ですから、離乳食を食べさせるときは赤ちゃんのお尻を固定し、しっかりと背筋を伸ばしてあげましょう。同様に、足がプラプラしていても力が入りにくいので、ダンボールなど足が置ける箱を置いてあげるといいですよ。
スプーンや姿勢が原因とは思ってませんでした!勉強になります。
たまにあるのですが、離乳食の時間に寝ていたら起こした方がいいですか?それとも時間をずらして大丈夫でしょうか?
これは時間帯によって対応が異なります。まず、朝の場合だったら起こしましょう。1日のスタートの時間は、なるべく一緒にした方がいいです。お昼の離乳食のときに寝ていた場合も、その後のことを考えて、ある程度のタイミングで起こしてください。そして夜ですが、しぃさんのお宅では普段何時ごろに離乳食を与えていますか?
だいたい夕方くらいです。でも、お出掛けをしたときは遅い時間になってしまうこともあります。
夕方、離乳食を食べる時間になっても寝ているようなら、起こした方がいいですね。一方、お出掛けしていて帰宅が遅くなってしまい、赤ちゃんも寝ているという場合は、母乳やミルクを与えて、そのまま寝かせてしまう形でいいと思います。どの時間帯でも、生活のリズムが崩れないように対応することを心掛けてください。
離乳食の途中で泣いて食べないときもよくあるのですが、そういうときは中断した方がいいでしょうか?
そうですね。泣いているのに食事を続ける方が、喉に詰まらせてしまう可能性があるので危険です。泣き始めたら、抱っこしてあげるなど1回気分をリセットしてから再開するといいでしょう。
赤ちゃんもそうですが、私も気分をリセットした方がいいですよね。
お母さんがイライラすると、赤ちゃんも敏感に感じとってしまいますからね。
はい。気長にやってみます!それから、離乳食も後期になってきたのですが、調味料の使い方もいつも悩んでいます。調味料はなるべく使わない方がいいですか?もし使うなら、いつぐらいから大丈夫ですか?
一般的には7ヵ月以降とされていますが、私たちは9ヵ月以降を推奨しています。食材からの出汁だけで十分な味わいがありますし、出汁を使わずとも、蒸したり、茹でたりするだけでおいしい食材もあります。調味料を使うようになっても、風味づけ程度のほんの少量でいいと思います。味覚は3歳までに形成されると言われています。いずれ濃い味に出会う日が来ますので、それまでは極力薄味にして、出汁の味、素材の味で育ててほしいなと思います。
味覚の形成には今が一番大事な時期なんですね!最後にもう一つ、最近特に悩んでいるのが、スプーンを奪いたがったり、「手づかみ食べ」をしたがるようになったことです。これはどうしたらいいですか?
「スプーンを奪いたがる」というのは道具に興味が出てきた合図なので、ぜひ持たせてあげてください。その際は、赤ちゃんが持っても安全なスプーンにするようにしましょう。「手づかみ食べ」もだいたい9ヵ月くらいから始まりますが、これもぜひ積極的にさせてあげてほしいです。
そうなんですか!?
「手づかみ食べ」は目と手の協調運動になるんですよ。手と口の距離感や、食材の温度、感触などを覚える大事な時期です。「手づかみ食べ」を経験すると、後々スプーンを使うのが上手になります。
そうなんですね。今日は本当に勉強になりました。ありがとうございました!
離乳食の疑問を少しでも解決できましたか?ここでは中田さんがオススメする、新米ママでも簡単に作れる和食の離乳食レシピをご紹介します。
【離乳食初期(生後5、6ヵ月)】豆腐と野菜の蒸し物
材料(1人分)
作り方
※蒸し器がない場合は、フライパンに水をはり、耐熱器をひっくり返して置く。その上に食材の入った耐熱器を置き、蓋をして蒸す。
【中田さんポイント】
「野菜は茹でるより蒸した方が甘みがアップします。離乳食初期は、赤ちゃんも食べ物に慣れていないので、食材はすべて加熱するようにしましょう」
【離乳食初期(生後5、6ヵ月)】白身魚とニンジンの煮物
材料(1人分)
作り方
【中田さんポイント】
「タンパク質はアレルゲンでもありますので、目安量は必ず守るようにしましょう」
【離乳食中期(生後7、8ヵ月)】鶏ささみと里芋のみそ汁
材料(大人2人+離乳食1人分)
※味噌、おろしショウガは、離乳食には入れないので注意してください。
作り方
<離乳食>
【中田さんポイント】
「離乳食中期になった途端に便秘がちになるという子も多いので、お野菜を多めに取り入れたメニューがおすすめです」
「離乳食に限らず、育児においては『こうしなければいけない』という自分の中のハードルを下げることが大切です」という中田さん。
「お母さんたちの中には、毎日必ず手作りの離乳食じゃないとダメとか、赤ちゃんが完食しないとダメとか、自分にも赤ちゃんにも高いハードルを設定して始める人も多いんです。でも、勢いよくスタートダッシュしてしまったら絶対に続きません。ですから、お母さんと赤ちゃんがそれぞれ100点満点を目指すのではなく、それぞれ50点ずつを目指しましょう。
赤ちゃんには個人差があるし、苦手なことや得意なことがあるのは当たり前です。お母さんだって、時にはイライラしたり、怒ってしまうこともあれば、そんな自分に対して自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。でも、私はそれが普通だと思うんです。本当は、今あなたがお母さんでいること自体が素晴らしいんですよ。なので、うまく子育てができなかったと思う日もあるかもしれないけれど、そういう日も含めて、自分自身に毎日『ありがとう』と感謝してあげてください。それ以上頑張らなくても、今のままで大丈夫。あまり肩肘を張らずに、おおらかな気持ちで取り組んでいきましょうね」(中田馨さん)