今回お話を伺ったのは、心理戦略コンサルタントでMENSA会員でもある山本マサヤさん。集中力を高めるテクニックについて教わる前に、そもそも「集中」とは何か、ということについてお聞きしました。
「『集中』とは、今この瞬間に意識を置いている状態のことを言います。未来や過去に意識が向いておらず、自分が使える能力を、目の前のことにフォーカスしている状態です。 『集中』の反対語は『分散』で、いろいろなものごとに興味や心配の意識が向いている状態のことを言います。この状態を『マインド・ワンダリング』と言いますが、人間が集中できないのは、この『マインド・ワンダリング』に陥って、意識が分散しているからなんです」(山本マサヤさん)
例えば、「コンロの火、止めたっけ?」は過去、「今日の晩ごはん、何にしよう?」は未来に意識が向いている状態です。ふと考えてしまいがちなことが、意外と集中力を阻害していることが分かります。
「本当に集中力のある人って、少ないんですよ。多くの人が、1日の半分以上は集中していないと言っても過言ではありません」と山本さん。それでは、集中力を高めるにはどうすればいいのでしょうか。
「集中力はトレーニングすることで、ある程度鍛えることができます。おすすめは『マインドフルネス』です。『マインドフルネス』とは、『今この瞬間に意識を置く』ということ。そして、それを実践するトレーニングのことを言います。集中する体験を何度も繰り返し行うので、脳のスイッチが入りやすくなったり処理能力が上がったりして、意識が分散しにくくなりますよ」(山本マサヤさん)
今回は山本さんに、すぐに実践できて集中力を高められる「ポモドーロ・テクニック」について教えていただきました。「ポモドーロ・テクニック」は、勉強や仕事の効率を上げる方法として、注目を集めているメンタルテクニックです。
「『ポモドーロ・テクニック』とは、『25分集中+5分休憩』を繰り返す方法です。これを4回行った後に15〜30分休憩すると、最も集中できると言われています。
もともとは、ある実業家が独自に実践していたもので、脳の構造をもとに考え出されたものではありません。しかし、人間は集中力を長時間持続できないことが分かっており(※1)、結果として『ポモドーロ・テクニック』は、脳の構造の観点からも、とても理にかなったテクニックだと言えます」(山本マサヤさん)
山本さんいわく、長時間連続して勉強や仕事をするよりも、時間を短く切って小まめに休憩を挟んだ方が、集中力を高めることができて効率的なのだそうです。
「集中できる時間を超えると、人間の脳は飽きてくるんです。飽きると言っても興味を失うわけではなく、脳疲労を起こしている状態ですね。脳がたくさんの酸素を消費することで細胞がダメージを受けるため、細胞を守るために脳を飽きさせて、酸素の消費を抑えると言われています。
このことからも、脳は適度に休ませなければならないことが分かります。そして、『ポモドーロ・テクニック』における『25分集中+5分休憩』というのは、ちょうどいいペースなんです。脳を小まめに休ませることで、仕事や勉強への集中力を高めることができます」(山本マサヤさん)
集中力を上手にコントロールできるようになれば大きなメリットがあると、山本さんは言います。
「何と言っても、無駄な努力が減ります。例えば、『ポモドーロ・テクニック』を取り入れた『25分集中+5分休憩』×2の60分の勉強よりも、60分連続して勉強した方が、脳は疲れるでしょう。疲れた分だけ、より努力をしているように感じられるかもしれませんが、実際には『25分集中+5分休憩』×2の勉強の方が、集中力が高まり効果が出やすいと考えられます。
効率よく仕事や勉強をするためには、やみくもにやればいいというわけではありません。自分の脳の仕組みを理解した上で、集中力を上手にコントロールできれば、時間をうまく使えるようになるでしょう」(山本マサヤさん)
さらにもう1つ、効率のいい勉強方法について、興味深い話を聞かせてくださいました。
「『忘却曲線』というものをご存知でしょうか。人間の脳は、20分経つと記憶したことの42%を失うと言われています(※2)。1時間経つと56%を失うと言われていて、この経過時間と失われる記憶の割合を線で結んだものが『忘却曲線』です。人間の脳は、恐ろしいスピードで記憶を失うようにできているわけですね。
集中力を高めて処理能力を上げると、勉強はどんどん進んでいくかもしれません。しかし、注意しなければならないのが、脳が重要ではないと判断した記憶は、時間の経過とともにどんどん失われてしまうということです。
脳が重要かそうでないかを判断するのは『接触回数』なので、記憶を定着させるには、脳をうまく誘導する必要があります。例えば、『25分で覚えて5分休憩し、次の25分で復習する』と、記憶は定着しやすくなるでしょう。復習するまでに時間が経過すればするほど、記憶が失われる量も増えてしまい、結局またほとんどゼロから勉強し直す羽目になります。
『ポモドーロ・テクニック』と『忘却曲線』を意識し、小まめに復習を繰り返した方が、勉強の効率は上がります」(山本マサヤさん)
「まずは、自分が達成できる目標を立てること。目標は細かく、また具体的に決めた方がいい。そして、目標の達成を通じて自己肯定感を高め、『自分ならできる』という自信をつけながら継続していくことが大事」と山本さん。
メンタルテクニックで集中力を上手にコントロールしながら、仕事でも勉強でも、大きな目標の達成を目指していきましょう。
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※1:樺沢紫苑『神・時間術』大和書房(2017年)
※2:Hermann Ebbinghaus『Memory; A Contribution to Experimental Psychology』(1885年)