ラジオDJ、ナレーターとして人気の秀島さんは、大学在学中にオーディションに合格し、ラジオDJデビューをしました。ハスキーで都会的な声質、あたたかい人柄とフリートークが、リスナーからクリエイターまで幅広く人気です。
そんな彼女も小さいころは引っ込み思案で、人と話すのが苦手な女の子でした。父親の転勤で小学校6年生の時にアメリカに引っ越し、自分の部屋をもらった事がきっかけで、ラジオを聞くように。当時聞いていたラジオは音楽を流す事が中心で、DJは間に少し喋るだけの仕事でした。そのイメージが強かったため、ラジオの仕事を始めてから、色々な人と初対面で話す事になったのは想定外だったそうです。
秀島さんが引っ込み思案を克服し始めたのは、アメリカから帰国し、日本の大学に入学してから。都会のおしゃれな大学生にカルチャーショックを受けたのがきっかけでした。
「このままでは友達ができない」という不安に駆られ、友達を作るためにショック療法のように自分に鞭打って、人が集まる場所に出かけました。そうして数をこなしているうちに、徐々に人と話す事に慣れていったそうです。
また、秀島さんが当時つけていた日記も、コミュニケーション力アップにつながりました。日記にはその日、人と話をした中で失敗した事や反省しなければいけない事もしっかりと記載していて、その習慣によって、気持ちがリセットでき、同じ失敗を繰り返さない事にもつながったそうです。
そして念願のラジオDJになってからは、新たに「ダメだし帳」をつけ始めました。こちらは日記の延長のようなもの。仕事をする中でも、「どこがダメだったのか」という自覚がないと何も変わらないため、意識して改善するために非常に役立っていて、現在でも実践しているそうです。
そうやって、失敗と反省を繰り返してきた努力が実り、今やフリートークが人気のDJとなった秀島さん。次からはそんな秀島さんに、誰でも実践できる会話上手になるテクニックを教えてもらいます。
――人と話す時、まずどんな事を心がけると良いですか?
あいさつが話のきっかけになるように、工夫してみましょう。あいさつはその先にある、より深いコミュニケーションをするための入り口。いかに自分なりの一言を付け加えられるかがポイントです。私はよく天気の話や洗濯物の話など、暮らしが見えるような話題を付け加えています。
話のきっかけは、いかに相手と同じ感覚を共有できるか、というところから探していけば良いと思います。自分の生活を見せると、距離が縮まりますし、共通の話題を見つけやすくなりますよ。
――話題のストックを増やすための習慣やコツはありますか?
私は、町を歩いていても、色々な事を自然に意識しています。「傘を持っている人が多いな」とか、「日差しが強くなってきて肌がひりひりするな」とか、そんな些細な日常の出来事が、会話の切り返しに役立つ事も多いです。
朝起きてから職場に行くまでに、何かしらの外的刺激はあると思います。雨の日の独特な匂いなど、誰もが感じるような事で良いのです。「どこでもドア」で移動するわけではないのですから、何かしらは気づく事があるはずですよね。それを意識して拾う気持ちでいれば、話題が何もないという事態にはならないと思います。
――他にも話題のストックを増やす方法はありますか?
日常生活の中で、人やモノを観察するのも大切です。私はカフェなどで食事をしている時、よく隣の人の会話が気になってしまいます(笑)。聞き耳を立ててはいませんが、自然と耳に入ってくる会話から「介護か~、そういう歳になってくるんだなぁ」なんて、自分に置き換えて考えたりしますね。
世の中には、色々な話があります。話の内容だけでなく、「話し方」についての気づきも興味深いです。隣の席のサラリーマンが「週末、彼女と旅行に行ったのにフラれてしまったよ」という話から、間髪入れずに「低糖質ダイエット」の話になって、「え?フラれた事、全然気にしていない?」と静かにツッコミ入れたくなったり(笑)。会話の「間」でも、話の印象が大きく変わってくるんだなぁと実感しました。
――それでは、「雑談力」を鍛えるためには、どうすれば良いですか?
日常に起こる小さな「トホホ」、つまり「失敗談」を愛してください。人はともすれば自慢話をしがちですが、人が「わかる!」と共感するのは自慢話よりも失敗談です。他にも「勘違いしていた話」や「寝坊しちゃって寝癖が~」などのような、愛すべき「ほころび」を出せる人は素敵だと思います。
準備をしていてもうまく話せないのに、突然話をする事になってしまったら……。そんな時のために、日ごろから色々なシチュエーションを想定しておくと、対応がとても楽になります。
――突然の自己紹介には、どう対処すれば良いですか?
自己紹介も、「トホホ」をまぶすと、自分がどういう人間かが伝わりやすくなります。例えば、「高校でサッカーをやっていました。インターハイに出てキャプテンをやっていました」と言うより、「高校で毎日サッカーをやっていました。おかげさまでこんな立派な太ももになりました」と言うなど、あえて完璧ではない自分を出してしまった方が、お付き合いも楽になると思います。そういったネタのストックがいくつかあれば、突然自己紹介しなくてはならない場面になっても、落ち着いて、相手の印象に残る自己紹介ができるのではないでしょうか。
――相手がすごく不機嫌そう……そんな時はどう対処すれば良いですか?
いつも不機嫌オーラを出している人っていますよね。たいていは、奥さんと喧嘩したとか、ひいきのチームが負けたとか、こちらにはどうにもできない原因なので「さわらぬ神にたたりなし」なのですが……どうしてもコミュニケーションをとらなくてはいけない時もありますよね。そんな時は、普通に接するのが一番です。こちらがびくびく対応すると、不機嫌を助長させ、火に油を注ぐ事にもつながりますので、勇気を出して、あえてフラットに接した方が良いと思います。
私は、不機嫌な人に接する時は、「これも修行のひとつ、この経験が自分を強くしてくれている」と思って、相手に気持ちを引きずられないようにしています。ただ、その人の好きな話題など、相手のフィールドで話をする事は心がけていますね。不機嫌な人でも、その人の得意分野に話題を集めていくと、ちょっとずつ気持ちがほぐれていくという事はよくありますよ。
――不機嫌を通り越して攻撃的になる人もいます。どのように受けとめれば良いですか?
身に覚えがなかったり、パワハラ、モラハラのような場合は、適当に受け流す事を心がけます。自分とは波長も価値観も考え方も違う宇宙語で喋っていると思えば、真正面から受け止めずに済むのではないでしょうか。
的を射た指摘であれば、素直に謝ったり、改善すれば良い話ですが、攻撃的な人は、あなたという人間にではなく、「言いやすい誰か」に言っているだけなのです。個人的な受け取り方をする必要はありません。何を言われても相手の悪意を吸収しないように、心に「防水加工をする」イメージでスルーしておきましょう。
また、そういう人は「誰かに言いたいだけの人」なので、言いたいだけ言わせてあげましょう。ただ、「はい、はい」という相槌では「ちゃんと聞いているの?」と更に怒られたりするので、「おっしゃる通りです」とか「なるほど、そうなんですね」、「思ってもみませんでした」、「おかげで気づけました」など、色々な相槌のバリエーションを備えておくと、相手も怒りをさやに納めやすいのではないでしょうか。とはいえ、本来パワハラ、モラハラなどは、断じて許されません。信頼できる誰かに相談するなど、別の角度からの行動を起こす事も突破口になります。
――人間関係で一番大切な事は、何だと思いますか?
私は「想像力」だと思っています。同じ言葉であっても思い浮かべるイメージは人それぞれなので、「自分と相手は違う」という事を大前提にして、その上で、相手はどういう気持ちで言っているのだろう、受け止めているのだろうと想像して、対応するように心がけています。
想像力は、色々な人と話す事で鍛えられます。人と話す経験値が増えていけば、話題のストックも自然とたまっていくので、一石二鳥ですね。また、キャッチコピーなどで面白いと思う言葉を見つけたら、穴あき作文のように言葉を入れ込んでみる事でも、想像力は鍛えられます。「そうだ○○、行こう。」みたいな。そういうものを見つけられる好奇心も大切です。
今は簡単に色々な情報が入手できる時代ですが、ネットで得た情報と、実際に体験して得た情報には大きな違いがあります。ネットの情報はあくまでもフィルターがかかった二次情報。会話の間や表情、口調など、総合的なものがあってこそ、立体的な情報になります。
例えば、話す間やトーンで意味合いが変わる事に気づいてからは、大事な話は意識してゆったり低めのトーンで話すようにしていますね。そういった事がうまくコントロールできた時に、効果的に相手に伝わるのだと思います。
また、相手の状況を観察するのも大切です。急いでいる相手に、マニュアル通りのんびり対応をしていたら、イライラされてしまうでしょう。相手に合わせて柔軟に対応する事は、重要な技術のひとつです。
いかがでしたか?話題のストックの集め方や、「雑談力」の鍛え方、相手や場面に合わせた対応をするための想像力の鍛え方など、すぐに実践できるコミュニケーション術を、秀島さんにお伺いしました。
今回お話しいただいたコミュニケーション術は、筋肉に例えれば、いわばインナーマッスルと言えるもの。日ごろから鍛えておく事で、色々な場面でのコミュニケーションが円滑に進むようになるでしょう。あなたも「会話のインナーマッスル」を積極的に鍛えて、ぜひ生き生きとしたコミュニケーションを楽しんでください。
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