文字の特徴から、書いた人の性格を分析するプロ、それが筆跡診断士です。「筆跡仕事人」の代名詞で知られる芳田マサヒロさんは、これまで3,000人以上を筆跡に基づいてカウンセリングしてきた、ベテラン筆跡診断士。芳田さんが筆跡診断士になるきっかけは何だったのでしょうか?
「僕は20代から、舞台俳優、タレント、声優、ナレーター、ライターといったさまざまな職に就いてきました。いずれの職でも突き抜けるところまでいかず、悩んでいた40代前半のあるとき、たまたまテレビ番組で、筆跡診断士という職業があることを知ったんです。『文字のクセからその人の性格が分かるって面白いな』と、何か直感するところがあり、どうすれば筆跡診断士の資格を取れるのかをすぐに調べました」(芳田マサヒロさん)
もともと、俳優として文字で書かれた台本を舞台で表現したり、ナレーターとして文字を声に乗せて届けたりする仕事に関わってきたことで、文字が持つパワーを感じていたという芳田さん。筆跡診断の勉強を始めて日本筆跡診断士協会認定の資格を取得しますが、筆跡についての学びを深めるほどに、「ひらめきというか、文字の神様的なものが降臨してきた(笑)」そうです。
「手書きの文字には、その人の人間性がにじみ出るんです。性格、行動傾向、未来を切り開くためのポテンシャルまで見えてきますね」(芳田マサヒロさん)
筆跡の世界の奥深さを知り、自身の書く文字も意識して変えていったという芳田さん。その結果、芳田さんは筆跡を変えることで、人生も望む方向に変えられることを実感したそうです。
「『こうなりたい』という理想を思い描いて、その理想を意識した筆跡を身につけたことで、なりたい自分になることができました。貯金もでき、ついに筆跡診断士として独立。国内初の筆跡診断サロンを構えることもできたんです」(芳田マサヒロさん)
筆跡診断が占いやスピリチュアルと異なるのは、性別や職業・属性などを踏まえた、膨大なデータに基づく統計学的・心理学的な側面があることだと、芳田さんは言います。筆跡から個性や潜在意識を読み解く「筆跡心理学」がベースにあり、時には筆跡の傾向からその人の職業が分かることもあるんだとか。
「例えば、警備のお仕事をされている方は、『様』の偏(へん)とつくりの間隔がとても狭かったり、『田』や『口』の線同士が接して角ばった印象だったりする方が多いです。これらの特徴には、他者を内部に寄せ付けない、警戒心の強さが表れています。
また、結婚相談所を営む仲人士の方は、文字が横に広がる度合いがとても強いです。文字を左右に広げながら下まで書いていくのって、縦書きの運筆では無駄な動きなんですよ。まさに、効率重視ではない、世話好きでおせっかいな性質の象徴ですね。そういう筆跡の方だからこそ、人と人との縁を結ぶ仲人士に向いているんです」(芳田さん)
本当に、筆跡からその人のことが分かるのでしょうか?ということで、今回は芳田さんに、「炎のアラサー婚活ヲタ女」こと、人気ブロガー・えむこさんの筆跡を診断していただきました。二次元のキャラをこよなく愛する根っからのオタクで、現在は「婚活で迷走中」だと言うえむこさん。芳田さんには「婚活中のアラサー女性」ということ以外は告げず、あとは文字だけを手掛かりに、えむこさんの性格を診断していただきました。
「どんなふうに診断されるか、緊張します!」と、えむこさん。以下が、えむこさんに書いてもらった直筆の文字(※住所も宛名も架空のもの)です。ここからは、芳田さんとえむこさん、お二人の会話でお届けします。
芳田さん:事前に書いていただいたこちらの宛名は、筆跡診断でマニュアル化された70の特徴を網羅できる文字を並べたものなんです。第一印象としては、すごく頑張って書かれたなという感じですね(笑)。全体に緊張感が漂っています。
えむこさん:あ、でも私、いつも宛名を書くときはガチガチに緊張するクセがあるんです。
芳田さん:なるほど。でも緊張して書いても崩して書いても、実は文字の特徴については、さほど変わらないんです。
それでは、まずは文字を構成する横線の間隔から見ていきましょうか。最初は等間隔ですが、だんだんと間隔がズレてきていますよね?
えむこさん:本当だ!この間隔は何を表すんですか?
芳田さん:文字の中の横線の間隔が均等で、空間分割が上手な人は、バランス感覚に優れていて段取りもよく、論理性や計画性がある人です。そういう人は、自分がどう思うかよりも、客観的に他人からどう見えるかを大事にする人です。
えむこさんの筆跡は、一見すると等間隔ですが、よく見ると意外に等間隔ではない箇所もありますよね。えむこさんは、論理よりひらめきを大事にするタイプだと思います。
えむこさん:確かに。直感で動くほうが多いかもしれません。
芳田さん:また、えむこさんは、名前の「黒」の文字をはじめ、どの字も右上が角ばっていて丸まっている部分がない「転折角型」です。ルールをきちんと守るタイプですが、少々頭でっかちになりがちな性格が見てとれますね。
それから「田」や「由」の文字を見ると、下の閉じるべきところがやや開き気味ですよね。文字の締めくくり部分は、細部まで意識が行き届いているかを表します。ここが離れているということは、忘れ物やうっかりミスが多いのではないでしょうか?
えむこさん:あ~、忘れ物とかめちゃくちゃ多いですね。
芳田さん:この他にも、左上の線と線が微妙に開いている文字がいくつかありますよね。性格的にどっちつかずになりがちというか、優柔不断な印象を受けます。基本的に真面目な性格なので、あまり表には出ていないかもしれませんが。
えむこさん:その通りです……。私、買い物がすごく苦手なんですよ。人のものを選ぶことはできるんですけど、自分のこととなるとだめ。決断力がなくて。「これ、本当に必要だったかな?」って考え込んでしまって、そこから進めなくなっちゃう。
芳田さん:自分のことに関しては優柔不断になりがちなんですね。でも、嘘や妥協は許さない正義感の強さもあります。すべての字に言えることなのですが、一画一画が途切れて独立していますよね。これは典型的な楷書の書き方。冷静で落ち着きがあり、割り切った考え方をするタイプです。
その一方で、「様」や「東」の文字の右ばらいはやや長めですよね。普段は理性的で淡々としていますが、何かに熱中すると、ものすごくのめり込んでしまうのではないでしょうか?
えむこさん:そうですね……。「炎のアラサー婚活ヲタ女」って自称しているくらいですから。これって趣味だけじゃなく、もしかして恋愛にも通じますか?
芳田さん:そうですね。線の終わりのブレーキが効かず長めに伸びる人は、恋愛においても気持ちがぐぐっと入り込んでしまう一面があると思います。
それから、この長い住所を一行に収めているところも、猪突猛進な一面を裏付けています。好きになったらとことん一途。浮気はしないタイプだと思います。
えむこさん:そうか、この長さなら二行に分けて書く人だっていますよね……。うん、こうやって見返すと住所の字がだんだん小さくなってきているし、字間も狭くなってきている。それでも、なんとか一行に収めようとしているのが分かります。
芳田さん:「はね強弱混合」と赤字を入れているのは、はねるべきところが、はねていたり流れていたりと、強弱が混合しているということ。こういう人はオンとオフが非常にはっきりしています。真面目にきちんと頑張るけれど、手を抜くところは徹底的に抜くのではないでしょうか?
えむこさん:……もう、さっきから「おっしゃる通りです」としか言えません!私、完全なオフというか、「何もしない日」っていうのを自分で決めているんです。その日は布団から出ないくらい何もしない。そのうち「文字を書くのも嫌」とか言い出すかも(笑)。
芳田さん:でも、今は全体的に仕事へのモチベーションが上昇している時期ではないでしょうか。「田」や「由」の文字では、上下左右で閉じられた線の中の空間がわりと大きいですよね。これは今の自分のエネルギー量やモチベーションの高さを表します。
えむこさん:あんまり自覚はないのですが。気力十分、という感じに見えるんでしょうか?
芳田さん:はい。大きくて外に張り出すような元気さがある。これがもっと大きくなり過ぎると他の空間をつぶしてしまうので、ほどよい大きさだと思います。
ただその一方で、ややネガティブな性格で過去に引きずられることもありませんか?住所の書き出しの「東」の文字から下の番地にかけて、行が少し右にずれていますよね?はがきは時系列的に、これから文字で埋めていく左側を未来、書き終わった右側を過去とみます。ここが微妙に右に流れているということは、過去の出来事に心を引きずられているのかもしれません。
えむこさん:確かに。最近、ちょっとつらいことがあって……。でも、もともとポジティブモンスターとかにはなれないタイプであることは間違いないです。SNSにも愚痴を書いちゃうタイプ(笑)。
芳田さん:それが正解だと思いますよ。ほら、「子」の文字の入り口がすごく柔らかいですよね。これは「起筆すなお型」といって、とても素直で純粋な性格の持ち主である証です。SNSで無理してポジティブな話を投稿するよりも、素直に自分を出せることのほうが、えむこさんの性格には合っていると思います。
線と線のスペースをどれくらい取るか、はらいを伸ばすのか止めるのか、はねをしっかりはねるのか流すのか……。「字を書く」という行為は、どうやら私たちが思っている以上に、書く人の性格や気質が表れてしまうようです。
筆跡診断の結果を元に、婚活中のえむこさんへ、芳田さんから恋愛アドバイスをお願いしました。
芳田さん:えむこさんは、すごく真面目で素直で誠実なタイプです。相手のことを信じる気持ち、受け入れる気持ちは人一倍強い。いったん誰かを好きになったら、前のめりになりがちだという印象を受けました。一途さゆえに、他の人には全然目が行かなくなるので、浮気の心配はないでしょうね。
ただ、ちょっと真面目過ぎて柔軟性に欠けるところが見えますね。文字全体がカチコチに角ばっているのを見ると、気が利いたことを言うのは苦手なタイプかなと思います。
えむこさん:初対面の人と話を弾ませるのとか、すごく苦手ですね……。私の場合、恋愛は相手に流されて始まるパターンがほとんどで。自分ではそんなつもりはなかったんですが、振り返ってみると誠実であろうとし過ぎるあまり、無意識に我慢を重ねていたのかもしれません。
芳田さん:もしも今後、婚活の面で人とのご縁の巡りを良くしたいと考えているようでしたら、偏とつくりの間の通り道、気宇(きう)と呼ばれる部分を、スッと通すように意識するといいですよ。ここを広げると、自ずとも気持ちも外に向いて、出会いのチャンスが巡ってくるようになるはずですから。
えむこさん:文字のクセを直すことで、意識が変わって、アクションも変わるんですか?
芳田さん:変わりますね。もう一つ、女性らしい魅力をアップさせたいときは、左ばらいを長めにしようと意識するといいと思います。えむこさんの場合、「様」の右ばらいは長めですけど、左ばらいは普通ですよね?ここを、ドレスの裾をサッと払うように長めに流すといいですよ。
女優さんやタレントさんは、この左ばらいが長い人が多いんです。自分の魅力を表現する、華やかにきれいに見せる意識が生まれてきますから。
えむこさん:左ばらい、意識します!あと、これは恋愛相談とはちょっと違うんですが、ブログをやっていると悪意や敵意をぶつけられることもあって、それをうまく受け流せない自分が本当に嫌で……。いつも真正面から全部受けとめて傷ついてしまうんですが、どうやったら治せますか?
芳田さん:文字の左上、横線と縦線が接するところを少し開き、右上の角部分に少し丸みをもたせるといいと思いますよ。心の緊張が緩むとともに気持ちに余裕が出て、楽に受け流せるようになるはずです。
えむこさん:なるほど。文字に遊びの隙間、余裕をつくってみるんですね。今日からぜひ実践していきます。ありがとうございました!
筆跡から自分の性格や恋愛傾向を知ることは、きっと役に立つはず。えむこさんにとっても今回のアドバイスは、婚活を乗り切るための参考になるでしょう。
文字のクセから、その人の性格が分かる筆跡診断。筆跡は意識や練習次第でどんなふうにでも変えることができます。理想の自分をイメージしながら文字を書くことは、きっと良い変化をもたらしてくれるはず。今回ご紹介した筆跡診断の結果を参考にしながら、あなたもこの機会に、自分の文字を見つめ直してみてはいかがですか?
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