図面を見ながら、テキパキと指示を出す現場監督。ふと見ると、そこには場を和ますようなやわらかな笑顔がありました。岡明恵さんは建設会社に勤める土木技術員。今は主に道路工事の施工管理を任されています。
「だいたい2〜3年のスパンで現場が変わるのですが、ここは私にとって4つ目の現場です。子どもがいるので今は時短勤務ですが、以前と同じように施工管理をしています。産休を経て、同じ仕事に戻ってこられたのは本当に幸せなこと。家族や上司、同僚、作業員の方たち、それに友達……、いろんな人たちに支えられ、協力してもらっていますね」(岡さん)
岡さんが現場を行き来すると、あらゆる場所で「お、元気?」「どう?」など、いろいろな方々から呼びかけられます。
「こちらが所長で、この方は作業員さんをまとめる親方。あ、この子は昨年入った新入社員で、私の後輩、21歳。かわいいでしょう!彼女が現場に行くと、すっごく場が和やかになるんですよ(笑)」(岡さん)
そう話す姿からは、岡さんが心から土木の仕事を楽しんでいる様子が伺えます。
岡さんは進路を決めるとき、モノづくりがしたいという思いを抱いて、大学の土木学科に進学を決めました。
「外を歩いていたとき、ふっと思ったんです。建物だけじゃなくて、よく考えたら駅も、道も、歩道橋も、全部誰かが作ったもの。みんながずっと使えるものを作るのっていいなって。それで、街づくりに興味がわいてきたんです。将来は、何か好きなことを仕事にできたらと思っていたので、土木学科がある大学に進もうと決心しました」(岡さん)
その後、岡さんは建設会社の土木技術員として就職します。
「土木技術員とは、建物を設計したり、実際に施工管理をしたりする人です。多くの会社が、土木技術員としての入社条件に、大学の土木学科卒か土木関係の専門学校卒を条件にしています。ですから、私としては自然の流れでしたね。
とにかく現場に出てモノづくりがしたかったので、就職活動時はその可能性があるかどうか、自ら聞いて回りました。中には当時、さまざまな理由で『女性を現場に出さない』と決めている会社もあったので」(岡さん)
工事現場や土木の仕事というと、女性が圧倒的に少ないイメージを持たれる方も多いでしょう。力仕事が必要なのではないか、危険が伴うのではないかと思われがちですが、施工管理の仕事は全く違うと、岡さんは説明してくれました。
「工事現場の施工管理というと、泥だらけになっているイメージで女性には印象が悪いかもしれないですけど、実際はそんなことありません。土木技術員のメインの仕事はマネジメント業務で、そのための工程、品質、コストなどの施工管理を行っています。
ある程度の測量は私たちの業務なんですが、女性にとって大変なことを強いて挙げれば、その機械がちょっと重いことくらいかな。良くも悪くも性差を感じない仕事なので、女性でも遜色なくやれますし、快く迎え入れてくれることの方が多いですよ」(岡さん)
発注元からの依頼を設計のプロが図面にし、それを元に現場を作っていくのが施工管理の仕事。限られた工期と予算の中でどのように工事を進めていくかを考え、実行に移していきます。必ずしも予定通りにいくとは限らない工事の過程には、想像もできないようなハプニングも。
「地下水位の高い地域の工事は大変でしたね。もちろん地下水位は事前調査をしますが、実際に工事を行ったところ、予想外の事態が発生したんです。その現場は事前の想定と違って、1m掘っただけで水がドボドボ出てきてしまい、やれどもやれども工事が進みませんでした。翌日の作業員さんにどうやって指示を出そうかと、夜な夜な頭を抱える日々が続きました」(岡さん)
工事の方法を変えれば、発注元との話し合いも発生します。金額の交渉が必要かもしれません。そうやって複雑なパズルを幾度となく組みなおし、やっと完成を目にした時は、とても達成感があり感慨深かったそうです。
「嬉しいという気持ちと、ああ、やっと終わったという肩の荷が降りた安堵感、両方がこみ上げてきました。でも、頑張ったことが必ず目に見えるのが土木の仕事のいいところ。それがモチベーションにつながっています」(岡さん)
ところで、現場で一定(※)の経験を積むと、「1級土木施工管理技士」の受験資格を得ることができます。「1級土木施工管理技士」は「監理技術者」という資格を取るために必要なステップで、岡さんの会社では合格することが必須なのだとか。日々の業務に加え、試験勉強もこなさなければならないので、とにかく覚えることが膨大です。
「『監理技術者』は、工事において全ての責任を持つという立場なので、土木技術員としてのキャリアアップにも欠かせないものなんです。だから私の会社でも、必須科目のようになっています。
試験の勉強は大変でしたが、知識の量が増えたのは良かったですね。たとえば、川や海の工事について私は全く経験がないのですが、それらの用語も覚えることができましたし、後から実際に現場で見て言葉の意味が分かったりもしました」(岡さん)
苦労した甲斐あって、無事に「1級土木施工管理技士」の資格取得を果たした岡さん。試験勉強で身につけた知識は、自分の財産になったと話してくれました。
※受験資格の得られる年数は、条件によって異なります。
最後に、今後岡さんが土木の現場でチャレンジしていきたいことについて聞いてみました。
「あえて女性の立場で言うと、実は出産を経て時短勤務で現場に戻らせてもらっていること自体が、この会社で初めてのことなんです。正確に言うと今まさにチャレンジ中なのですが、子どもがいても、勤務時間が短くても、ずっと現場監督を続けられたらと思っています。女性の土木技術員が、どんどん後に続いてくれたら嬉しいですね」(岡さん)
ライフステージが変わってもイキイキと働く、岡さんのような女性の姿を見て、お手本にしたいと思う後輩は多いはずです。また将来、土木の仕事につきたいと考えている女性たちにとっても、勇気をくれるでしょう。
「もしもあなたが、女性だからと言って土木の仕事に対して身構えているのであれば、全く関係ないのでご安心を!むしろ、女性がいると現場の雰囲気がいいと、喜ばれることもたくさんあるんですよ(笑)。ぜひあなたも思い切って、土木の仕事に踏み込んでみてください」(岡さん)
ポジティブなオーラで、自らのキャリアの幅も、女性としての可能性もどんどん広げていく岡さん。そして私たちの住む街にどんな道を切り開いてくれるのか、そちらも楽しみですね。
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