心理カウンセラーとして、15,000人以上にカウンセリングを行ってきた中島輝さん。これらの経験を元に、自己肯定感を高めれば人生、仕事、恋愛、子育てなどが好転する「ナチュラル心理学」を提唱しています。
「自己肯定感は、人生の軸を支えるエネルギーになります。もともと自己肯定感はすべての人に備わっているのですが、取り巻く環境やその人のコンディションによって強くなったり、弱くなったりします。例えば、外出前に髪をセットした時、同じような仕上がりなのに気分良くすぐに出かけられる日と、この仕上がりでは駄目な気がしてなかなか家を出られない日がありますよね。それは、その時の自己肯定感が高いか低いかの違いなのです。
自己肯定感が高い状態を『常に自分にYesと言える状態』と定義する心理学の研究者もいます。つまり、自己肯定感が高いと、どんな困難に直面しても『自分にYesと言える状態』なので乗り越えることができ、未来を切り開いていく力を持つことができます。逆に自己肯定感が低いと、『自分にYesと言えない状態』なので他人に振り回されてしまい、自分の可能性を制限してしまいます」(中島輝さん)
確かに自分自身を振り返ると、自己肯定感が高い日と低い日があり、それによって自分の行動が左右されているのでは?と思い当たる節があります。ではなぜ、中島さんは心理学の中でも自己肯定感に着目したのでしょうか?
「私が自己肯定感に着目したのは、多くの人をカウンセリングしてきた経験が元になっています。人生に行き詰まりを感じている人は、周囲から認められたいという承認欲求が満たされていないことが多いのですが、カウンセリングで承認欲求だけを満たしたとしても、それは一時的な癒しに過ぎず、根本的な問題解決にはならないのです。この問題を解決するためには、認められたいという気持ちを超えて周囲から嫌われる勇気を持ち、自分自身の人生を生きていくための自己肯定感が必要だとわかりました。もともと日本は他人と比べる文化、プラスを求めるよりもマイナスを恐れる文化のため、海外に比べると高い自己肯定感を持ちにくい傾向があります。さらに今の時代は、SNSの発達でこれまで以上に他人と自分を比べてしまい、自己肯定感が低くなる要素が増えていますよね。しかし、自己肯定感は何歳からでも育てることができますし、低くなってしまった時にはパッと一瞬で高めるテクニックを身に付けることもできます」(中島輝さん)
自分で自己肯定感を高めることができると聞くと、とても心強く感じます。ですが、自分の自己肯定感が高いのか低いのか、自分では判断できない方も多いのではないでしょうか?
中島さんによると、自己肯定感は「6つの感」により支えられているとのこと。「6つの感」のうち、何が低下しているのかを知ることで、現在の自己肯定感の状態を知ることができるそうです。
■自己肯定感を支える『6つの感』
この「6つの感」のうち、どれが低くなっているか、以下の質問でチェックしてみましょう。質問内容に当てはまると思えば、その質問に示されている「感」が低くなっています。
(引用:『自己肯定感の教科書』/SBクリエイティブ)
「どの『感』が低くなっていたでしょうか?『6つの感』はそれぞれが密接につながり、連鎖的に影響を及ぼしながら自己肯定感を形作っています。この質問のYes/Noも、その時の状況によって変わりますが、『この質問は当てはまる時が多い』と思う『感』もあると思います。それは、その『感』が低下しやすいという、『心のクセ』です。クセを把握することで、自己肯定感を高い状態にするための対処が取りやすくなります。
しかし、ここで注意したいことが、『自己肯定感を高めなくては!』と思ってしまうことです。『高めなければならない』『高めるために対処しなければならない』と自分を縛ることは、自己肯定感を低い状態にするキッカケになり、逆効果です。自己肯定感は『高める』ではなく、勝手に『高まる』ものなのです」(中島輝さん)
自己肯定感を高い状態にするテクニックやトレーニングは、肩に力を入れて頑張って「高める」のではなく、「安心、楽しい!大丈夫、大丈夫」とリラックスして、時には「まあいっか」と気軽に取り組み、いつの間にか「高まっている」ものだそうです。では、実際のテクニックやトレーニングを中島さんに教えていただきましょう。
自己肯定感を高い状態にするための方法を紹介していきます。自己肯定感を今すぐ高めることができる「瞬発型」のテクニックと、じっくりと自己肯定感を育てていく「持続型」のトレーニングがあります。
「6つの感」別 「瞬発型」テクニック
1.「自尊感情」が低い時:鏡の中の自分に「今日もいい感じ!」など、ポジティブな言葉をかける。
自分にポジティブな言葉を伝えることで、否定的になっていた潜在意識が書き換わります。
2.「自己受容感」が低い時:自分で自分をぎゅっと8秒抱きしめ(セルフハグ)、「頑張っているぞ、私」など、自分を褒める言葉をかける。
セルフハグをすることで、幸福感をもたらすホルモンを自分で刺激できます。
3.「自己効力感」が低い時:明日、着る服を前日に決めておく。可能なら1週間分決めておく。
些細なことで悩む時間は、自己効力感を低下させます。前もって決めておくことで、無駄に悩む時間が減ります。
4.「自己信頼感」が低い時:好きな風景のポスターや絵を玄関に飾り、ポジティブな感情で出かけられるようにする。
自分にとって安心できる空間である家から外に出る時、無意識のうちに感じてしまう不安や緊張を取り除きます。
5.「自己決定感」が低い時:好きなものだけを見たり考えたりする時間を作る。
休憩時間に10分だけでも好きなことについて考えると、「次は好きなことについて●●したい」と小さな目標を決めることができます。
6.「自己有用感」が低い時:良好な関係にある人と話す。
職場や学校などオフィシャルな場から離れた友人、仲間とざっくばらんに話すことで、日常の役割から自由になり、人の目を気にする束縛から解放されます。
「これらのテクニックは、複数の『感』に役立つものもあります。『6つの感』はそれぞれが有機的に作用し合っているので、一つの『感』が高まると、他の『感』も刺激されて高まっていきます。また、自己肯定感は高まったり低くなったり……と揺れ動くものなので、日によって違う質問に当てはまることもあるでしょう。複数の質問が思い当たったり、明確に当てはまる質問がなかったとしても、まずは実践してみてください」(中島輝さん)
次に、じわじわと自己肯定感を高める「持続型」トレーニングの3つのステップを紹介します。
「持続型」トレーニング 3ステップ
1.自己認知:今の自分を知る。
自分自身を客観視するトレーニングを行います。例えば、自分自身が生きていく上で大切だと思っていることを書き出し、それぞれの項目について満足度を10点満点中何点か採点する「ライフチャート」を作ってみましょう。自分の現在地を知ることができます。
2.自己受容:自分の現在地を知った上でそれを受け入れる。
今の自分にプライドを持ち、受け入れ、前に進むためのトレーニングを行います。例えば、1年後、3年後、5年後、死ぬ間際にどんな自分になっていたいか、思い描いているイメージや具体的な目標、それを実現した時によぎるはずの感情を書き出してみる「タイムライン」を作ってみましょう。進むべき道筋がはっきりした未来へ、明るく前向きな気持ちで進むことができます。
3.自己成長:自分の現在地から成長していこうとする。
自信を持った行動をして自分を成長させるために、肯定的な自己宣言を意味する「アファメーション」を習慣化するトレーニングを行います。例えば、毎日「今日良かったこと」を3つ挙げて書き出す「スリー・グッド・シングス」を続けてみましょう。日ごとに自分への期待感が高まり、ポジティブに行動できるようになります。
持続型トレーニングはここで紹介した以外にもさまざまな方法がありますが、大切なのは小さな成功体験を積み重ね、昨日の自分よりも成長できたと実感し、より成長できるように次へ向かうことです。そのため、興味のある趣味を増やしたり、いろいろなことを学ぼうとすることはとても良いトレーニングになるそうです。
「大人になってから新しい趣味や勉強にチャレンジすることについて、『今からやって意味あるの?』『そんなことを勉強して何になるの?』と言う人がいますが、そのようなことを言う人は自己肯定感が低い人です。大人になると、自己肯定感は低くなりがちなのですが、その理由はたくさんの失敗体験をしてトラウマが増えていくこと、そして多くの人と知り合うことで比較する機会が増えていくことなどにあります。『何の意味があるの?』と言う人は、何でも比較することが身に付いてしまっています。
大事なのは、他人と比較するのではなく、自分自身を比較すること。趣味や自己学習を通じた成功体験はあればあるほど、自分を認めることができて、大きな自己肯定感を育むことができます。何歳からでも大丈夫なので、ぜひチャレンジしてみてください」(中島輝さん)
自己肯定感が高い状態にあると、人生の軸がしっかりして未来を切り開いていく力が湧いてきます。また、自己肯定感が高まるテクニックを身に付けると、たとえ低くなってもそれを受け入れ、高まるようにコントロールすることができます。過去の失敗や他人との比較にとらわれず、自分らしい毎日を送るためにも、高い自己肯定感をキープできるように心がけてみませんか?