あなたは人前に出ると緊張して手足が震えたり、顔が赤くなったりすることはありませんか?人と関わりを持つ場面で、恥ずかしさや不安を感じやすい人のことを「人見知り」「あがり症」などと呼んでいます。ご自身のクリニックでも人見知りに悩む多くの患者さんを診察する反田克彦さんによると、「日本人には遺伝的に人見知りが多い」のだそうです。
「日本料理店では横並びで座るカウンター席が上等とされているように、日本人はそもそも相手と向かい合うのを苦手とする人種です。精神の安定に関わるセロトニンを調整する『セロトニントランスポーター』という遺伝子の働きを調べた研究によると、不安をあまり感じないタイプの人の割合が、アメリカ人は32%いるのに対し、日本人にはたったの2%しかいないという結果が出ました。つまりほとんどの日本人が不安を感じやすく、些細なことを気にしやすい性質だと言えるのです」(反田克彦さん)
不安を感じやすいということが遺伝的にも証明されているので、日本人に人見知りが多いのは仕方のないことなのかもしれません。
人見知りを引き起こすのは遺伝的要因ばかりではありません。私たちが感じる次の2つの「不安」が、人見知りに大きく関係していると反田さんは指摘します。
1.評価される不安
自分が人に悪く思われているのではないか、批判されるのではないかという不安。評価される不安が強いと、人前で自己紹介をしたり、スピーチしたりすることが苦痛に感じられます。
2.見透かされる不安
普段は隠している本当の自分や弱い自分がばれてしまうのではないかという不安。見透かされる不安が強いと、人の視線を恐怖に感じたり、相手と目を合わせたりすることが苦手になります。
では、なぜ人見知りの人は、このような不安を感じてしまうのでしょうか。
「人見知りの人は他人から視線を受けると『批判されている』と誤解してしまいがちです。その原因は自分に自信を持てないから。自分が相手より劣っていると思い込み、相手に気後れしてしまうのです。このような『自己評価の低さ』が『評価される不安』や『見透かされる不安』を引き起こし、人見知りやあがり症へつながっていると考えられます」(反田克彦さん)
ちなみに「人前に出るのが苦手」「緊張しやすい」という程度の人見知りであれば、大きな心配は必要ありません。人見知りは考え方のクセや傾向のようなものなので、ちょっとしたトレーニングによって改善が見込めるからです。しかし、人前に出ることに極度の苦痛や恐怖を感じるような状態が長期間続いている場合は、人見知りが深刻化した「社交不安症」という病気へと進んでいる可能性があるため、治療の対象となります。以下のチェックリストに該当する症状がある場合は、専門医への相談を検討してみましょう。
<社交不安症チェックリスト>
□ 人との雑談や人に見られること、人前でなんらかの動作をすることに著しい恐怖または不安を感じる
□ 自分の振る舞いが他者に批判されたり、他者の迷惑になったりするのではないかとひどく恐れている
□ 人前に出ることや他者とやりとりすることに著しい恐怖や不安を感じるために、社交的な場面を回避してしまう
□ 以上の状態が6ヵ月以上持続している
人見知りのメカニズムは分かりましたが、私たちが自分自身で人見知りを克服することはできるのでしょうか。
「緊張によって震える『体』や不安に思う『気持ち』そのものを変えることは簡単ではありません。しかし不安を引き起こす『考え方』のクセを修正したり、苦手な場面を回避するような『行動』を改めたりすることによって、体や気持ちに表れる不安を和らげ、人見知りを改善させることは可能です。このように考え方や行動を変えることで、体や気持ちに変化をもたらす方法を『認知行動療法』と言い、うつ病やパニック障害などの治療にも取り入れられています」(反田克彦さん)
反田さんが提案する人見知りを改善するための3つのステップは次の通りです。
STEP1:考え方を変える
人見知りの人は、「決めつけ」によって自らを不安に陥れてしまう傾向があります。例えば「私は肝心なときいつも失敗する」という考え方。現実にはそんなはずはなく、「失敗する」というのは本人の勝手な決めつけに過ぎません。このような考え方のクセを修正し、「いつも失敗するとは限らない」というふうに、考え方を現実へと近づけることが不安の解消に役立ちます。ネガティブな考えに陥りそうなときは、「これは決めつけではないか」と疑うようにしましょう。
STEP2:行動を変える
考え方を修正するとともに、実際の行動を変えていきます。絶対にNGなのが、失敗を恐れて苦手な場面を「回避」することです。「見知らぬ人が集まる会合を欠席する」「頼まれたスピーチを断る」といった行動は回避にあたります。回避を続けると自己評価がますます下がり、さらに人見知りがひどくなってしまいます。苦手な場面にもしっかりと向き合い、「雑談は無理でもあいさつだけはする」など、あらかじめ立てておいた実現可能な小さな目標を達成することで、自己評価を高めることが大切です。
STEP3:練習をして自信をつける
「決めつけ」のような考え方のクセや、「回避」のような行動を修正しながら、日常生活の中で練習を重ねていきます。雑談したり、人前で話したり、注目されたりといった場面で小さな目標達成を繰り返し、成功体験を積み重ねましょう。そうすることで少しずつ自己評価が高まり、不安が解消され、人見知りの改善へとつながっていくのです。
さらに反田さんからのワンポイントアドバイス。
「どうしても緊張してしまうときは、次に紹介する2つの裏ワザを試してみてください。自律神経の興奮を抑える効果があり、気持ちを落ち着けることができますよ」(反田克彦さん)
考え方や行動を変えるだけで、人見知りやあがり症を改善できることがお分かりいただけたでしょうか。最後に、人見知りを克服したいと思うみなさんへ、反田さんからメッセージをいただきました。
「考え方のクセや行動を直すには、とにかく練習あるのみです。『自分からあいさつする』『相手の目を見て話す』といった小さな目標を立ててコツコツと取り組みましょう。自己評価がアップするにつれ、新しいことにも自信を持ってチャレンジできるようになります。みなさんが人見知りを克服し、自分らしく充実した人生を送れるよう願っています」(反田克彦さん)