書店の専門POP職人として、1日に10〜20点のコミック用のPOP広告を制作しているという、はりまりょうさん。漫画家さんや出版社から直接依頼を受けることもあるそうです。書店のPOP広告だけで17,500点以上、他にも多数の制作実績を誇るはりまさんのお仕事とは、一体どのようなものなのでしょうか。まずは、はりまさんがPOP職人になった経緯から伺ってみました。
「僕は以前、普通の書店員として働いていたんですが、その頃からPOP広告をたくさん書いていたんです。書いたものが街の情報媒体で掲載されるようになり、徐々に話題に。それがきっかけで、上司から『POP広告の制作を専門の仕事にしてみないか』と声をかけてもらい、POP職人になったんです」(はりまりょうさん)
POP職人として書き続けること7年。今ではすっかり「はりま流スタイル」が確立され、その独特の世界観で書かれたPOP広告が、漫画家さんご本人からSNS上で絶賛されたことも。そんな、はりまさんのPOP広告は全て手書き。1つとして同じものはありません。もちろん、仕上げるのに手間と時間を要します。
「まずは対象となる作品を見て、自分の中でポイントになる文言を集めて書き出します。この作業だけで数時間を要しますね。その後、構成を考え下書きをしてから、あらためて別の紙に清書をします。使うのは、主に水性ペンと油性ペン、それと筆ペンと色鉛筆です。
書いている間に気が変わることもあるので、書きながら詰めていく部分がほとんどですね。使う色も、その時の気持ちで決めています。軌道に乗るまでには、何度も書き直すこともありますよ。ちなみに、プライベートや個人で受けている仕事で書いているものは1枚につき大体6時間くらいかけています」(はりまりょうさん)
書店用のPOP広告の場合は、1日に10〜20点ほど書いているとのこと。A6の半分のサイズの用紙に4行というシンプルな内容ですが、作品を全部読んでから書かなければならないので大変な作業……!ただ、作品を読むのも含めて、1作品につき30分ほどという短時間で書いているそうです。
はりまさんが書くPOP広告は文字だけで構成されていて、キャッチコピーや説明文には、巧みな言葉遊びが盛り込まれています。「僕にしか書けないと思います」とご本人が言う通り、個性が際立った唯一無二のスタイルです。
「数をこなすうちに、だんだん自分のスタイルができあがっていきました。地道に経験を重ねていった結果ですかね。もともとそんなにボキャブラリーがある方ではないのですが、フレーズをもじったり組み合わせて造語にしたりと、言葉遊びをするのは好きなんです。
お笑いや落語が好きでよく聞いていますし、以前はラジオのハガキ職人だったこともあるんです。POP広告の中に、そういった経験から生まれる要素を入れられたらと思って書いています」(はりまりょうさん)
はりまさんならではの手書き文字や色使いも、POP広告全体のインパクトを強めています。どのような工夫をしているのでしょうか。
「基本的に、一番目立たせたいところには赤い文字、そして力強く訴えたいところには筆ペンを使っています。色を使い過ぎると目がチカチカしてしまうので、本当に強調したいところだけ色を変えるようにしていますね。また、地の色が白だとちょっと寂しい感じがするので、色鉛筆でうっすら色をつけています」(はりまりょうさん)
「このPOP広告は、漫画『背すじをピン!と』を読んで書いたものです。あの『週刊少年ジャンプ』で競技ダンスをテーマにした漫画が始まるということで、爽やかなスポーツ漫画であることを前面に出して演出しました」(はりまりょうさん)
「ただ普通に書くだけにはしたくない」と言う、はりまさん。例えばコミック用のPOP広告では、ネタバレしない程度に書く内容や言葉遣いに仕掛けを施しておいて、作品を読んだ後にPOP広告を見ると意味が分かるという『二度美味しい』構成にすることもあるのだとか。その手間とこだわりは漫画家さんご本人にまで伝わり、お褒めの言葉をいただくこともあるそうです。
「でも、実はまだ店内で、お客様からPOP広告についての感想をいただいたことがないんです(笑)。お客様にもっと響くように、さらに工夫して書き続けていきたいと思っています」(はりまりょうさん)
今回は特別に、A6サイズで「学びーズ(ユーキャンコミュニティサイト)」と「マナトピ」のPOP広告を作っていただきました。「ホームページのPOP広告というのは専門外なので……。これは無茶振りでしたね(笑)」と、苦戦を強いられたようですが、さすがはプロ!見事に仕上げてくれました。
例えば「学びーズ」のPOP広告では、1行目の「共感&共有」という言葉で、読んだ時のリズムを良くしています。筆文字の「学びニュケーション」は、はりまさん独自の造語です。強調したい言葉は色を変えて目立たせ、最後の一文の「ホットスポットスペース」も、読んだ時のリズムが良くなるように言葉を組み合わせています。これらは全て、POP広告を読みやすく、印象に残るようにするための工夫。細かく紐解いていくと、いかに隅々まで気を遣っているかが分かります。
「学びーズ」のPOP広告
「マナトピ」のPOP広告
「学びーズ」と「マナトピ」それぞれのロゴも、POP広告の中にキッチリ入っていますね。
「ロゴは時間がかかるので普段はあまり再現しないんですが、やはり見栄えがいいので今回は入れました。もう1つ、普段は入れないものは検索窓ですね。こういったあしらいは、電車の中吊り広告などを参考にしています。普段から見て研究していますね」(はりまりょうさん)
A6サイズの用紙に、ふんだんに詰まったこだわり!まさにPOP広告自体が作品と呼べる力作です。
最後に、はりまさんにとってPOP広告とは何かを聞いてみました。
「コミック用のPOP広告に関しては、漫画家さんとお客様との橋渡し役だと思っています。漫画はエンターテインメントなので、お客様にはテンションが上がった状態で買ってもらいたいんですよね。作品に沿ったテンションでPOP広告を演出すれば、自然と手にとってもらえるんじゃないかと思っています。
POP広告に正解はないんですよ。嘘や、作品をけなすようなマイナスなことを書かなければ、何を書いてもいいんです。最初はなかなかうまく書けないかもしれませんが、書き続けていくうちに、自分なりの正解やスタイルが作り上げられていくと思いますよ」(はりまりょうさん)
いかがでしたか?これからPOP広告作りにチャレンジしたいという方にとって、力強いメッセージになったのではないでしょうか。はりまさんご自身も、まだまだPOP職人として進化していきたいそう。今後どんな「作品」が飛び出すのか、楽しみですね。
取材・文:河辺さや香