「叱らない子育て」ではなく、「叱らなくていい子育て」を提唱している須賀さん。そこにはどんな想いが込められているのでしょうか。
「日本の子育て文化というのは、子どもに『正しい姿』を教えること、つまり『しつけ=子育て』という風潮があります。その価値観で子育てをすると、子どもがルールから外れた行動をした時に、注意したり叱ったりすることになりますよね。つまり既成の子育て観で子育てをすると、叱らざるを得ないのです。
時々、叱らないためのテクニックや親の我慢によって『叱らない子育て』を行う方法を目にしますが、それでは根本的な解決にはなりません。私は、これまで『叱る』ことが当たり前だった子育ての枠組みを、『叱らなくていい』ものに根底から変えることを目指しています」(須賀義一さん)
「叱ること=子どもを親の思うように支配すること」だと言う須賀さん。子どもを自分の理想に当てはめようとする子育ては、子どもの可能性を奪ってしまうだけでなく、親自身も理想の子ども像と現実のギャップから自らを否定してしまい、親子ともに苦しいものになってしまうと言います。
それでは、「叱らなくていい子育て」は、具体的にどのように行えばいいのでしょうか?
「子どもが行動する時のメカニズムには、二つしかありません。一つは、叱られたり物で釣られたりして言うことを聞く『支配』のルート。もう一つは、大好きな人の言葉を尊重して寄り添う『信頼関係』のルートです。この『信頼関係』のルートが大切で、子どもの親への信頼感を高めていけば、叱ることは格段に減って子育てが楽になりますよ」(須賀義一さん)
そんな『信頼関係』のルートを使った、子どもとの関わり方をご紹介します。保育園に行きたくないとゴネる子どもを、叱らずに保育園に行かせたい時にどうすべきかを例にしています。
STEP1-1:事実を伝える
言葉例:保育園に行く時間だから、準備をしてください。このままだと、ママは会社に遅刻しちゃうよ。
須賀さんのワンポイント
「子どもは基本的に、親のことが大好きで信頼しています。すぐには動かないかもしれませんが、大切な人の言葉を子どもなりに考えて、事実を受け入れてくれるでしょう。言い終わったらしばらく待って、子どもに考える時間を与えてみましょう」
STEP1-2:感情を伝える
言葉例:そうやってゴネられたら、私はイライラしてしまいます。怒らないで話してください。
須賀さんのワンポイント
「『ダメ』や『危ない』といった制止の言葉だけでは、子どもはなかなか納得して行動しません。しかし、大切な人が困っているという『気持ち』は理解できるので、気持ちを伝えることに重点を置くといいでしょう。言葉だけでなく、表情でも困っていることを伝えるとよりいいです」
STEP2:肯定のフィードバック
そして、ここからが大事なステップ。子どもが理解してくれたら、「分かってくれてありがとう」「静かにしてくれて嬉しいな」など、子どもを「認める」言葉を伝えてあげることが大事です。これにより、子どもとの心の繋がりが強化されていき、信頼感が高まります。
今回は保育園に行きたがらない場面を例に挙げましたが、子どもは基本的には、ご紹介した2つのステップでスムーズに理解してくれることが多いそうです。
そして、それでも子どもが言うことを聞かない場合の対策として須賀さんが教えてくれたのは、さまざまな場面で使えるという「魔法の言葉」です。その言葉というのが……「どうしたの?」という問いかけの言葉と、「ああ、そうなんだ」という受け止める言葉。実際の使い方の例を見てみましょう。
例
このように、子どもの言葉を否定も肯定もせず、ただ受け止めるのが須賀さん流の「魔法の言葉」です。
「受け止めたことで、子どもの気持ちは晴れるかもしれませんし、晴れないかもしれません。しかし、それはどちらでもいいことで、大事なのは子どもが『葛藤』する経験を与えること。子どもの気持ちを尊重して、心が成長する機会を奪わないということが大事なのです」(須賀義一さん)
「保育士おとーちゃん」として、日々、子育てに奮闘している須賀さん。同じパパに向けて、上手に子どもと関わる方法について教えてくれました。
「講演などで子育て世代のみなさんにお話を聞くと、パパは仕事で家にいる時間が少ないという家庭が多いのが現実です。その場合、子どもと過ごす時間が長いママへの信頼感は必然的に高まっていきますが、パパはなかなか難しい。そんな時は、パパは皮膚感覚、つまり『ゼロ距離』のお世話をするのがおすすめです。例えば、子どもの髪の毛をとかしてあげたり、耳掃除や爪切りをしてあげたりしてほしいのです」(須賀義一さん)
子どもと過ごす時間の少ないパパこそ、「育児の中で、子どもとのスキンシップを積極的に行ってほしい」と言う須賀さん。お風呂に入れたりオムツを替えたりするなど、スキンシップによって形成される信頼感は、「○○に連れて行ってやるぞ」「○○を買ってやるぞ」といった物などで釣る方法によって形成される信頼感とは「レベルが違う」と断言します。
「立派な子どもに育てなければ」と思うあまり、過干渉になって叱り、叱ってしまう自分に自己嫌悪になり……と、悪循環になってしまうこともある子育て。しかし子育ては、「気持ち良くできると人生の大きな喜びになる」と須賀さんは言います。
まずは子どもと、しっかりした信頼関係を築くこと。親子の間に厚い信頼関係があれば、「叱らなくていい子育て」が可能になるはずです。子どもを叱る必要のない子育て=子どもも親も笑顔になれるハッピーな子育て。保育士おとーちゃん・須賀さんの育児法を参考に、大事な子育てライフを楽しみましょう!
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