そもそも酒粕とは、日本酒をつくる過程で出てくる白色の搾りカスのこと。カスという名前とは裏腹に、豊富な栄養素を含んでおり、近年はその栄養効果と高い美容効果に注目が集まっています。
料理家のいこまゆきこ先生も、酒粕をはじめとした発酵食品の世界の奥深さに魅せられたひとりです。発酵マイスター、発酵プロフェッショナルの資格を取得し、日本発酵文化協会の上級認定講師でもある、発酵食品のプロであるいこま先生は、酒粕が注目されるようになった背景を次のように分析してくれました。
「酒粕が他の発酵食品と異なるのは、日本酒をつくる過程で生まれる副産物であるということ。味噌、醤油、酢、みりんのように、それらを目的としてつくられたものではないんですね。そんな背景もあって、これまでは酒粕といえば甘酒、粕汁、漬け床の3つくらいの調理法しか知られていませんでしたが、最近では抜群の栄養価と健康効果が見直されたことで、注目が集まっています」(いこま先生)
いこま先生が考える、酒粕をはじめとした発酵食品の特長は次の5つです。
「まず、おいしくなるというのが最大のメリット。酵素の働きで甘みが増したりコクや旨味を深めたりする効果があります。さらに食品の成分が分解されますから、食感が柔らかくなり、体内での栄養素の消化吸収率もよくなります。また、発酵する前よりもアミノ酸やビタミンをはじめとするさまざまな成分が増え、栄養価も高まります。発酵すると腐敗菌を寄せ付けづらくなるので保存性も高まりますし、腸内細菌のエサになるオリゴ糖や食物繊維も豊富で腸内環境の改善も期待できます」(いこま先生)
いいことずくめの発酵食品ですが、味噌や醤油とは異なる、酒粕ならではの特色はどんなところにあるのでしょう。
「まず塩分が0%だということ。味噌や醤油は摂りすぎに注意が必要ですが、酒粕は塩分の心配をする必要はありません。また、ビタミンB群が多く含まれている点にも注目です。ビタミンB群は三大栄養素であるタンパク質・脂質・糖質を代謝するときに必要なビタミンですが、これらを体内で脂肪に変えずに使い切るには、ビタミンB1、B2、B6が不可欠。酒粕にはこれらすべてのビタミンBが含まれています」(いこま先生)
糖質や脂質を燃焼し、エネルギーに変えるビタミンB群はダイエットの強い味方。また、ビタミンB群は疲労回復を促し、肌や髪の毛のツヤを維持する働きもあります。さらには、タンパク質の一種であるレジスタントプロテインと食物繊維のダブル効果で、高い健康効果を発揮してくれるのだそう。
「レジスタントプロテインは消化吸収されないまま腸の中に届くため、腸内のコレステロールや脂肪分を吸着して体の外に排出する働きをしてくれるんです。さらに、善玉菌のエサにもなってくれるので、腸内環境の改善にも役立ちます。不溶性食物繊維も含まれていますから、レジスタントプロテインと一緒に摂取でき相乗効果が期待できるでしょう」(いこま先生)
また、酒粕には美容の観点からも嬉しい効果があるそうです。
「酒粕にはコウジ酸という成分が含まれています。コウジ酸はシミやソバカスの原因となるメラニン色素を抑制する働きがあるため、化粧品などにも多く用いられている美白成分。シミの予防に効果を発揮してくれます」(いこま先生)
美容と健康に効果絶大の酒粕は、まさにスーパー発酵食品!ではそんな酒粕を使ったレシピをいこま先生に教えてもらいましょう。
レシピ1:酒粕の酵素パワーでお肉が柔らか&旨味アップ!
豚肉とりんごの味噌粕漬
材料(2人分)
作り方
酒粕レシピポイント
酒粕に含まれる酵素の力でお肉が柔らかくなり、旨味も格段に増します。ガーゼなどがない場合は、漬け床を直接肉に漬けてもOK。ただし、そのまま焼くと焦げてしまいますので、直前にしっかりと拭ってから調理してください。漬けた状態での冷凍保存もできますし、使い終えた漬け床は味噌汁や鍋のベースにするなど無駄なく使えます。
レシピ2:自然なとろみがやさしい栄養満点スープ
酒粕入り人参のポタージュ
材料(作りやすい量/約3~4人分)
作り方
酒粕レシピポイント
酒粕に含まれるビタミンB2やB6、食物繊維を丸ごといただくレシピ。酒粕のおかげで自然なとろみがつき、甘み・旨味・コクがアップします。鮮やかな色味を濁らせないために、白味噌で味にふくらみを出しました。加熱することでアルコールが飛ぶため、子どもでもおいしく食べられます。
レシピ3:カロリー大幅カットのヘルシースイーツ
酒粕チーズケーキ」
材料(18㎝ケーキ型1個分)
作り方
酒粕レシピポイント
普通はクリームチーズ100%で作るところを、チーズの分量を減らして酒粕に置き換えたヘルシースイーツ。酒粕は乳製品との相性抜群。火を入れるとチーズに近い風味に変わります。しっとりした食感も損なわれません。香り付けのブランデーは、日本酒に置き換えてもOK。日本酒と一緒に食べると、さらにおいしさが広がります。
料理をおいしくしてくれるのはもちろん、健康・美容・ダイエットにもすばらしい効果をもたらしてくれる酒粕。毎日でも食べたいところですが、「あの独特の匂いがちょっと苦手」という人もいるのではないでしょうか。酒粕特有の匂いを和らげる方法はあるのでしょうか?
「酒粕の独特の匂いが苦手な人は、加熱するとアルコール分が飛んで、匂いが和らぎますよ。また、乳製品、豆乳、味噌と相性がいいので、組み合わせて使うことで匂いも少なくなります。クミンなどのスパイス類を加えてもいいでしょう。お味噌汁に入れたり、カレーに混ぜたり、スムージーに加えたりなど、あまり難しく考えず、いろんな組み合わせを楽しんでみてくださいね」(いこま先生)
実は和・洋・スイーツとさまざまなバリエーションを楽しめる酒粕。今回ご紹介したレシピは、いずれも加熱によってアルコール分が飛びますので、お酒が苦手な人や小さなお子さんでも心配はいりません。開封後は冷蔵保存で半年まで、冷凍保存にすると約1年はもちます。賞味期限が比較的長めなので、ぜひ毎日の料理に少しずつ取り入れてみてはいかがでしょう。
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