平野友朗さんは、ガイドラインが確立されていなかったビジネスメールスキルの標準化を目指し、日本初のビジネスメール教育事業を立ち上げた方です。2013年に設立した日本ビジネスメール協会では、認定講師の育成、講演や研修の実施、ビジネスメール実務検定試験なども行っています。そんなビジネスメールのエキスパートである平野さんに、ビジネスメールの現状について伺いました。
「社員に対してメール研修を行っている企業は全体の一割程度です。これはビジネスメールの実態調査を始めた2007年から現在まで、ほとんど変化していません。多くの人がビジネスメールのルールやマナーを学ぶ機会なく自己流で使っているというのが現状です。『メールは簡潔に』という人がいれば、『メールは丁寧に』という人もいたりして、指導される側は迷ってしまい、結果として自己流にならざるを得ないという状況が続いているようです」(平野友朗さん)
もしかしたら、自己流で送ったメールで、気づかぬうちに相手に不快な思いをさせているかも……。ビジネスメールでのトラブルを防ぐためにも、まずは具体的なNG例文を見ながら、基本を確認していきましょう。
これはよくありがちなNGメールのサンプルです。この中にはビジネスに不適切な表現や内容が含まれています。まずは探してみましょう。
件名:マナトピ商事 田中です
添付ファイル:goannai.pdf
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(株)●●●●●● ▲▲▲▲▲様
いつも大変お世話になっております。
昨日、名刺交換をさせていただきました
マナトピ商事の田中マナ男です。
早速ですが、この度は耳寄りな提案があり、ぜひご興味を持っていただけるのではないかと思いまして、メールをさせていただきました。
現在期間限定で特別なキャンペーンを行っておりまして、
この期間内にご契約いただけますと、通常の価格よりも10%お得なお値段で
ご購入いただくことができ、さらには弊社製品をお使いいただきますと、電気代が15%程度安く抑えられると考えられますので、
ぜひ一度商談の機会をいただけますと幸甚です。
キャンペーンはまもなく終了となりますので、早めにご連絡をいただけますと幸甚です。
それでは、▲▲▲▲▲様からのご連絡を
心よりお待ちしております!
田中マナ男
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株式会社マナトピ商事
田中マナ男
電話 03-0000-0000
Mail manatopi@000000000
〒000-0000
東京都〇〇区△△町0-0-0
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NGだと思うポイントはいくつ見つけられましたか?特に気にならなかった場合、これまで気づかずにNGメールを送り、相手をイラッとさせていた可能性が……。このサンプルメールのどこがNGなのか、平野さんに添削していただきました。
NGポイント1:件名が名前になっている
件名が名前だと、誰からのメールかはわかりますが、用件がわかりません。開封しなくても内容がわかるくらい具体的な件名を書きましょう。
NGポイント2:添付ファイル名が明確でない
添付ファイル名はわかりやすく。案件名、日付、バージョンなどがあるとベターです。またメール本文に添付ファイルに関する記述がないこともNGポイントです。
NGポイント3:相手の会社名と個人名が横並び
会社名と個人名は縦に並べるのが一般的です。また、(株)を使うと雑な印象を与えることもあるので、「株式会社」と明記しましょう。
NGポイント4:一文が長い
一文が長いと読みにくいので、50字以内を目安に収めましょう。「〜が」「〜ので」などで不用意に文章をつなげないこと。
NGポイント5:赤文字や!などを使う
赤文字は相手がテキスト形式で読んでいれば反映されませんし、「!」などの記号が許容されるかは相手によります。状況に適しているか、印象が悪くならないかを考えましょう。
NGポイント6:期日が不明瞭
キャンペーンはいつ終了するのか、期日を書きましょう。「早めに」という言葉も抽象的。期日がわかれば相手も考慮できます。
NGポイント7:最後の名前は不要
署名がある場合は、その上に名前を入れる必要はありません。
メールの書き方におけるNGポイント以外にも、気をつけたいビジネスメールのマナーがあるそうです。
「ビジネスメールのマナーとは、端的に言うと、送る相手に対する気遣いです。メールを受け取った側は、たとえ読んで不快に感じることがあったとしても、それをわざわざ伝えてくることはほとんどありません。だからこそ、マナー違反にならないよう常に気を配っておくことが大切です」(平野友朗さん)
どんなことがビジネスメールのマナー違反にあたるのか、平野さんに教えていただきました。
1.件名を見ても内容がわからない
件名は開封しなくても中身がわかるくらい具体的につけたいもの。メールは開封してもらうことが第一歩なので、相手の忙しい状況を思えば、パッと見て開封したくなるような件名をつけることが大事です。
2.件名に「重要」「至急」などとつける
重要なことや緊急なことであれば、メールだけで済まさずに電話を一本入れるべきです。メールは受け取った人の作業空間ですので、こちらが勝手に重要や至急と決めつけるのは、押しつけがましいと受け取られかねません。
3.最初に挨拶、名乗りがない
「お世話になっております」などの挨拶がなくいきなり用件に入ると、雑な印象を与えます。また、署名があるからといって冒頭で名乗りがないと、誰からのメールかがわかりにくく、相手に署名を確認する手間をかけることになります。電話でも最初に名乗るのがマナーですよね。メールでも同じことです。
4.説明ばかりが続き、最後まで結論がわからない
メールは一回スクロールして理解できるのがベストです。説明が長々と続いて最後にやっと結論だと、全体像を理解するのに説明をもう一度読み直す必要が出てくることも。最初に結論、その後に説明していくのがビジネスメールの基本です。
5.曖昧な表現を使う
気を遣ったつもりでも、「お手すきの時に」「出来次第」など曖昧な指示は誤解を与える危険があります。期日は明確に伝えないとトラブルのもとになることもあるので気をつけましょう。
6.前のメールを読んでいることを前提で話を進める
「メールでお伝えした通り」=読んでますよね、という決めつけは避けましょう。相手は読んでいないかもしれない、という前提でコミュニケーションを取らないとこじれる原因に。「先日お送りしたメールで不明な点はございませんか」などの丁寧な表現で。
7.自分勝手な時間設定で返事を要求する
相手の都合もわきまえず急な対応を求めるなど、相手の時間に対する配慮に欠けるのはマナー違反です。誰にでも予定がありますし、一日中メールをチェックしているわけではありません。読まれるのに時間がかかる、という前提も常に意識しましょう。
8.お願いされたメールに受領の返信をしない
「◯月◯日までにお願いします」というメールを送っても、何の返信もなく当日納品してくる人がいます。納期は守っていても、受領の連絡がないと依頼者は期日まで不安を抱えて待つことに。ビジネスを円滑に進めるために、「承知しました」の返信はとても大切なのです。
9.相手の要求を先読みできない
「◯月◯日までに〜できますか?」という依頼に対し、「できません」の一言で片付けるのもマナー違反です。「あいにく他の案件が詰まっていてどうしても無理です」「×月×日まででよろしければお受けできます」など、こちらの事情を伝えながら相手の欲しい情報を先読みして満たしてあげることが、上手にコミュニケーションを取る秘訣です。
10.メールの返信が遅い
経験上、仕事のできる人はみんなメールの返信が早く、内容が的確です。仕事のできない人は、不安や迷いがあるせいか、メールをそのまま寝かせてしまい、レスが遅れがちに。
メールを見れば、仕事のできる人かそうでないかがわかる、と平野さんは言います。
「何回かメールをやり取りすると、相手に対する気遣いや段取りする力、日本語力などが見えてきて、その人の仕事のキャリアがだいたいわかります。そのくらい、ビジネスメールにはその人のスキルが反映されてくるものなのです」(平野友朗さん)
最近はリモートワークをする人が増え、今後はビジネスメールの使用頻度もさらに高まっていくことが予想されます。ビジネスメールの基本的なルールやマナーを押さえておくことには、どのようなメリットがあるでしょうか。
「最初に結論や全体像を伝えてから詳細を説明する、という方法論のビジネスメールを極めていくと、端的に物事を伝えるのが得意になり、プレゼンが上手になります。また、内容を素早くまとめて的確で悪印象を与えないメールを書くことは、仕事力全般を高めることにつながります。そういう能力は、これからの社会で生き残っていく上での大事な条件になっていくのではないでしょうか」(平野友朗さん)
ビジネスメールをしっかり使いこなせることは、社会人としてのランクアップに欠かせない武器になると言えそうです。