手書きの機会すらますます減りつつある昨今ですが、みなさんどんなきっかけで筆文字に興味を持つのでしょうか。
「私の教室に通う生徒さんの場合、ご年配の方だと最近『一筆箋を美しい筆文字で書きたい』という理由の方が増えています。送る相手や季節、シーンによって一筆箋を選びたいというニーズの高まりもあり、近年さまざまな色やデザインのものが充実してきたことも影響していると思います。『お世話になりました』『ありがとうございました』という感謝の言葉を習う方が特に増え、『年賀状を出す枚数が減った分、1枚ずつ気持ちを込めて筆で丁寧に書きたい』と習いに来られる方も多いですね」(春佳さん)
「20代などの若い世代では、仕事の引継ぎのメモ書きやご祝儀袋、履歴書の文字をかっこよく書きたい、という理由が多いです。『筆文字で書いた手紙を送った相手に喜んでもらえ、気持ちが伝わった……』と嬉しくなり、モチベーションアップにつながっている生徒さんたちを間近で見ています」(春佳さん)
実は春佳さん、大筆を使った書は得意なものの、小筆や筆ペンを使った書はもともと苦手だったそうです。学生時代には授業で余った紙の隅に少しずつ練習していたくらいなのだとか。そんな時に手軽に書けてすぐに練習できる筆ペンは、苦手を克服し筆文字を上達させるのにピッタリのアイテムだったそう。コツをつかめば、どんどんスキルアップできたそうです。
「『筆で文字を書いてみたい、字がうまくなりたい』と思うきっかけは人それぞれですが、その気持ちがあれば確実に字は変わります。そして、その字を見た相手からの印象も変わります。一生付き合っていく自分の字だからこそ、イヤにならないように楽しく書けるのが一番です。使いやすい筆ペンを準備して、まずは気軽に始めてみましょう」(春佳さん)
実際に筆ペンで文字を書く際に、きれいな字を書く秘訣や、気を付けるべきポイントを教えていただきました。
「墨と硯とで書く一般的な筆(小筆)は、筆の穂先の弾力を使って文字のトメ・ハネ・ハライを書くので、まっすぐ立てて書きます。ある程度技術を習得しないと難しいですね。一方、筆ペンは、穂先の弾力が強くまとまりやすく作られているので、小筆のようにまっすぐに持つのではなく、少しナナメに倒すくらいがちょうどいいです。トメ・ハネ・ハライが書きやすくできていて、小筆よりも線にメリハリや強弱が出て書きやすいのが筆ペンの特長です。とはいえ、力が入りやすいため、ベタッと穂先をつぶして抑揚なく書いてしまうと、きれいな文字に見えにくくなってしまいます。そんな時は気持ち筆を立てることを意識するといいですね」(春佳さん)
■春佳さんおすすめの筆ペンとは?
春佳さんのInstagramでは、さまざまな色の文字を書く動画を見られるほか、その文字を書くのに使った筆ペンも紹介されています。美しい筆文字を書きたい、ビギナーにもおすすめの筆ペンはこちら。
・筆タッチサインペン(ぺんてる)…力の強弱で太い線も細い線も書きやすく、抑揚のある仕上がりに。あて名書きなど、サインペンに近いタッチで、初心者でも使いやすい。郵便番号も書きやすいのでハガキにおすすめ。
・アートブラッシュ(ぺんてる)…カラーバリエーション豊富で筆文字だけでなく水彩画や絵手紙などにも人気。
・ZIG メモリーシステム ウインク オブ ステラ ブラッシュ(呉竹)…ラメがたっぷり入ったカラー筆ペン。色紙や寄せ書きなどにもよく使われています。
おすすめの筆ペンや使い方を教えていただいたところで、実際に文字を美しく書くためのポイントを伺います。
■お手本を見ながら書く
「お手本を見ながら書くことは、最も上達する近道です。とはいえ、一番書く頻度の高い自分の名前のお手本は、そうそう見つかるものではありません。そんな時は、パソコンで自分の名前を『教科書体』(もしくは楷書体)で入力して印刷すると手軽にお手本ができます。筆の入り方(起筆)、送筆、止め方(収筆)などの細かい部分が分かりやすいのが特長です。そういった箇所がしっかりできると、文字の格好がつき、きちんとした印象を与えられます。ユーキャンの新・速習筆ペン講座なら「お名前・ご住所手本」がもらえるので、活用するのもいいですね」(春佳さん)
■縦長・横長と文字の形を意識して、一本線の上で練習する
「名前のお手本を教科書体で出力する方法を試してみれば分かりますが、パソコンのフォントは正方形で、一文字ずつ真四角のマス目に入った文字を単純に並べた状態です。ですが、書道で漢字のバランスをかっこよく整えるには、『美』『月』などは縦長に、『皿』『八』などは横長に書くのがおすすめです。真四角のマス目で字を練習すると、一文字ずつバラけた印象になってしまうので、真ん中の一本線上、もしくは枠囲みなしの十字線上で練習しましょう。前後の文字とのバランスを考えながら、応用の効く文字を習得できます」(春佳さん)
■上達のためには、漢字>カタカナ>ひらがなの順に練習する方法も
「ひらがなは書道において最も難しいため、筆文字の基本であるトメ・ハネ・ハライをしっかり漢字で習得してから、ひらがなの練習をしていくほうが習得も早くなることがあります。古代中国から伝わった漢字を簡略化、あるいはくずして、現代のひらがな・カタカナができています。例えば、『和→わ』『由→ゆ』『以→い』などです。元の漢字を知っていると、柔らかな線を続けて書くひらがなでも、筆の運びが分かりやすくなりますよ。今年度から書道の教育現場でも、小学校1、2年生の水筆の授業が始まりました。鉛筆書きよりも先に毛筆でトメ・ハネ・ハライをしっかり学ぶほうが、美しい文字が習得しやすくなるからです。それにより、鉛筆でも美しい文字が書けるようになります」(春佳さん)
■右肩上がりで、等間隔に空間をあけてバランスよく
「例えば、漢字の『一』を書く際も、ただの水平な一本棒ではなく右肩上がりに書きます。トンツートン、と声に出して筆運びを練習するといいと思います。『三』『見』などの三本以上の複数の線は、すべて等間隔に空間をあけて書くことで、均整の取れた美しい文字になります。『田』も実はすべての四角い空間が同じ大きさではありません。お手本を見ながら、右肩上がりで等間隔に空間をあけ、文字のバランスを真似て書くと、それだけで意識が変わり、少しずつ文字が整い始めます」(春佳さん)
■かっこいい文字を目指して、行書風に書き方をちょっとアレンジ
「楷書で文字がきれいに書けるようになったら、次は行書風に書くと、『うまいな』『書を知っているな』といった印象をプラスできます。例えば『田』の4画目から5画目や、『偏』の3画目から4画目などがつなげて書きやすいポイントです。ただつなげるよりも、抑揚をつけてリズム感を意識するとかっこいい文字になります。行書は文字と文字のつながりが一番重要なので、楷書であればはらう箇所を止めてもいいんです。次へ次へと書き進めて、気分に合わせて止めて……、という書き方をしてみてもいいですね」(春佳さん)
自分の名前を上手に書けるようになったら、次はもう少し長めの言葉に挑戦しましょう。「ありがとうございます」「お世話になっております」「よろしくお願いいたします」など、日常生活でもビジネスシーンでもよく使う言葉は、美しく書ければどんな時にも役立ち、習得しておくと便利です。こちらも、うまく美しく見える書き方のポイントがあるそうなので、春佳さんに解説していただきました。
■漢字は大きめに、ひらがなは比較的小さく書く
「漢字とひらがなの交ざった文は、漢字を多少大きめに書くとバランスが取れてメリハリのある文章が書けます」(春佳さん)
■その次の一画を意識して、続けるように書く
「1つの文字の中では次の一画の起筆を考えながら、筆が紙を離れて空中でもつながっているかのように書くのがポイントです。例えば、『あいうえお』と書く場合は、『あ』の一画目の横線を書きながら、二画目の縦線への入り方をすでに意識することが重要です。その続きも同様にしましょう」(春佳さん)
「また、縦書き文の場合、文字の最後の一画から次の文字の一画目にも線がつながるようなイメージで書きましょう。例えば、『あいうえお』と書く場合は、『あ』の最後のハライから、次の『い』の一筆目へと、筆の運びを意識することで、文字に心地いい流れができ、抑揚のあるかっこいい文字になります」(春佳さん)
■中心を揃え、串団子のように書く
「縦書き文の場合、中心を揃えることがとても大事。串団子のように中心を揃えるだけで、芯の通ったしなやかで品のいい誠実な印象の書になります。また、横書き文の場合は便箋の線に文字の下部を揃えることで、文がまとまって見栄えがします」(春佳さん)
「字がうまくなりたいと思うきっかけは人それぞれですが、その気持ちがあれば大丈夫。これまでに紹介したコツやポイントを意識すれば、格段に上達できると思います。また、書いた文字をぜひ誰かに贈ってみてください。自分が書いた筆文字を贈って喜ばれることで、ますます向上心が芽生えてきますよ。手軽で楽しくバリエーションも増えた筆ペンを使って、ぜひ気軽に始めてみましょう。私もメディアやSNSを通したさまざまな年代の方々からの反響を糧に、これからも作品制作に励みます」(春佳さん)