「疲れた日は無性にビールが飲みたくなる」「気持ちが沈むと強めのお酒を飲みたくなる」そんな経験がある人は少なくないはず。そもそも、人はなぜお酒を飲みたくなるのでしょうか?また、お酒を飲んだ時、脳にどのような反応が起こり、どんな効果が得られるのでしょうか?早速、工藤先生に聞いてみました!
「お酒を飲みたくなる理由ですが、最新の研究により『お酒の記憶』が影響しているという結果が発表されています。『お酒の記憶』とは、以前にお酒を飲んだ時の場所や雰囲気、香り、音(BGMや人々の笑い声)などのこと。つまり、お酒を飲んだ時の楽しい記憶・快楽のことです。それらの記憶が、またお酒を飲みたい!という気持ちを引き出しているのです。お酒を飲むと、快楽物質であるドーパミンが脳内に放出されます。仕事後にお酒を飲みたくなるのは、ストレスを溜めないために本能的にドーパミンを求めているからともいえるでしょう」(工藤孝文先生)
では、お酒を飲むことで体にどんなことが起こるのでしょうか?効果について教えてください。
「正直、医者の立場からお酒をおすすめすることはできませんが……。お酒と上手に付き合うことによって得られる効果があるのも事実です。例えば、ワインやウイスキーの香りにはリラックス効果が、ビールの原料であるホップの香りは気分を落ち着かせるアロマ効果がありますし、女性ホルモンと似た働きをするフィストロゲンという物質も含まれています。“適量のお酒は体に良い”という考え方もあり、実は、毎日適量の飲酒をする人は、たまにしか飲まない人・全く飲まない人に比べて心筋梗塞などの疾患による死亡率が低い傾向にあるという調査結果もあるのです!リラックス効果・アロマ効果によって心筋梗塞の原因の一つであるストレスを緩和する、血管を拡張させて血液の流れを改善する、といったことが影響しているのだと思います」(工藤孝文先生)
食事量は増えていないのに、飲む機会が増えるといつの間にか体がふっくらしている……という話をよく耳にします。考えられる原因はなんでしょうか?
「ウイスキーや焼酎は糖質ゼロなので太りにくいといいますが、お酒の種類はあまり関係ないと思っています。もちろん、糖質の少ないお酒を選ぶのがベストです。しかし、せっかくの楽しい時間ですので、アルコール自体のカロリーや糖質量はさほど気にしなくてもよいでしょう。飲み過ぎにだけ注意すれば、好きなお酒を楽しんでよいと思います。太るからあれもダメ、これもダメ……と我慢ばかりでは、ストレスに繋がるだけですからね」(工藤孝文先生)
お酒の量がポイントなんですね。では、なぜお酒を飲むと太るのでしょう?
「理由は簡単。お酒を飲むと体が低血糖状態になってしまいます。通常、血糖値が下がると、肝臓は蓄えておいたグリコーゲン(糖質)を砕いてグルコース(ブドウ糖)を作ります。しかし、お酒を飲むと肝臓はアルコール分解で忙しくなり、この作業が後回しになってしまうのです。その結果、血糖値が下がり、脳が『糖が足りない!」と勘違いをします。飲んだ後にラーメンやスイーツを食べたくなるのにはこうした理由があり、つい食べ過ぎて太ってしまうのです」(工藤孝文先生)
では、食事の時間帯によって太りやすい・太りにくいというのはあるのでしょうか?
「一番太りにくい理想的な時間帯は14時くらい、逆に一番太りやすい時間帯は22時以降です。とはいえ、14時から飲むのはなかなか現実的ではないですよね。太る原因は糖質の量なので、まずは糖質をコントロールすることを意識してみてください。あとは、やはり炭水化物は避けた方が良いですね。とくに21時以降は避けるようにしましょう」(工藤孝文先生)
飲む予定がある当日のランチでおすすめのメニューはありますか?また、酒太りしない効果が期待できる「おつまみ」があれば教えてください。
「ランチで一般的に良いといわれるのは焼魚定食・煮魚定食などの魚を使った和定食。魚に含まれる豊富で良質なタンパク質には肝機能を高める効果があり、二日酔いの原因となるアセトアルデヒドの分解を促進する働きがあります。タンパク質でいえば鶏肉やチーズも良いですね。また、胃腸の保護作用があるグリシン(タンパク質を作るアミノ酸の一種)を含む大豆製品も良いと思います。私がおすすめしたいのは、ベジ・ファーストならぬ『ヨーグルト・ファースト』!ヨーグルトはアルコール分解を促進し、胃の粘膜を保護してくれます。ちなみに飲むヨーグルトではなく、食べるヨーグルトのことです。特に、血糖値の上昇を抑える効果は絶大!飲む前に食べておくことでベジ・ファースト以上の効果が期待できます。ぜひ、一度試してみてください」(工藤孝文先生)
事前の食事や食べ物で気を付けることもできるんですね!では、飲む最中の食事はどうでしょう?どうしても糖質多めのお酒を飲みたい場合はどうすれば……。
「それぞれのお酒と相性のいいおつまみ選びをすることで、酒太りの心配なく楽しむことができます。では、お酒の種類別におすすめの料理をご紹介します!」(工藤孝文先生)
「ビールのおともには枝豆と焼き鳥。枝豆には食物繊維をはじめ、アルコールや糖の代謝を促すビタミンB1が豊富に含まれています。焼き鳥は高タンパクな上、油を一切使っていないので非常にヘルシーです」(工藤孝文先生)
「日本酒には、低カロリー&高タンパクのお刺身、血糖値の上昇を抑える酢酸やクエン酸を含む酢や梅干しを使った料理がおすすめ。山芋やおくらを使ったサラダも良いですね。ネバネバ成分が胃の粘膜を保護し、糖質の吸収を穏やかにしてくれます」(工藤孝文先生)
「最後にワイン。赤ワインにはマグロの漬けや牛肉のたたきなど、赤身の高タンパクなものを。白ワインには野菜スティックや低カロリーの白身魚を使った料理などがおすすめですよ」(工藤孝文先生)
いくら意識していてもお酒を飲むと気持ちが大きくなってしまい、次の日になってから「また飲みすぎちゃった……」なんてことはよくある話。そんな人に朗報!お酒を飲んだ後でも間に合う、体に嬉しい食べ物・飲み物があります。胃腸を癒やす、アルコールを分解する、むくみを抑えるといった効果のある食材を紹介します。
■しじみのみそ汁
肝臓の機能を高めて二日酔いの原因となるアセトアルデヒドを分解する「みそ汁」と、タンパク質とミネラルを豊富に
含む「しじみ」は、言わずもがなの最強のタッグです。ミネラルと水分を補給し、胃の中のアルコールを排出してくれます。
■梅干し
梅干しの主成分であるクエン酸には疲労回復効果があり、荒れた胃を修復してくれます。また、梅干しを食べると唾液がたくさん分泌され、同時に胃酸も分泌されます。体が食べ物を消化しやすい状態になるため、食欲回復にもつながります。
■大根おろし
大根は、消化酵素であるアミラーゼの含有量が野菜の中でもトップクラス!胃を修復し、吐き気や胃もたれを和らげてくれます。また、ビタミンCも含まれており、胃腸の機能を回復してくれます。ただし、ビタミンCは加熱すると失われてしまうので注意が必要です。
■スムージー
弱った胃腸を回復させるリンゴ、肝機能を回復させる大根、二日酔いの原因であるアセトアルデヒドを排出する柿、アルコール分解を助けるはちみつ、ビタミンCを多く含むイチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、マンゴーなど、組み合わせはお好みで!
「飲酒翌日のむくみの一番の原因は、アルコールによる脱水症状とおつまみでの塩分過剰摂取です。塩分の摂り過ぎは水分の体外排出を妨げ、体内に余分な水分が溜まってしまい、結果的にむくみやすくなってしまいます。そんな時には塩分の排出を促す働きのあるカリウムを摂取するようにしましょう」(工藤孝文先生)
最後に、お酒と上手に付き合っていくためのアドバイスをお願いします!
「酒太りの対策は、飲み物や食べ物だけではありません。例えば、目の錯覚を利用するなんて技も。飲み物は背の高い細身のグラスに、食べ物のお皿を小さめのものにするだけで『こんなにたくさん入っている!』と脳が勘違いし、お酒や食事の量を減らすことができます。あとは、簡単なことですが、自分のおなかに聞いてみるというのも一つ。飲んでいる途中、少し席を外して鏡に映った自分の姿を見てみてください。ポッコリ膨らんだ自分のおなかに『まだ食べてもいいかなぁ』と問いかけてみる……。もちろん答えはNO!このように、冷静に考える時間を作るだけでも食欲をセーブすることができます。ただ、やはり飲むというのはリラックスして楽しむのが一番!ストレスが溜まった時は、上手にお酒を飲んでストレスを発散しましょう」(工藤孝文先生)