家族や友人、仕事の相手に怒りやイライラをぶつけてしまい、後悔した経験はありませんか?「かつては私自身が怒りの感情に振り回され、悩んでいる一人でした」と話すのは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さん。そんな安藤さんが「アンガーマネジメント」に出会ったのは、仕事でアメリカに赴任していたときのこと。「怒りの感情と上手に付き合う」というアンガーマネジメントの理念に共感し、帰国後、日本での啓発活動をスタート。直接的な暴力行為だけでなく、あおり運転やSNS上での執拗な「叩き」行為など、「怒り」によるトラブルが後を絶たない昨今、アンガーマネジメントができる人を増やすことで「怒りが連鎖しない社会」の実現を目指し、活動を続けています。
日本でアンガーマネジメントが注目されるようになった背景について、安藤さんは次のように指摘します。
「近年、日本社会はかつて経験したことのない『多様化』の波に直面しています。働き方改革の推進や訪日外国人の増加にともない、日本人がこれまで共有してきた価値観が当たり前のものではなくなりつつあります。社会の変化に対応するため、私たちは多様な考え方や価値観を受け入れる必要に迫られているのです。しかし、人間は自分が理解できないことが起きたとき、『こうあるべき』と考えていたことが裏切られたときに怒りを感じやすいもの。そうした怒りの感情との向き合い方や、理解できないものを受け入れるための自分自身の処し方を、アンガーマネジメントを通じて学びたい人が増えてきているのではないでしょうか」(安藤俊介さん)
協会の報告ではアンガーマネジメントの受講者数は年々増加しており、2019年度は約31万人以上にのぼっています。会社員をはじめ医療従事者やカウンセラー、教育関係者、子どもを持つ親など、さまざまなバックグラウンドを持つ人々がアンガーマネジメントを学び、それぞれの分野で活用しています。
<アンガーマネジメント講座の開催数および受講者数の推移>
「誤解されやすいのですが、アンガーマネジメントは怒らないようになるためのトレーニングではありません。怒るべきことには上手に怒り、怒る必要のないことには怒らなくて済むようになることを目標としています」(安藤俊介さん)
まずはこのような目的を正しく認識した上で、「自分がどんなことに対して怒ったり、イライラしたりしやすいのか。怒りのタイプや癖に合わせたアンガーマネジメントを実践することが重要」と安藤さんは言います。
そのために有効なのが、怒りを6つのタイプに分析し、そのタイプごとに怒りの癖や対処法を指南する「アンガーマネジメント診断」です。ここではその簡易版で、あなたの怒りのタイプを分析してみましょう。
診断を受ける際の注意点として、「正しい結果を導くためにも、できるかぎり素直に、直感で答えるようにしてください。診断結果に正解や良し悪しはありません。あくまで今現在の怒りの傾向をつかむためのものとして役立ててください」(安藤俊介さん)
STEP1
Q1~12までの質問に対して次の項目から最もあてはまる回答を選び、それぞれ点数を付けてください。
全くそう思う……6点
そう思う……5点
どちらかというとそう思う……4点
どちらかというとそう思わない……3点
そう思わない……2点
全くそう思わない……1点
STEP2
下記の6つの組み合わせで回答の点数を合計してみてください。その中で最も点数の高い項目があなたの怒りのタイプになります。同点の項目が2つ以上ある場合は混合タイプの可能性があります。
合計点数が一番高いタイプがあなたの怒りのタイプ
アンガーマネジメント診断で自分の怒りのタイプが分かったら、6つのタイプそれぞれの特徴や、アンガーマネジメントのためのワンポイントアドバイスをチェックしてみましょう。
A.公明正大タイプ
正義や信念を貫くタイプ。使命感が強く秩序やルールを守ろうとする意志が強い一方、他人が間違ったことをしていると「許せない」と感じて怒ってしまう傾向があります。
【公明正大タイプのアンガーマネジメント】
たとえ人がルールを犯しても、自分自身が迷惑を被らないことに対しては腹を立てても仕方がありません。怒る必要のあることとそうでないことをしっかりと線引きすることが大事。
B.博学多才タイプ
向上心があり、論理的で完璧主義な一面も持ちあわせます。物事を「良いか悪いか」「好きか嫌いか」などで極端に判断するため、優柔不断な人に怒りを感じがちです。
【博学多才タイプのアンガーマネジメント】
世の中は白と黒で判断できるものばかりではないことを理解しましょう。自分の主観だけでなく、さまざまな視点から物事を見るトレーニングが有効です。
C.威風堂々タイプ
リーダーに多いタイプ。自尊心が高く、人前でも堂々とふるまうことができます。行動力で人をリードする一方、自己中心的で他者に対して威圧的になってしまうことも。
【威風堂々タイプのアンガーマネジメント】
相手がこうすべきという「義務」やこうしてほしいという「欲求」ばかりでなく、相手はこうしても良いという「権利」にも目を向けて、それぞれを区別することで怒りを回避しましょう。
D.外柔内剛タイプ
柔和で穏やかな雰囲気を持ちながら、内側には強い意志を秘めています。強い自主性や責任感の裏返しとして、思い込みが激しく、相手に譲れない場面も少なくありません。
【外柔内剛タイプのアンガーマネジメント】
自分だけの独りよがりなルールにとらわれていると、怒りにつながってしまいます。思い込みによって事実をゆがませるのではなく、まっすぐに向き合うことが大切です。
E.用心堅固タイプ
用心深く慎重に行動するタイプで、周囲の人に安心感を与えます。人との衝突を避けようとする反面、相手をなかなか信用できず、疑心暗鬼から怒りが起きてしまいがちです。
【用心堅固タイプのアンガーマネジメント】
用心深さは他者への猜疑心につながり、良好な人間関係を妨げます。人にレッテルを貼らず、目の前の相手をよく見る努力をして信頼関係を築きましょう。
F.天真爛漫タイプ
自分の思いを素直に主張でき、目標達成に向かってまい進する大物タイプ。自分の主張が通らないことにフラストレーションを感じて怒りを発しやすく、独裁的にふるまう場面も。
【天真爛漫タイプのアンガーマネジメント】
人を力ずくで動かそうとしないこと。自分を主役ではなく脇役と考え、相手を立てる練習をすることで人の気持ちが理解しやすくなります。
同じ怒りでも、タイプや傾向、程度は十人十色。怒りをさらに深く分析することで、一人ひとりに適したアンガーマネジメントを実践することができます。
「大切なのは自分が怒ったことを細かく記録して、怒りをコントロールする技術を学ぶこと。最初はうまくいかないことも多いと思いますが、1週間、10日と続けていくうちに、自分がどんなことに怒りやすいか、怒りを感じたとき、どう対処したらいいかが分かるようになります。大切な人間関係や人生を怒りで壊してしまうことがないよう、怒りとの上手な付き合い方を身につけておきましょう」(安藤俊介さん)