運動不足や偏った食生活、喫煙、ストレス、睡眠不足など、普段の何気ない習慣が病気の発症や進行に関係する生活習慣病。肥満や高血糖、高血圧といったさまざまな症状が含まれ、現代を生きる働き盛りの社会人からシニア世代まで、とても身近な病気です。今回は、大学で健康スポーツ学を修め、現在はパーソナルトレーニングジムで成人男女に指導を行っている古谷有騎さんに、生活習慣病の予防になるエクササイズについて、お話を伺います。
「運動をすることは、生活習慣病の予防に効果があります。しかし、多くの人が行っている『帰宅時に一つ手前の駅で降りて歩く』といったレベルでは、実は不十分なんです。ウォーキングをするにしても、ある程度の時間を確保するとともに、『運動』としてしっかりと強度を上げる工夫が必要です。一例ですが、アメリカスポーツ医学会(ACSM)では、毎日30分、1週間の目安として150分以上を生活習慣病予防に効果的な運動時間の基準としています」(古谷有騎さん)
そう聞くと、もともと体を動かす習慣のない人にとっては、かなりハードルが高くなる気がしますが……。
「『運動』とひと口に言っても、フットサルや野球、ランニング、テニス、ダンスなど、その種類はさまざまです。運動習慣をつけるためには、自分に合った、楽しいと思える運動を見つけることがポイントです。オススメは、自分と年齢や環境が近い人がやっているものを参考にしてみるというもの。自分と同じような体力レベル、運動歴がある人を参考にすると『あの人もできているのだから、自分にもできるはず!』と、自信が生まれ、やる気にもつながります」(古谷有騎さん)
では、なかなか自分に合った運動を見つけることができない人のために、生活習慣病の予防に役立つ運動はあるのでしょうか。
「運動自体に興味が向かない人は、日常生活の中に取り入れやすく、習慣化しやすいウォーキングやランニングなどから始めてみましょう。ある程度の時間をかけて行う有酸素運動は、生活習慣病の予防全般に効果的です」(古谷有騎さん)
そこで、有酸素運動と一緒に行うことでさらにその効果を高めてくれる、それぞれの症状に適した運動メニューも教えていただきました。
糖尿病予防におすすめのエクササイズ
「血糖(血液中のブドウ糖)の量が増えすぎてしまう糖尿病では、食後にさまざまなエクササイズをある程度の時間をかけて行うことで、増えた血糖の量を下げる効果が期待できます。実際に、糖尿病になってインスリンの働きが悪くなった人が筋肉を動かす運動を続けていたところ、血糖値が下降したという研究結果も発表されています(※)。このエクササイズは、太ももなどの大きな筋肉をゆっくりと動かすことで、食事で摂った糖を運動で使ってしまうことが大切です。エクササイズは1〜4を各20回×2セット。脚を前後に開くものは、脚を入れ替えて、それぞれ20回行います」(古谷有騎さん)
●所要時間:約6分
●古谷さんからのポイント
食後の血糖値が上がっているタイミングで運動することをおすすめします。Step1
イスの間に立ち、肩幅より少し広く脚を開きます。手は、イスの背もたれに乗せます。
Step2
膝とかかとの位置を固定したまま、お尻を下げます。この際、膝が内側に入らないように気をつけてください。その状態からお尻を上げ、Step1の姿勢に戻します。
Step1
イスの間に立ち、脚を前後に開きます。手はエクササイズ1と同様、イスの背もたれに乗せます。
Step2
前に出した脚の太ももが床と水平になるところまで腰を落とします。前の膝を伸ばして元の姿勢に戻ります。
※反対の脚も同様に行います。
Step1
エクササイズ2と同様にイスの間に立ち、脚を前後に開きます。
Step2
背筋を伸ばした状態で後ろに引いた脚を胸に引き寄せ、太ももが床に対して水平以上になるように膝を高く上げます。上げた膝を下に降ろします。
※反対の脚も同様に行います。
Step1
脚を前後に開き、前の脚の太ももが床に対して水平になるよう、腰を落とします。
Step2
立ち上がるように体を上へ上げながら、背筋を伸ばした状態で後ろに引いた脚を胸に引き寄せ、太ももが床に対して水平以上になるように膝を高く上げます。上げた膝を下に降ろします。
※反対の脚も同様に行います。
高血圧の予防におすすめのストレッチ
「安静の状態で慢性的に血圧が高い高血圧の方は、体がこわばると血が滞り、動脈硬化を起こしやすくなってしまうので、体の中の硬い筋肉をひとつひとつ伸ばすストレッチが効果的です。イスで行うストレッチは、デスクワークで硬くなりがちな筋肉をオフィスでの休憩時間に伸ばすことができるのでおすすめです」(古谷有騎さん)
●所要時間:約5分~
●古谷さんからのポイント
ストレッチは痛気持ちいいところまで伸ばしてキープすることが重要です。20~30秒はその姿勢をキープしましょう。Step1
イスに浅く腰掛け、背筋を伸ばします。片脚だけであぐらをかくイメージで、片方の脚のくるぶしをもう片方の膝の上に乗せます。股関節がしっかり開くように意識しながら、手は足首と膝に軽く乗せましょう。
Step2
そのまま上体を前にゆっくりと倒して、お尻の筋肉を伸ばします。その体勢を20~30秒間ほど保ち、時間がきたら上体をもとの位置に戻します。
※反対の脚も同様に行います。
Step1
肩幅程度に脚を開き、体育座りをするように膝を折って床に座ります。そのまま両膝を同じ向きに倒し、それぞれの膝の外側と内側を床につけ、膝の内側がついている方の足先を手で持ちます。もう片方の手は、体の横につきます。
Step2
手で持っている足のかかとをお尻に近づけるように膝を曲げ、さらに膝を後ろに引きます。そのまま上半身だけ伸ばしたい脚とは反対方向にひねり、太ももの前側の筋肉を伸ばします。
※反対の脚も同様に行います。
脂質異常症の予防におすすめのエクササイズ
「血液中の中性脂質や悪玉コレステロールの量が基準値より高い、または善玉コレステロールが低いという症状が脂質異常症です。動脈硬化の原因になります。まずは、血中の脂質を下げることが大切ですが、そのためには簡単でいいので、継続して運動を行うことが必要です。毎日、トータルで20分以上、体を動かす時間を作ってください。体力的に厳しいなら、朝晩や仕事中に2回(各10分)に分けて行っても大丈夫です。基本のエクササイズでは負荷が足りないように感じてきたら、応用編にも挑戦してみましょう」(古谷有騎さん)
●所要時間:20分以上
●古谷さんからのポイント
継続は力なり。ここではエクササイズを行うタイミングよりも継続することが重要です。階段や段差などを利用して、踏み台昇降の要領で、片脚ずつ段の上に上がり、上で一度、両脚を揃え、片脚ずつ下げます。右脚から昇る動きを30秒行ったら、リード脚を変えて左脚から行いましょう。
基本のエクササイズの段を上がる時、下りる時に、膝を胸に引き寄せるように高く上げます。
ここでご紹介した運動メニューは、どれも簡単で、すぐに始められるものばかりです。とはいえ、効果は侮れません。
予防したい症状によって、運動を行うタイミングや時間の長さなど、大切なポイントは異なります。生活習慣病予防の効果を期待するのなら、やみくもに運動をするのではなく、ウォーキングやランニングといった有酸素運動と組み合わせつつ、ポイントを押さえて行うことが重要です。あなたも簡単なエクササイズやストレッチから、運動習慣を生活の中に取り入れてみませんか。
※参考文献
『糖尿病 最新の治療2016-2018(南江堂)』
<参考資料>
国立研究開発法人国立循環器研究センター循環器病情報サービル
注)ここでご紹介した運動は、個人の裁量にて行ってください。必ずしも生活習慣病を改善するものではありません。治療中の方は、医師の判断を仰いでください。