私たち日本語教師は主に外国人や海外ルーツの方々に、日本語を教えています。外国人の皆さんは、日本の社会で見聞きした日本語に疑問を持ち、私たちに質問を投げかけてきますが、中には「そんなこと、意識したことがなかった!」と返事に窮するような鋭いものも。
例えば、「雨が上がった」という表現。私がそう言ったのを聞いて、その時一緒にいた留学生は「雨が下から上へ上がっていった」のかと思い、驚いていました。こんなふうに、日本人は当たり前のように使っていても、外国人が不思議に感じる日本語はたくさんあります。今回は、その一部をクイズ形式にしてご紹介します。
第1問
「お考え」と「ご意見」、「お兄さん」と「ご兄弟」。同じような言葉なのに、「お」が付いたり「ご」が付いたりするのはなぜ?
クイズの答え
正解は「C」です。
解説
「お」+「和語」と、「ご」+「漢語」
「和語」は、もともと日本で使われていた言葉を指します。例外もあるのですが、基本的に漢字の語彙で、訓読みする言葉が「和語」です。「やまとことば」とも呼ばれます。例として、「山(やま)」「川(かわ)」「木(き)」「花(はな)」「猿(さる)」「犬(いぬ)」「うさぎ」「食(た)べる」「飲(の)む」などがあります。クイズに登場する「考(かんが)え」は、訓読みなので和語ですね。
一方、音読みする言葉を「漢語」と言い、中国の漢字の読み方を借りて、日本語として定着した言葉を指します。例としては、「自然(しぜん)」「動物(どうぶつ)」「家族(かぞく)」「住所(じゅうしょ)」など。クイズに登場する「意見(いけん)」「兄弟(きょうだい)」は、音読みなので漢語です。ただし、「お電話」「お掃除」のように、日常生活に溶け込み、生活に欠かせない言葉は、漢語であっても例外的に「お」が付きます。
「お兄さん」は和語?
ここで問題になるのが「お兄(にい)さん」です。「あれ?そもそも『兄』という漢字に、『にい』という読み方はあったっけ?」と思ったあなたは、漢字通です。「兄」という漢字は、訓読みが「あに」、音読みが「きょう」「けい」で、「にい」という読み方はありません。
実は「お兄さん」は、「おあにさま」という言葉が変化したものなのです。時代の変遷とともに、「おあにさま」「おあにぃさん」「おにいさん」と変化しましたが、元になっている「兄(あに)」が和語なので、「お」が付くということですね。
カタカナ語はどうだろう?
「パソコン」「テレビ」などの外来語は、カタカナで書かれています。本来、外来語には「お」や「ご」は付かないとされています。ただ、これにも例外があって、「おタバコ」「おトイレ」は日常生活に溶け込んでおり、多く使用されています。接客で耳にする「おビール」「おズボン」などの表現も、ある程度は容認されてきているようですが、まだまだ完全に市民権を得ている状況ではないでしょう。
例外が多くて難しい「お」と「ご」
他にも「春、夏、秋、冬」や「台風」などの自然現象などには付かないとされていますが、太陽は古来より崇拝の対象となっていたため、「お天道様」「お日様」などと使われることもあります。また、品の悪い言葉、軽蔑を示す言葉には付かないとされています。
第2問
「大きい」かばんと「大きな」かばんの違いは?
クイズの答え
正解は「B」です。
解説
正解を聞いても、あまり納得できないかもしれませんね。まずは例文を見てみましょう。
これらの例文から分かるように、「大きい/小さい」は、客観的・具体的に表現したり、他と大きさを比べたり(例文6)、目に見える大きさを表現したり(例文2、3)する時に使います。
一方、「大きな/小さな」は、主観的・抽象的に表現したり、話し手の気持ちが入っていたり(例文3)、目に見えないものの大きさを表現したり(例文1、4、5)する時に使います。
「大きい/小さい」と「大きな/小さな」のどちらを使ってもいい場合もありますが、どちらを使うかで文章のニュアンスが変わってきます。
この例文では、4通りの「大きい/大きな」「小さい/小さな」を使った文章が考えられますね。客観的(目に見える大きさ)、主観的(話し手の気持ちが入る)という解説を参考に、それぞれどんな意味になるかを考えてみてください。
日本人は普段何気なく使っていて、ほとんど気にも留めたことがないのではないでしょうか。外国人に聞かれてハッとする、代表格のような質問です。
第3問
「このスニーカーは、定価2万円の2割引なので1万6000円です」。外国人がこの表現を分かりづらいと感じるのはなぜ?(答えは2つ)
クイズの答え
正解は「A」と「C」です。
解説
バーゲンの時期になると「◯割引」や「◯%OFF」のタグを見て、ワクワクしますよね。しかし、実は「◯割引」というのは日本独自の表現なんです。しかも、日本では「◯割引」と「◯%OFF」の表現が混在しているため、外国人は混乱してしまうことがあるようです。
また、大きな数字を表記する際に用いる「カンマ」は、欧米の言語文化圏由来のものです。「3桁」ごとにカンマが打たれ、「16,000」のように書きますよね。一方、日本語の数字の読み方はどうでしょうか。ご存知のように「一」「十」「百」「千」と位が上がっていき、この「一」から「千」の「4桁」がひとグループとなり、その後は「万」「億」といった「4桁」ごとに単位が用意されています。この「3桁」の表記と「4桁」の読み方のズレは外国人にとって非常にややこしく、慣れるまでは大変という声を聞くことがあります。
今回は、外国人が不思議に思う日本語について、クイズ形式でご紹介しました。ご紹介した「お」と「ご」の問題では、日本独自の部分と中国から漢字が伝わって発展した部分の違いが見えます。また、「タバコ」とほぼ同時期にポルトガルから伝わってきた「天ぷら」は、外来語ではあるものの、カタカナで「テンプラ」と表記することはありません。すでに日本語に溶け込んでいる印象を受けますが、一方で「お寿司」などのように「お天ぷら」と言うこともなく、「まだ日本語に溶け込みきれていないのかな」というふうにも考えられますね。
私も、日本語教師として外国人に日本語を教えることがなかったら、日本語の成り立ちについてこんなふうに意識することはなかったかもしれません。外国人から見た日本、そして日本語の世界は不思議がいっぱいです。この機会に、私たちが普段何気なく使っている日本語に目を向け、日本語の奥深さを感じていただければと思います。