今や在宅ワークと一口に言っても、自宅やオンラインで教室を開く、インターネットを利用して作品を販売するなど、その働き方は十人十色です。なかでも、無料で手軽に始めることができて、世界中の人に自ら発信することができるSNSは、在宅ワーカーにとって必要不可欠なツールと言っても過言ではありません。今回は、InstagramやYouTubeといったSNSを駆使しながら、得意なハンドメイド作品で生計を立てている3人の在宅ワーカーさんをご紹介します。
ファンシーでかわいらしいパッチワーク作品を手がけるAyumiさんが在宅ワークを始めたきっかけはInstagram。子どもが自立し、「これからは好きなことをして楽しみたい」と思っていた矢先、見るだけのつもりで始めたInstagramに、遊び心で20年来の趣味であったパッチワークの作品写真を投稿すると、すぐにリアクションがあったそうです。
「しばらくの間『パッチワーク熱』は冷めていたんですが、褒めていただくと嬉しくて。また作りたいという気持ちが自然と湧いてきました。そのうち、販売してほしいという声もいただくようになったので、ハンドメイド販売サイトへの出品にも挑戦してみることにしたんです」(Ayumiさん)
レトロなプリント柄を生かし、小さなピースとつなぎ合わせて細かくキルティングしたパッチワークがAyumiさんの作品の特徴。
自分のパッチワーク作品を何度も購入してくれる人が増えたり、雑誌や企業からの制作依頼が来たりと、充実した時間を持てるようになってきたというAyumiさんは、徐々にパッチワーク中心の生活スタイルへとシフトしていきます。
「始めた当時は、パッチワークと同じくらい好きだった製パンのレッスンに通いながら、午前中はパン屋さんで働き、帰宅後はパッチワークを作るという忙しさ。しかし、勤務時間の短いパートでは製パンの技術を習得しきれず、限界を感じていたので、思い切ってパッチワークだけでやっていこうと、パン屋を諦めることにしました。私自身、『好きなことで自分らしく働きたい』という思いはずっと持っていましたし、新しいことにチャレンジしたい気持ちも強かったですね」(Ayumiさん)
これまで趣味の延長でやっていたパッチワークを本格的に仕事としてスタートさせるには、それなりの準備も必要だったとAyumiさんは言います。
「まずは作業環境を整えることが大切と考えて、道具や資材の収納スペースと広い作業台を確保し、効率化を図りました。それと同時に、動画配信をするための勉強を始め、快適に仕事をするためのルールも決めました。在宅で働いていると、ついつい自分の時間を無制限に仕事に使ってしまいがち。だから、毎日『〇時までに作業を終える』といった目標を立て、小さな達成感を得られるようにしているんです」(Ayumiさん)
Ayumiさんの作業風景。カラフルな色使いに定評あり
しっかりと準備を整えて、いざ始めた在宅ワーク。メリットもあれば、当然デメリットもあるそうです。
「通勤の身支度不要、通勤時間なし、人間関係の気疲れなし、と良いことばかりのように聞こえますが、逆に言うと、身なりに気を使わなくなり、運動不足になり、家族以外の人と会話することもなくなってしまったりと……。在宅ワークのメリットとデメリットは表裏一体だと思います。また、SNSに関わる作業時間の長さ。宣伝・販売のためには欠かせないのですが、作品制作以外にも時間が取られてしまうのだなと感じています。その一方で、そんなことも苦にならないくらいの充実感が得られているのも確かです。私が手間と時間をかけて、心を込めて作ったパッチワークを好きだと言って、使ってくださる方がいると思うだけで、自然と意欲が湧いてくるんです」(Ayumiさん)
IT系の会社で働いていたufu-nailさんは、もともと興味があったネイリストになろうと心に決め、働きながら準備を開始します。まずはネイリスト検定の資格を取得することを目標に定めました。
「最初は、お金も節約できるし、独学で頑張ろうと努力しましたが、これまでの経験上、自分には独学が向いていないことを思い出して……(笑)。そこで、仕事が休みの土日に通えるスクールを探したんです。土日はスクールに通って、平日も帰宅後1~2時間は練習して、きちんと技術を習得したことが、検定本番での自信につながったのだと思います。ネイリスト検定2級(サロンで働けるレベル)までストレートで合格できました」(ufu-nailさん)
転職のタイミングをうかがいつつ、ネイルサロンの求人をチェックしていましたが、未経験者は給料が少なく、サロンをのぞいてみると自分より若いネイリストばかり。その中で、一から働くことに不安と抵抗があったと言います。そんな時に知ったのが、自宅サロンという働き方でした。
「技術向上のために友人や家族に協力してもらって練習していましたが、仕事上ネイルがNGの人も多かったですね。そこで思い付いたのがネイルチップです。100円ショップで大量に買って、ネイルアートの練習をしたり、デザインを考えたりしているうちに、すっかりネイルチップ作りに夢中になってしまって。お客様に直接施すネイルサロンではスピーディーさも重要ですが、ネイルチップなら時間にとらわれることなく、凝ったデザインをじっくりと仕上げられます。この魅力にとり憑かれ、まずは気軽にチャレンジできるネット販売から始めてみることにしたんです」(ufu-nailさん)
螺鈿(らでん)細工のように本物の貝殻の欠片(シェルフレーク)で生み出すシェルフラワーが、ufu-nailさんの作品の特徴。「シェルの可能性を追求し、飽きがこない伝統工芸のような唯一無二のネイルチップを作っていきたい」と語るufu-nailさん。
しかし、最初はまったく売れず、貯金を切り崩したことも。続けていくか悩んでいましたが、口コミで少しずつページを見てくれる人が増えてきて、その反応にやりがいを感じるようになったそうです。また、在宅ワークはufu-nailさんには合っていたようで……。
「以前、ストレスに感じていた通勤・帰宅時の満員電車や人間関係のわずらわしさがなくなったことで精神的に解放され、やる気や集中力も高まったように感じます。また、自分のペースで働くことができるので、きちんと朝食を摂ったり、ペットと散歩したり、プライベートの時間を大切にできるようになったのも嬉しかったです」(ufu-nailさん)
仕事とプライベートの切り替えは、在宅ワークの重要なポイントです。ufu-nailさんは、アトリエ(作業部屋)を作ることで難なくクリアできたと言います。
「リビングや自分の部屋での作業はどうしても落ち着かないので、物置にしていた小さな部屋をアトリエにプチリフォームして、気分の上がるネイル部屋を完成させました。頑張りすぎちゃう性格なので、1日の作業時間をできるだけ8〜9時間と決めてあります。前よりはオン・オフの切り替えがうまくできるようになったかな」(ufu-nailさん)
祖父母が住んでいた古い家の一部屋をアトリエにリフォーム。DIYした床にセンスが光ります。
カード作家として活躍する鈴木孝美さんがカードと出会ったのは、ご主人と訪れたアメリカ。ほとんどのスーパーにグリーティングカード売り場があったり、大学内にカードショップがあったりすることに驚き、その絵柄の美しさと楽しさに魅了されたそうです。
「カードには必ず気持ちを表す短い文章がプリントされています。ちょっとしたメッセージとともに心がつながるカード文化に触れ、素敵だなと感じた私は、日本に戻ってから、お世話になった方々との思い出をカードにして感謝の気持ちをお届けしたんです。それがカード作りを始めたきっかけですね」(鈴木孝美さん)
出会った瞬間から、積極的にカードの世界を突き進んでいった鈴木さん。
「輸入カード専門店で働き始め、個人のカードを販売するコーナーに自分の作品を置かせていただいたり、店内でカード教室を開催したりしていました。ある日、思い切って、今まで作りためたカードの写真を手芸関係の出版社に送ったら、本を出していただけることになったんです」(鈴木孝美さん)
「お祝い事からお悔やみまで、そして感謝の気持ちを伝える時にも。普段使いできる、心のこもった手作りカードを提案したい」と鈴木さん。こちらは夏のごあいさつ用。
本の出版をきっかけに趣味だったカード作りが仕事になり、さらに働いていたカード専門店の閉店と自宅の引っ越しが重なり、自宅で教室を開くことを決意します。
「手作りカードにはいろいろな道具が必要になるため、カルチャーセンターなどで教室やイベントを行う際は荷物の持ち運びが少し大変でした。その点、自宅での開催は実に効率的でした。今思えば、私が小さい頃母が自宅で音楽教室を開いていて、主婦が在宅で仕事をする姿を当たり前のように見て育ったことも大きく影響しているのかもしれません」(鈴木孝美さん)
自宅でカード教室を始めた当時から、鈴木さんのワークスタイルは、教室と本の出版という二本柱。次第に保育関係の雑誌から作品制作の依頼が来たり、学校や企業で行われるイベントの講師を務めたりと仕事は広がっていきました。在宅ワークが軌道に乗り出すと、会社員やパートとして勤務していた頃にはできなかったワーク・ライフ・バランスを実現できるようになったそうです。
「仕事内容や時間管理をすべて自分で決められるので、プライベートの用事や家事をうまく調整して、こなしていけるのが大きなメリットですね。現在、親の介護もあるので、毎週実家へ行く時間も確保しています。年齢や状況に合わせて無理をせずに変化していけたらいいなと思っています」(鈴木孝美さん)
教室の様子。特に注意しているのはプライベート感を出さないこと。なるべく物が少ないシンプルなインテリアを心がけているそう。
在宅ワークは融通が利く一方で、その責任はすべて自分にあることもきちんと自覚して働かなければなりません。会社勤めにはない不安定さもついて回ります。
「最近、オンラインのレッスンを始めました。時代や世の中の状況に柔軟に対応していくことは必要で、今は通販やYouTubeなどをフルに活用した、自宅で完結できる働き方をもっと模索しなければならないと思っています」(鈴木孝美さん)
最後に、今回の取材にご協力いただいた皆さんから在宅ワークに興味を持っている方へ、メッセージやアドバイスをいただきました。
「私の仕事は、すべてを一人でやらなくてはいけないので、孤独で地道です。ただ、もし夢中になれる大好きなことがあるなら、挑戦してみる価値はあると思います。今は誰にでも作品を発表できる場所があって、自分の作る世界観に共感する人を見つけることもできます。まさか、趣味が仕事になるとは思っていなかったのですが、私のように子育てを終え、年齢を重ねてからでも、新しい世界を広げることができますよ」(Ayumiさん)
「以前は会社任せだった確定申告も自分でやらなければならないなど、在宅ワークならではの大変さもありますが、結果として在宅ワークを始めて良かった!と思うことの方が断然多いです。まずはやりたいことを見つけて、資格を取得するところから始めることをおすすめします」(ufu-nailさん)
「私は目の前の好きなことや楽しいことをしていたら、素敵な出会いがたくさん重なって、結果的に在宅ワークにつながりました。最初から上手にやろうとせず、小さな規模からでも、とにかく始めてみましょう。よくわからなくなった時は、『自分の仕事は誰の役に立っているか』を考えると答えが見つかるかもしれませんね」(鈴木孝美さん)
皆さんの言葉から伝わってくるのは、好きなことや得意なことに傾ける情熱と、ストレスフリーな環境で働くことの清々しさ、そして自分の作品に価値が生まれ、誰かに喜んでもらえる充実感。そんな内面からイキイキと輝かせてくれる、自分らしい働き方をあなたも見つけてみませんか?