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2020.06.09

メイクセラピストが教える!医療と介護の新分野「セラピーメイク」の可能性

メイクセラピストが教える!医療と介護の新分野「セラピーメイク」の可能性

メイクには、外見を美しくするだけではなく、明るく前向きな気持ちを引き出す効果があることをご存じですか?今回は、そんなメイクの心理的・社会的効果を介護や医療の現場で生かし、メイクセラピストとして広く活動されている大平智祉緒さんに詳しくお話を伺いました。

  • シゴト

「セラピーメイク」ってどんなもの?現場で活躍中のメイクセラピストが解説

「セラピーメイク」ってどんなもの?現場で活躍中のメイクセラピストが解説

医療や介護の現場で患者さんにメイクやネイルを施す「セラピーメイク」。メイクをすることで患者さんの心をサポートするセラピーとして注目を集めています。今回は、メイクセラピストとして医療や介護の現場で活躍されている大平智祉緒さんに、「セラピーメイク」とは一体どんなものなのか、詳しくお話を伺いました。

大平さんがセラピーメイクの専門家として活躍されるまでの経緯を教えてください。

「緩和ケア・終末期ケアができる看護師を目指し、高齢者病院の内科病棟で働いていました。しかし、大学病院系列ということもあり、当時はどんなご高齢であっても、死期が迫っていても、最後まで命を延ばすための治療が最優先に行われ、そうした医療を支える看護に葛藤がありました。そんなとき、ある看護学生が認知症の患者さんにネイルを施している場面に遭遇しました。きれいになった爪を見た患者さんが笑顔になる姿を目にし、こうしたケアが医療の現場にも必要なのではないか?と感じたんです」(大平智祉緒さん)

その後、結婚を機に退職した大平さんはいったん看護の現場を離れ、子育ての合間に心理学と化粧の理論や技術を学びました。女性の起業を応援するセミナーで、健康維持を目的としたシニア向けのメイク講座を依頼されます。看護の現場への思いを捨てきれずにいた大平さんは、これを機に、看護師目線での化粧の効果を伝える講師として、認知症フェアで登壇するなど、セラピーメイクを広く知ってもらうための活動を始めます。さらには、地域で訪問看護師としても働き始め、最後までその人らしい生活を支える在宅看護を体験し、看護資格を持つメイクセラピストとして活動の場を広げていかれたそうです。

「あるとき、認知症フェアで出会ったおばあちゃんが、最初は遠慮がちに『メイクなんて恥ずかしい』とおっしゃっていたのに、ほんの少し頬紅をのせただけでとても喜ばれ、『私なんてきれいになってはいけないと思っていた』とぽろぽろと涙を流す姿に、胸を打たれました」(大平智祉緒さん)

普通のメイクとセラピーメイクとの違いはなんですか?

普通のメイクとセラピーメイクとの違いはなんですか?

「セラピーメイク」という言葉にはまだ確立した定義がないそうですが、化粧による心理的・社会的・生理的な効果を意図的・計画的に活用して、対象者のQOL(Quality of Life=生活の質)の向上効果を得る化粧療法のひとつとして考えると良いかもしれません。セラピーメイクをすることで得られる主な効果は、3点挙げられます。

(1)心理的効果:心が明るく、前向きになること。そして自己肯定感が上がること。
(2)社会的効果:積極的、行動的になること、他者への関心が高まることで、人との交流が促進されること。
(3)生理的効果:化粧をすること自体が、運動・認知機能のリハビリになる。また、免疫機能の向上や口腔機能の維持・向上が期待できること。

「つまり、私が考えるセラピーメイクは、きれいになることを目的としたメイクとは違い、化粧行為を媒介に、相手とのコミュニケーションをはかり、心身の健康を維持・向上させ、その人らしく生きることを支えるための手法のひとつです」(大平智祉緒さん)

大平さんのように、セラピーメイクの分野で活躍するには、どうしたらいいのでしょうか?

「まず、人と関わるのが好きであることが大切ですね。医療や介護の現場はポジティブなことばかりではないので、それでもセラピーメイクで患者さんを元気にしたいという思いと、相手を理解しようとする姿勢が必要です」(大平智祉緒さん)

そして、「医療や介護の知識」や「美容の専門知識・技術」も求められます。

「例えば、疾患や治療特性や衛生管理法、適切な姿勢保持の方法などは知っておいた方が良いと思います。できれば医療か介護の資格を持っていた方が、施術される側も安心です。介護現場で実施する際でも慢性疾患や複数の疾患をお持ちの方は多く、体調面も変化しやすいので注意が必要です。他職種と情報共有をしながら、その日の状態に合わせた施術を行えることが、現場でのセラピーメイク普及のための課題だと思っています」(大平智祉緒さん)

セラピーメイクの効果で患者さんに表れた変化とは?

セラピーメイクの効果で患者さんに表れた変化とは?

これまで、さまざまな患者さんと接してきた大平さん。セラピーメイクによって患者さんにはどのような変化が表れるのでしょうか?

「はじめは遠慮される方がほとんどなんです。まずはハンドケアから始めると徐々にリラックスしていただけます。お顔を触ると『若い方の手ってあったかいのねえ』と喜んでいただけます。相手の心地よさを確認しながら施術をしていると、思いがけない本音を聞けることもあります」(大平智祉緒さん)

病気で苦しんでコミュニケーションが難しくなっていた方に声かけしながらネイルを施術したところ、その時間だけは穏やかな表情で昔の話をしてくれるようになったそうです。その患者さんは、お見舞いにきた同級生の方に爪を見せて「こんなにきれいにしてもらってよかったね。ほんとうによかったね」と涙を流して喜んでもらえたことを、大平さんに嬉しそうにお話しされたそう。患者さんの同級生の方にとっては、もしかしたら最後になるかもしれないお見舞いが、幸せな笑顔の思い出として残ることは、なんとも嬉しいこと。まさに、セラピーメイクの社会的効果と言えそうです。

また、ある男性の患者さんは、はじめは顔を触ると怒って嫌がっていましたが、眉毛や髭を整えて鏡を見せることで、だんだんとセラピーメイク(この場合は、マッサージやお顔の毛を処理するなどの方法)を受け入れてくださるようになり、次第に穏やかな様子に変わっていったそう。

「もともと身だしなみをきちんと整えていた方だったので、自己肯定感や社会性が高まったようです」(大平智祉緒さん)

セラピーメイクを施したことにより、介護している方への対応も穏やかになり、さらに周りの方が外見の変化に気づくことで声掛けと会話が増え、「人と人との関係の中で生きている」という実感が得られるという、相乗効果もあるそうです。

さらに、生理的な効果としては、道具を持ってメイクをすることには作業療法に近い効果が期待できると話す、大平さん。

「眉毛を描くのは食事をするときの約2~3倍の筋力が要ると言われており、上腕の筋力トレーニングにもなります。また、マッサージで唾液の分泌が良くなる(※)という口腔機能への影響も注目されています」(大平智祉緒さん)

今後は、こうした効果をうまく活用して、医療や介護現場における個別ケアとして、セラピーメイクへの期待がますます高まっていきそうです。

※参考資料:資生堂「ライフクオリティービューティーセミナー」

「人の役に立ちたい」&「メイクが好き」そんな人に挑戦してほしい!

最後に、大平さんのメイクセラピストとしての今後の活動と将来の目標を伺いました。

「今後は、看護や介護教育の中に『ケアとしての化粧』という分野を確立する必要があると思っています。これまで蓄積してきたセラピーメイクの実践やこれまでに明らかになっている研究結果等を踏まえ、より看護学の視点から見つめ、科学的根拠を元に追求していきたいと思います」(大平智祉緒さん)

メイクというと、華やかなイメージが先行してしまいがちですが、セラピーメイクは外見を整えてその人の尊厳を守り、その人らしく生きるためのお手伝いをするもの。それを証明するには、医学的なエビデンスやケア技術としての標準化がまだ足りないので、それを補うために大学院での学習を志望したそうです。

メイクセラピストを目指している人へのメッセージとして、「強い心と思いを持って目指してほしいです。途中で挫折しないで、歩み続けてほしい。そういう方たちと一緒に開拓していきたいです」と、大平さんは言います。

もちろん、強い心とは、ぜったいに患者さんを笑顔にしてみせるとムキになることではありません。「解決できない苦しみを抱えている方に対して、無力な自分自身を知った上で、それでもメイクセラピストとしてそばに居続けるといった覚悟。そんな気持ちが必要なのかもしれません」(大平智祉緒さん)

メイクセラピストが、いかにやりがいに満ちた魅力的な仕事であるかということが伝わりましたでしょうか?今後、ますます注目を集めていきそうなメイクセラピスト。より専門性が確立され「化粧療法士」といった職業が、医療や介護現場で活躍する日もそう遠くはないのかもしれません。メイクに興味があって人の役に立ちたいという方は、目指してみてはいかがでしょう。

プロフィール
大平智祉緒さん
大平智祉緒さん
NOTICE主宰メイクセラピスト。大学病院内科病棟の看護師として高齢者の看護に従事したのち、結婚を機に退職し三児の母となる。メイクセラピスト養成講座・資生堂化粧療法講座ADL向上のための整容講座マスターコースを修了後、国立病院での美容ケアボランティアを経て独立。「Nursing & Beauty Care」を事業展開している。公益社団法人化粧療法協会正会員。最後まで自分らしく美しく生きられる世の中を目指し、ケアとしての美容の可能性を広げている。
ライタープロフィール
斎藤明子さん
ライター/美容ライター。大学卒業後、広告代理店・編集プロダクションを経てフリーに。日本化粧品検定1級コスメコンシェルジュ、AEAJアロマテラピー検定1級、ヘルスフードカウンセラー2級の資格を生かし、美容記事を中心にweb・雑誌等にて執筆中。双子女子(春から女子高生!)の母。
 

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