転職エージェントとして、これまでに2,000名以上の転職に携わってきた森本千賀子さん。転職コンサルタントとして独立した後も、メディア出演や講演・セミナーへの登壇など、幅広く活躍しています。そんな森本さんは、最近では女性の管理職登用を積極的に考えている企業や、子育てが一段落し、再就職を考えている女性から多くの相談を受けているそうです。
「女性が社会で働く環境は、10年くらい前まではあまり整っていませんでした。結婚や出産を機にキャリアを諦めたり、仕事を辞めて専業主婦になる女性がほとんどだったんです。実は私も、過去に第1子を出産してから復職した経験があるんですが、当時社内では、ワーキングマザーは片手で数えられるほどの人数しかいませんでしたね。しかし、近年では制度も充実し、ワーキングマザーの数は増え、復職率も劇的に上がってきており、必ずしも、出産=退職ではなくなりました。ただし、復職はしやすくなっても、時短勤務になり任せてもらえる仕事に制約ができてしまうなど、モヤモヤした気持ちを抱えながら働いている女性も少なくありません。中には、時間の融通が利きやすいフリーランスに転身したり、いっそのこと子育てに集中しようと退職したりするケースも見受けられます。このように働く女性を取り巻く環境が多様化した現代で、女性の仕事や働き方の大きなカギになるのは、幅広い職場から求められる『選択肢』を持つことです。
女性が仕事や働き方の『選択肢』を持つために、私が特に重要だと考えているのは『掛け算』のスキルです。例えば営業職なら『営業×ファイナンス』、『営業×マーケティング』のように、他の人とは差別化できるスキルや経験を持つことがポイント。自分の価値がぐっと上がり、エンプロイアビリティ(雇用されうる能力)も、働く環境の『選択肢』も広がるでしょう。企業としても、採用難と言われる昨今では、せっかく雇用した人材にもっと活躍してほしいという思いが強まっていますから、時短勤務の女性にも、営業職や専門職としてキャリアアップできるような研修を行ったり、勉強のための支援制度を整えたりする企業も増えています。
一方で、事務職などについては、正社員ではなく派遣社員やアウトソースに切り替えることにより、正社員の雇用が減少傾向にあるのも事実。自分ならではのスキルを持つことは、会社に必要とされながら長く働くための必須条件と言っても過言ではありません」。(森本千賀子さん)
森本さんいわく、「このスキルさえ身につければ長く働ける」という万能なものはないそうです。重要なのは、今のキャリアや仕事に『掛け算』ができて、相乗効果を持たせることのできるスキルを見極めること。そちらを踏まえて、長く働ける仕事×資格の組み合わせについて挙げていただきました。
1:人事×キャリアカウンセラー
キャリアカウンセラーは、相談者の適性や適職を見極め、課題や悩みの解決へと導きます。資格保持者は、人材派遣会社や教育機関で仕事をすることが多いですが、最近では「企業内カウンセラー」として働く選択肢も増えています。
業種や職種に関係なく、終身雇用を前提に一つの会社で働き続ける人は、これからどんどん減っていくと言われています。そのような状況の中で、企業には社員の課題や悩みに寄り添いながら成長支援や配属などを行うことが求められている状況です。実際に、社内に専属のキャリアカウンセラーを置き、社員がキャリア相談を行えるように制度を整えている企業も増えつつあるため、この資格を持っていると、働く環境の選択肢が増えるかもしれません。
2:保険業界×ファイナンシャルプランナー(FP)
もともと女性が多く活躍する傾向にある保険業界では、女性の働く環境も比較的早くから整い、働きやすいと言われています。そのため、子育てなどでいったん離職した後の復職率が高いのも特徴ですが、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格があれば、さらに強みとなるでしょう。人気の高い外資系の生命保険会社などでは、近年、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格を持つ人材を積極的に採用する傾向があるようです。また、資格があれば企業内でセミナーを開催したり、フリーランスで活躍する道がひらける可能性も増えるでしょう。
3.不動産業界×宅地建物取引士(宅建士)
今まで不動産・住宅業界は男性中心の業界でしたが、女性ならではの感性が活かせる場所になりつつあります。というのも、家計支出の70%以上(※)が女性(奥様)が意思決定をしていると言われており、消費者視点の柔軟な感覚と、プロの知識を兼ね備えた女性の活躍がとても期待されているのです。家を建てる際重要となるキッチンや水まわり、リビングの快適さへのこだわりは女性の方が強いですから、女性の身になって考えられる人材が求められているのです。また、不動産業界は責任者になる際に宅建士の資格が必要な場合が多いため、キャリアアップにつながりやすいこともメリットです。さらに、不動産業以外にも、住宅、金融など幅広い業種で仕事をすることも可能です。
※内閣府「男女の消費・貯蓄等の生活意識に関する調査」(2010年)
4.人事・広報×社会保険労務士(社労士)
社会保険労務士は、企業で働く上での諸問題、例えば社会保険や年金、労働環境に関わる問題解決に携わるプロフェッショナル。働く人にとってはもちろん、企業にとっても優秀な人材を雇用し、健全な経営を続けるためには社会保険労務士のサポートが不可欠です。妊娠や出産、子育てでライフステージが変わりやすい女性からの相談が増えるにつれ、最近は同性同士相談しやすい女性の社会保険労務士のニーズが増えています。
社会保険労務士は、いわば企業の事情に通じた「縁の下の力持ち」。人事や広報といった会社全体のイメージにつながる部署での経験値が長ければ長いほど、そこにプラスアルファしながらスキルアップを目指すことができる資格です。
5.介護業界×介護福祉士、ケアマネージャー
超高齢社会を迎えた現在の日本で、介護の業界は、今後ますます人材の需要が増えることは明らかです。現場は力仕事も多いため、男性が活躍できる職場でもありますが、生活上の細やかな配慮や柔軟なケアは、女性の得意とするところでもあると思います。
この業界で専門の資格を持っておくメリットは、職場での意見が通りやすくなること。専門家の視点で意見を発信できる立場になることで、長く働きやすい環境を自ら切り開くことができるはずです。
〜まだまだたくさん!女性の強みを活かせる資格〜
●中小企業診断士
終身雇用を見据えず、独立する人がますます増えるこれからの時代にニーズがあります。
●英語の資格(TOEIC,VEARSANTなど)
グローバル人材の採用やインバウンド需要に、英語のスキルを身につけて損はありません。
●趣味を活かした資格(カラーコーディネーター、インテリアコーディネーター、アロマセラピストなど)
例えば、営業職に掛け合わせて取得するなど、「自分の意外な一面」をアピールする武器にもなります。
森本さんからは、さらにこんなアドバイスも。
「ちょっと厳しい意見かもしれませんが、海外からの優秀な人材の流入や、AI(人工知能)などによる労働力の代替といった影響から、いわゆる『誰でもできる仕事』だけでは生き残っていけなくなる時代が、すぐそこまできているのかもしれません。『これはあなたにしか頼めない』と思われるような価値ある仕事のスキルを身につけることが、女性だけでなく男性にとっても、長く働いていくために必要不可欠だと思いますね」(森本千賀子さん)
最後に、自分のスキルを磨くと同時に、どのような職場選びを心掛けたらいいかについてもお話を伺いました。
「長く働ける職場かどうかを見極める上で、その企業が人材開発や人材育成にどれくらい注力しているかを見てみると良いと思います。例えば、何かの資格を取得すると奨励金や賞与があるとか、資格取得の実費を負担してくれるとか、資格取得をすすめる社内制度があるとか。企業自体が学習の機会に前向きかどうかは大きなポイントです。せっかく磨いた自分の価値を認めて、応援してくれる職場を選ぶことが、幸せに長く働くコツですよ」(森本千賀子さん)