飼い主に捨てられたり、迷子になったり、飼い主が飼えなくなったり、もともと野犬だったり……。保護犬とは、そのような事情で飼い主がいない犬のこと。そのため、自治体の動物愛護センターや保健所、民間の保護団体などが飼い主(里親)を探す活動を行い、保護犬と里親希望者を繋いでいます。
「ネット上には、保護犬にかかわる施設や団体が保護している犬たちの情報などが掲載されています。複数の団体の情報をまとめたポータルサイトのようなものもあります。また、今は新型コロナウイルスの影響で開催が難しい傾向にありますが、保護犬の譲渡会や保護犬カフェ、保護団体のシェルターの見学などで、どんな保護犬がいるのか、実際に見ることもできます」(亀井あやめさん)
「保護犬」「里親」「譲渡会」などのキーワードで検索してみると、確かにいろいろな団体のサイトが出てきます。団体を選ぶポイントは何でしょうか。
「保護犬に限らず、ペットを飼うということは、我が家に受け入れておしまい、ではありません。そこからがスタートなので、飼った後に『こんなはずじゃなかった』ということにならないよう、犬の情報をていねいに教えてもらうことが大事です。犬の性格や好きなもの・怖がるもの、健康状態、保護犬に至った背景などです。
また、飼い始めてから相談したいことも出てくると思うので、アフターケアに親身に対応していて、関係性を築きやすいかも需要なポイントです。里親希望者の申し込みをすると、こちらの状況を厳しく確認することもありますが、それも里親先で犬が幸せに暮らせるように願う団体の姿勢です。里親としては、その点の理解も必要だと思います。
さらに、団体の中には、保護している犬種を絞ったり、病気を持った犬を手厚くサポートしているところもあるので、特長的な活動内容にも注目してみましょう」(亀井あやめさん)
例えば親犬の情報が分かれば、その犬が子犬でも成長度合いの目安になります。怖がるものをあらかじめ知っておけば、これからの生活でその犬を怖がらせることが避けられます。情報を得ることから、その犬との生活は始まっていると言えそうです。
保護犬との出会いから譲渡まではこのような流れになります。犬とのお見合いは、里親希望者が犬のことをよく知るためだけでなく、団体側が里親希望者の要望やライフスタイルを知り、犬と里親がベストマッチングかどうか見極めるためにも行われます。
「犬とのマッチングで大切なのは、自分のライフスタイルに合った犬を迎えることです。例えば、自宅を留守にすることが多ければ、子犬は向かないですし、家族に小さな子供や年配の方がいると、大型犬では危険なこともあります。
また、犬とアウトドアで一緒に遊びたいのか、家でまったりしたいのか、求めている生活によって犬の適性も変わります。これらを包み隠さず団体に伝え、より良く合う犬を迎え入れましょう。そうでないと、犬にも無理を強いることになり、犬も里親も楽しい生活が送れません」(亀井あやめさん)
譲渡会などで「このコに一目ぼれ!」ということがあっても、そこは冷静に。長く一緒に暮らしていける家族になれるのか、よく考えることが大切ですね。
マッチングもうまくいき、いよいよ我が家にワンコがやってくる!ワクワクする気持ちも分かりますが、その前の準備も忘れずに。
「今は室内飼いが基本でそれを条件としている団体も多いので、飼えるスペースをしっかり確保してください。そして、犬が誤飲したり、壊したりしないように、モノを片付けたり、立ち入り禁止のスペースにはガードをします。例えば、コンセントはケーブルをかじることがあるので、カバーを付けましょう。ソファやカーペットも傷むのは必至と思ってください」(亀井あやめさん)
なるほど。犬を飼うにはいろいろと覚悟が必要です。その他に準備するモノとしては、首輪やリード、ハーネス、ドッグフードやトイレ用のシート、クレート(箱型ハウス)など。必要なお金についてはいかがでしょうか。
「保護団体によって異なりますが、譲渡が無料ということはほぼありません。団体で保護している間、他の犬などから病気が伝染しないように、混合ワクチンや狂犬病の予防接種をしているので、その費用の一部を負担するなど、説明があると思います。また、飼い始めてからも生後91日を過ぎた犬への年に一度の狂犬病の予防接種は飼い主の義務ですし、混合ワクチンも推奨されています。自宅近くの動物病院で受けることになると思うので、かかりつけ医を見つけておくようにしましょう」(亀井あやめさん)
部屋も片付けた。グッズもいろいろと揃えた。ワンコが来たら、SNSでも紹介したいな。お散歩に行けば、犬友もできるよね。いろいろと楽しい妄想が広がりますが……。
「おウチに来たばかりの犬をスマホでパシャパシャ撮る。というのは、ありがちなことです。『カワイイッ!』と撫でたり、頻繁に声をかけたりすることもありますよね。でも、犬にとっては、住む環境が変わったばかりで、ドキドキ、オドオドしている状態です。あまりに怖いので、『ウー』とうなったり、吠えたりすることもあるでしょう。それは彼らの意思表示。それでも人間が迫ってくると、噛み付くこともあります。
どうかどうか、最初は静かに、そぉーっとしておいてあげてください。エサをあげる時も、いちいち声をかける必要はありません。すっとお皿を出すだけで十分です。そういう日々がしばらく続くと、犬も新しい環境を怖がらなくなり、飼い主のことを安心できる人だと認め、犬のほうからすり寄ってくるようになります」(亀井あやめさん)
「犬は構われるのが好き」という思い込みを捨てて犬の立場になって考えてみることが大事なんですね。もちろん、人間が好きで初めから人懐こい犬もいますが、そうではない犬もいるのです。それを知らずに、吠えたり噛んだりする犬を一方的に悪者扱いすることがないようにしたいですね。
さらに、犬との生活を楽しむために大事なのは、絶対に脱走させないこと。我が家の愛すべきワンコが逃げてしまうなんて想像したくもないですが、その可能性は身近なところにあるようです。
「引き取られたばかりだと、恐怖心があるのでそこから逃げたいと思うし、住み慣れてからも、好奇心から外に出たり、花火や雷などの大きな音に驚いて、パニックになって飛び出したりすることもあります。大きな物音に驚くのは、散歩中でもあり得ます。捜索には、保護犬を紹介した保護団体もサポートしてくれると思いますが、見つけるのは簡単なことではありません。人から隠れるのが上手な元野犬などは、特に見つけるのが困難になります。
また、逃げた犬が交通事故に遭うようなこともあります。脱走は犬を命の危険にさらすことになるので、家の玄関などはきちんと閉め、散歩前には首輪やハーネスに緩みがないか確認し、散歩中もリードをしっかり持つようにしましょう」(亀井あやめさん)
犬との関係性は、気持ちの上でもリードや戸締りを通じても、しっかり繋いでおきましょう。
ここまで、保護犬との出会い方から、家に迎え入れた犬との生活のあれこれについて見てきましたが、忘れてはならないのは、これからその犬の一生を共にする、ということ。子犬であれば、十数年を共に過ごす家族です。
「コロナ禍で家にいる時間が増えたので、世界的にも犬を飼う人が増えているようです。でも犬と共にいるのは、今だけではありません。飼い主として、これからどんな風に生きていくか。家族構成の変化や仕事の状況、住環境などが家族となった犬にも関係してくることを考えてほしいと思います」(亀井あやめさん)
また、紹介元となった保護団体とは飼い始めてからも相談したり、犬の様子を伝えたり、連絡を取り合うことが続きます。より良い交流がずっと続けば、保護犬について関心を持ち続け、そこからペットを取り巻く状況などについて視野を広げることもできるでしょう。
最後に、犬が大好きでドッグトレーナーを仕事にした亀井さんに、愛犬がいる生活の良さについても伺いました。
「犬にかかわる仕事をするために、いろいろな勉強をしたり資格を取ったりしましたが、犬が本当に好きだから、全然苦にはなりませんでした。現在の愛犬との生活も10年以上になり、彼女と過ごす時間も楽しく、いろいろなことを学んでいます。私の人生は犬と共にあると思います」(亀井あやめさん)