「ヒュッゲ」について聞く前に、まずはデンマーク人の性格・気質について教えてください。
「穏やかで謙虚、あとは親切な人が多いですね。私はデンマークに旅行する際、よくAirbnb(空き部屋を貸したい人(ホスト)と部屋を借りたい旅行者(ゲスト)とをつなぐオンラインサービス)を使うのですが、これまで出会ったホストは気さくな人ばかり。『今回の旅行では何をしに来ているの?』『お互いや文化の違いを話そう』『これからお茶しようと思っているのだけど一緒にどう?』など、とても気さくに話しかけてきてくれて。一緒に楽しく過ごそうというスタンスで接してくれるので、すぐに友人になりました。
穏やかな性格といっても自己主張はしますし、自分の意見もはっきり言い、相手の意見も聞きます。意見をぶつけ合うといった激しいものではなく、相手の考えを尊重し、自分の考えも伝える。あくまで相手の考えを認識するため、相手の考えや気持ちを理解するためのもので、相手を責めるために聞くのではありません。なので、デンマークの職場では時間をかけて互いが合意できるまで話し合う、ということが普通なのです。
このような性格を形成している要素の一つに、気候が挙げられます。デンマークの冬はとても長いうえに、日照時間が9時前から15時過ぎと極端に短いのが特徴。自然と家にいる時間が長くなるため、だれかと一緒に長い時間、同じ空間で過ごすことになります。そういったところから、人間関係を大切にする気質が生まれたのかもしれません」(祖父江さん)
デンマーク人と日本人の気質に関して、共通しているものはありますか。
「控えめな感じ、そして謙虚な感じは日本人と近いものがあると思います。例えば『自分の意見を先に言うのではなく、まずはまわりの人の意見を聞く』『私はこう思うけど、みんな違うしね』など、自分の意見や考えをむやみに押し付けるようなことはしません。
あとは、人との関係性や繋がりを大切にするところ。デンマーク人は、自分の意見を大切にする個人主義的な側面を持ちながらも、まわりとの調和を大切にする集団主義的な側面も持っています。個人の意見を求められる場面がたくさんあり、みんなで穏やかに話し合って結論を導きだす。そのあたりが『和』を大切にする日本と似ていると思います。
そして、健康への意識。運動を兼ねて自転車通勤をする人が多く、休日にもサイクリングやツーリングを楽しみます。自転車を一人三台所有していることも多いと言われていて、一台は通勤用、もう一台は大きいカゴの付いた買い物用、もう一台はホビー用のサイクリングやマウンテンバイクなど、用途に合わせて使い分けています」(祖父江さん)
デンマークの人たちが思う“幸せ”とはどういったものなのでしょうか。
「答えはとってもシンプル。『日常が充実しているか、日常に満足できているか、健康で良い生活ができているか』です。
日本人の場合、目標があってそれを達成することで満足感や幸福感を得るという、どちらかというと長期的なものを幸せとしています。彼らは逆で、毎日のちいさな幸せを大切にしています。食事がおいしかった、大好きな人に会えた、きれいなお花を見つけた、天気が良かった、など。デンマーク人は自分が感じる毎日のちいさな幸せの積み重ねが、自分が満足する人生につながると考えています。
例えば、日本人はSNSに写真をアップしたら『いいね』の数が多いことを幸せに思ったりします。でも、デンマーク人は何か楽しかったことを投稿すること自体が幸せだったり、SNSで人と意見を交換できることが幸せだと思っています。まわりの反応に依存するのではなく、自分が幸せだということを自分で決めています」(祖父江さん)
そんな考え方がデンマーク人の幸福度の高さにつながっているわけですが、実際に、デンマーク人に世界幸福度ランキングの話をすると「あぁ、あのいつもの冗談ね」という風な話になるのだとか。彼らからしたら、毎日の自分の幸せを大切にすることは、ごくごく普通のことなのでしょう。
「ヒュッゲ」という言葉には、どういった意味があるのでしょうか。
「日本語でぴったり当てはまる言葉がないのですが『人との繋がりから生まれるあたたかい気持ち・幸福感』や『ほっこりとあたたかい気持ちになれる時間・空間』など、時間の過ごし方や暮らし方、心の持ち方を表す言葉として使われています。
気心の知れた人たちと集まって、のんびりとした時間を共有するヒュッゲ。だれかと一緒に過ごすことで、人のぬくもりを感じて、自分自身の心も暖かくなります。ヒュッゲをしやすい人数は三~四人くらいがベストですが、もちろん一人で過ごすヒュッゲもあります」(祖父江さん)
「デンマーク人はワークライフバランスを取ることを非常に大切にしています。仕事は8:00ごろに出社して、16:00ごろに帰るのが一般的。国として労働時間がきっちり決められているので、デンマーク人は仕事に対して『決められた時間で収めなくては』という責任感がとても強いのが特徴です。
仕事を早く終わらせて何をしているのかというと、家族や友人と過ごしたり、趣味に時間を使う人がほとんど。仕事・職場での時間と、趣味や地域での時間という二つ以上の過ごし方を持っていることが大切と考えられています。こうした働き方は、日本でもテレワークなら工夫次第で取り入れられると思います。早起きして早くから仕事を始めて、しっかり時間内に終了しようという気持ちで進めれば、むやみに残業することなく帰宅できますし、その後においしいコーヒーを買いに行くなど、モードを切り替えて、自分の時間を楽しもうとすることは、テレワークで業務をしている人なら、なおさら取り入れやすいと思います」(祖父江さん)
日常生活にヒュッゲを取り入れるにあたり、大切なことは?
「ヒュッゲを取り入れる上で大切なのは、『自分の感覚を知る』こと。まずは『私は、こうしている時が幸せ』というものを理解することから始めてみましょう。洋服でも雑貨でも食べ物でも、SNSや芸能人が良いと言っていたから買うのではなく、自分が良いと思うものを買ってみる。まわりに振り回されそうで不安な人は、思い切って携帯電話の電源を切ってみるのも良いかもしれません。週一回でもいい。自分の内側の感覚を大切に過ごす時間を作ってみてください。それがヒュッゲへの第一歩です」(祖父江さん)
「次に大切なのは、『いかに家での時間を充実させるか』。デンマーク人はとにかくインテリアが大好きです。『自分たちが快適に過ごせる空間とは?』を常に考え、長い時間をかけてプランニングします。ただ高ければ良いというものではありません。ここでもやはり大切なのは、自分が好きかどうかです。とはいえインテリアを変更するとなると、それなりにお金もかかりますからね。まずはできることから取り組みましょう。
お気に入りのカップ&ソーサーを見つけて、おいしいお茶を楽しむのも良いし、キャンドルを使ってみるのも良い、季節に合わせてお花や雑貨を部屋に飾ってみるのも良いと思います。お金を使わなくてもヒュッゲの空間は作れます。公園でもみじを拾って家に飾るのも良いのです。
私も以前、クリスマスイベント用に松ぼっくりを拾ったことがあります。大人になると松ぼっくりを拾うことってないですよね。それがすごく新鮮で、楽しくって。それ以来、公園に行く楽しみが増えました。そうやって、心地良い空間をつくるためのプロセスも、ヒュッゲだと思って楽しめるようになると良いですね」(祖父江さん)
<一人ヒュッゲのコツ>
マイルールとして「ゆっくりする時間を過ごすスイッチ」を作ること。「ソファに座ったらゆっくりする」「お茶を入れて本を手に取ったらゆっくりする」「この場所に座ったらゆっくりする」など、自分のなかで、リラックスするスイッチを決めておくとONとOFFの切り替えもしやすくなります。一番のポイントは、頑張らないこと。自宅にいる時間が長い今だからこそ、良い意味で力を抜いた生き方をしてみませんか。