「『繊細さん』とは一般的な感受性を持った人と比べて『察する』、『気付く』といった能力が高く、生まれながらに感度の高いアンテナを持つ人のこと。人が感じ取らないようなことをいち早く、強く感じてしまうため、ストレスを感じやすく、疲れやすいという特性を持っています。人間関係ではこだわりが強い、臆病、気が弱い、神経質といった傾向に。その心の持ち方から悩みを増幅させてしまうのが『繊細さん』です」
そう語るのは、自身も「繊細さん」であり、現在は専門カウンセラーとして多くの相談を受けている時田ひさ子さん。 高校生の頃に、自分は他人の影響を受けやすく、素直な反面、頑固な性格だと気付き、生きづらさを感じていた時田さん。生きづらさの原因を少しでも解明したいと、大学で心理学を専攻します。しかし明確な結果は得られないまま卒業し、結婚、出産と人生は進んでいきました。そして2010年、当時中学2年生だった長男との関わり方に悩んだことで、改めて自分は普通と違う感覚を持っていると思い始めます。これをきっかけに、認知行動療法やフォーカシングなど、心理学を多角的に学び直し、それまでの知識と経験を元に専門のカウンセリング組織を立ち上げました。
最近は親しみを込めて「繊細さん」と言い換えられることが多いですが、その実態はHSP(Highly Sensitive Person)と呼ばれるもの。直訳すると「非常に感受性が強く、敏感な気質を持った人」を意味する心理学の用語です。
「HSPはアメリカの心理学博士エレイン・N・アーロン氏が広めた概念で、日本ではわかりやすく『繊細さん』という名で呼ばれています。つまり『繊細さん』=HSPということ。HSPの中には、繊細でありながら社交的かつ好奇心旺盛で新しい刺激を求めるHSS型HSP(※)も存在しています。アーロン博士の研究によると、HSPは人口の約20%を占めていて、そのうちの30%、つまり全人口の6%はHSS型HSP。細かな特性の違いはありますが、HSS型HSPを含めてHSPの人たちは非常に繊細で感受性が高く、共感性が強く、外部からの情報を自然に察知するという気質を生まれながらに持つ人たち、ということです」(時田ひさ子さん)
※「繊細で傷つきやすい」というHSPの気質に加えて、それとは真逆の「刺激を求める」 (HSS:High Sensation Seeking)という気質も持ち合わせているタイプ。「人とすぐに仲良くなれるが、少し付き合うと距離ができる」、「好奇心が強いのに警戒心も非常に強い」など、アクセルとブレーキのような対照的な特性を抱えているため、常に生きづらさを感じている。
感受性が高いことで、日常生活にはどのような支障があるのでしょうか。
「普通の人が何とも思わない小さな刺激でもショックを受けやすい、傷つきやすい、という傾向が顕著に出ます。例えば、普通の人は何とも思わないようなひと言が、HSPの人にとっては『ダメ出しされた』『攻撃された』と感じてしまうのです。このような感じ方の違いは人に話しても理解してもらえず、感情を抑え込んでしまうため、そのことを何度も思い出しては『場にそぐわない行動をとったのではないか』などと、一人で脳内会議を開いてしまいます」(時田ひさ子さん)
「独自の感受性でいろいろと考えてしまい、『私がああしてしまったからあの人に恥をかかせてしまった』『もっとこうするべきだった』と脳が自動制御できなくなってしまうのです。さらに、感じやすいことが身体症状や心身症として表れやすい、という特性もあります」(時田ひさ子さん)
カウンセリングでも、感情のアップダウンが激しく、下がった気持ちを上げることができずに苦労する、という方が多いそうです。身体的な症状としては、緊張からくる目、肩、首のコリのほか、帯状疱疹やじんましんなどの皮膚症状が出る方もいます。しかし、自分をうまく取り扱えるようになると、感情のアップダウンを抑えることができるようになるそうです。
「何となく生きづらく感じる」「小さなことも気にしてしまう」といった人は、もしかしたら「繊細さん」かもしれません。時田さんたちが独自に開発したセルフチェックテストで確認してみませんか? その前に、このテストではどのようなことを調べるのか時田さんに聞いてみましょう。
「自身が『繊細さん』かどうかを客観的に見ることができているかを通して、HSPの可能度合いを導き出しているテストです。前にも述べたように『繊細さん』には神経質、気が弱い、怖がりといった弱いイメージがあるので、『自分は繊細さんじゃない』と思いたくなる人が多いんです。ですから、まずは弱点を含めて自分を理解できているか確認をします。セルフチェックは自己理解度を知るためのツールということですね」(時田ひさ子さん)
自分を理解することで、自分をうまく取り扱えるようになり、生きやすくするための対策を立てることができる、と時田さんは話します。
「自分が強い人間だと思っていると『逃げるなんて卑怯なことはできない』と思ってしまい、辛い状況を辛いと言えず、踏ん張ってしまうことで心身の状態を悪くしてしまいます。でも『自分は圧が強い人が苦手』といった風に理解できていれば、策を立てられるわけです。例えば圧が強い人が上司になってしまったら、『自分はその人が苦手』ということがわかるので、『間に人を立てる』『その人となるべく接しないように操作する』など、策を講じることができます。自分を誤解したままでは我慢することしかできないため、結果、自分を痛めつけることになってしまうのです」(時田ひさ子さん)
迫る大きな波に抵抗せず、うまく波乗りをしながら生きていくためにもセルフチェックにより「自分の正しい姿」を理解することが大切、と時田さん。まずは自分の心に素直に向き合い、HSPの構成があるかどうかを知るために、セルフチェックをしてみましょう。以下10個の質問に「あてはまる」「どちらともいえない」「あてはまらない」の3つの選択肢から選んで合計点を出すだけなので、とても簡単です。
※セルフチェックでは次の通りに点数をつけ、合計点を出してください。
(A)あてはまる=5点
(B)どちらともいえない=3点
(C)あてはまらない=0点
答えの合計点が……
30点以上=HSPの可能性はとても高いです
20~29点=HSPかもしれません
19点以下=HSPではない、とは言い切れませんが可能性は低いです
皆さんは、どのような結果が出ましたか?
もし、合計20点以上でHSPの可能性があると判断された方は、次の章で「繊細さん」でもラクに生きるための方法を教えてもらいましょう。
セルフチェックで20点以上になり、「HSPの可能性がある」という結果が出た場合、すぐに取り組める対策はあるのでしょうか。
「総括的には『刺激を減らすこと』を心がけるのが一番です。そのためには、自分にとって何が刺激になっているのかを知る必要があります。まずは体や心が発する『あ~、よかった』という声に、耳を傾けてみてください。どんなことをした時に『あ~、よかった』と感じるのか。例えば、『何かをやめたらホッとした』、『時間の余裕を作ったら心が軽くなった』など、意識すればいろいろと出てくるはず。その声を頼りに、自分にとって刺激になっていることを減らしていくといいと思います」(時田ひさ子さん)
「繊細さん」には、まわりからの雑音を減らすノイズキャンセリングや、目からの刺激を軽減させるサングラスの着用など、物理的な刺激を減らすのも効果的だと言われています。それと同時に、人から受ける刺激、スケジュール的な刺激など、全体的に刺激減らすことが「生きやすさ」に繋がるそうです。さらに自己理解を深める「書き出す」という作業も、生きやすくするポイントだと時田さんは語ります。
「HSPの人、つまり『繊細さん』は思考回路がすごく複雑で、常に何かを考えています。しかしその多くは彼らが得意とする『理由づけ』で、最初に感じたことの説明や理由ばかり考えてしまい堂々巡りになるわけです。一番に着目すべきは、最初の感情です。その出来事を見た時、聞いた時の根本の感情に着目して自分の思いを書き出せば、『気付き』の効果が一気に上がります。ただ漠然と日記を書くだけでは気付くことができず自己理解に繋がりませんから、書き出す際には、しっかり感情と向き合って、自分の考え方のクセを見つけることが大切です」(時田ひさ子さん)
頭の中でグルグル考えてしまう「繊細さん」にとっては、感情を表に出すことが重要なのだそう。だから、「ただつぶやくだけでもいい」と時田さんは話します。
「その時の感情をすぐに口にするだけでもいいと思います。私もHSPですが、書くのは面倒なので、道端で『今、私はあのおじさんのあの行動に腹が立ったんだな』とつぶやいたりしています(笑)。つぶやく、という意味ではSNSを始めてみるのもいいかもしれません。自分が本当に思っていることを発信してみた結果、意外と賛同を得られて癒された、という相談者の声もわりと多いんですよ」(時田ひさ子さん)
「繊細さん」は感受性が高いため、外から見られている自分のキャラクターを大事にしてしまい、本当の自分を出せない人がけっこう多いそうです。SNSでの発信は「今まで抑圧されてきたことがわかった」「本来の自分を見つけることができた」という気付きがある一方で、大きなマイナスの刺激にもなり得ます。
「もしSNSからの刺激が強過ぎて心が疲れてしまう場合は、やめることをおすすめします。デジタルデトックスも自己防衛策のひとつですから。刺激が強過ぎるからやめるのか、抑圧されている自分を解放できるから続けるのか、SNSはその時の自分に合わせてうまく使っていけばいいと思います。毎日やらなければいけないものではありませんし、放っておいてもいいわけですから。そういった自由にできるメリットを生かして、自分の味方になる使い方をしてもらえればと思います」(時田ひさ子さん)
最後に、心理学のように「心」について学ぶことも、「繊細さん」にとってはメリットがあるのでしょうか。
「絶対にあると思います。学ぶことによって気付きが得られますし、気付くことで学びがより深まりますからね。実際、『繊細さん』は学ぶことが好きだと思うんですよ。知識を得ることで自分を解明でき、自己理解が深まるので、心の勉強はかなりおすすめです。私も心理学を勉強することからスタートしましたし、そこから勉強以外にアンテナが向くこともありますから。何も知らなかったらオロオロするしかないので、知識は何にも勝る武器だと思います」(時田ひさ子さん)
貪欲に学び、自己理解を深めることは、必ず「生きづらさ」の克服に繋がると時田さんは続けます。
「生きづらさは、今や克服できることが前提になっています。それには自己理解が大きなカギです。心理学の知識があれば今までわからなかった心のことがわかるようになりますので、自分と照らし合わせて比較し、『自分はここが普通と違うんだな』と自分の特性への理解を深めてほしいと思います」(時田ひさ子さん)