地球環境や自然保護などの話題で登場することも多い「サステナブル」。これには「持続可能」という意味があります。最近よく聞く「SDGs」も、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略語で、国連が定めた17の国際的な目標のことです。では「持続可能」とは、どういうことなのでしょうか?
「毎日の暮らしを『このままでいいのかな』と、見直してみることだと思います。中には『安いものを買って、いらなくなれば捨てればいい』という感覚の方もいるかもしれません。でも、そのごみは、燃やせばCO2が発生し、自然環境に負荷を与えます。
カラフルでかわいいプラスチック製品はたくさんありますが、プラスチックは土に還るまでかなりの時間を要します。その時間は、長いもので450年というデータも。そして、細かく劣化したマイクロプラスチックは、多くの野生動物の健康を脅かしています。私たち人間の選択が自然環境に負荷を与えていて、それは巡りめぐって、私たちの生活にも還ってきているものなんです」(アームシャー理恵さん)
便利な生活をしていることで、それがマイナスの方向に動くのは残念ですね。でも、急に新しい生活に切り替えられるのでしょうか?
「サステナブルという言葉が新しいから、これまでとは違うことをするように思われがちですが、そんなことはありません。『気に入ったものを大切にする、長持ちさせることを考える』そういう気持ちのあり方がサステナブルです。ポイッと捨てる前にちょっと考えてみるとか、今日から始められることなんですよ」(アームシャー理恵さん)
では、家庭菜園を通してサステナブルを生活に採り入れるにはどうすればよいのでしょうか。植物を育てることは水や光との関係が深く、自然環境に確かに直結しています。
「例えば、毎日出る生ごみは捨ててしまうのではなく、堆肥として使えば土を元気にできます。その土を使い、野菜を育てれば、料理に使えます。そこで出た生ごみは、また堆肥になり……。このように循環していくことがサステナブルです。野菜を育ててみると、いろんなことが分かると思いますよ」(アームシャー理恵さん)
サステナブルな家庭菜園に興味がわいてきましたが、まず何から準備すればいいのでしょうか。庭やベランダがなくても始められますか?
「はい、簡単な水耕栽培であれば、すぐに始められます。空き瓶に水を入れて、ネギの根元の部分を挿しておくと、そこから根が生え、葉の部分も伸びてきます。バジルなどのハーブ類も、葉を使った後の茎を同じように挿しておくと、また葉が出てきます。瓶の代わりに、使わなくなったマグカップや空き缶も使えますね」(アームシャー理恵さん)
緑の葉がキッチンやお部屋に並ぶとキレイで、徐々に伸びていく様子も面白そうです。観葉植物感覚で始められますね。
「この水耕栽培で気をつけたいのが、2日に1回ほど水を替えること。入れっぱなしにしておくと、根が腐ってしまうことがあります。また、ある程度は水耕栽培で育つんですが、『もっと元気よく育てよう、おいしくしよう』と思ったら、土に植え替えたほうがいいです。そのためにはプランターが必要ですが、これは牛乳パックや空き缶が使えます。牛乳パックは、横に倒した形で上になる面を切り取ると、横型の箱として使えます。空き缶も牛乳パックも、底に水はけ用の穴を開けて使います」(アームシャー理恵さん)
もしかして、ペットボトルも再利用できますか?
「ペットボトルはいろいろな使い方ができると思いますが、土を入れて長らく使うと劣化が激しく、ペットボトルのリサイクル回収に出せなくなることがあります。そうすると結局、焼却処分ということになるので、それなら最初からリサイクルに出したほうが循環率がいいのではないかと私は思います」(アームシャー理恵さん)
今度はおいしい野菜作りを目指して、土を使った栽培方法を楽しんでみましょう。庭があればその土が使えますが、庭がない場合にはどうすればいいですか?
「100円ショップやホームセンターなどで園芸用の土が売られています。『野菜用』『草花用』などの種類に分かれ、それぞれに合った肥料があらかじめ配合されているので、初心者でも簡単に使えます。プランターに入れて、水耕栽培で根が出てきたものを植え替えたり、買ってきた種や苗を植えれば、そこが小さな家庭菜園になりますよ」(アームシャー理恵さん)
スノコやブロックの上にプランターを置いて、高さを付けて、日当たりのいい場所に置くと水はけがよくなるそうです。土が乾燥しすぎない程度に水やりをすると、苗や葉が伸びてきたり、芽が出てきたりして、変化が楽しめるんだそう。「わーい!これで楽勝!」と思いがちですが……。
「例えば、ラディッシュ(二十日大根)を園芸用の土で育てたとして、2回くらいは収穫できると思います。でも徐々に土壌の成分が変わり、葉に勢いがなくなったり、小粒のラディッシュしかできなくなったりします。庭の土もそのままではうまく育たないかもしれません。そんな時に有効なのが、生ごみから堆肥を作るコンポストです」(アームシャー理恵さん)
コンポストとは、生ごみや落ち葉を土と混ぜ、菌や微生物の力を利用し、分解・発酵してできる肥料のこと。生ごみを肥料として再利用できるため、ごみの量を減らせます。さらに野菜が育てられるので、一石二鳥なんだそうです。
「コンポストを作るための生ごみで使いやすいのは、野菜や果物の皮や切れ端、くず野菜、細かく潰したゆで卵の殻、お茶がらやコーヒーのかすなどです。それらを土に入れて軽く混ぜ、虫が入らないように布カバーを容器の下までしっかりとかぶせます。布カバーは着古したTシャツなど、なんでも構いません。使用する箱は、段ボールや牛乳パックなど、こちらも家にあるもので構いませんが、床などに直接置くと、床が水分でダメージを受けてしまうこともあるので、段ボールを二重にして耐久性を強めたり、床と段ボールの間に高さを出して蒸れないようにすると、より良いです。生ごみの量は箱の大きさと土の量に合わせて、多くなりすぎないようにしましょう」(アームシャー理恵さん)
「注意すべき点は、①生ごみの水分が多いと腐りやすくなるので、水気を適度に切ることと、②生ごみが空気に触れないようにしっかり土をかぶせること。野菜の皮や切れ端は、乾いた状態のうちに取り分けたり、お茶がらやコーヒーかすは軽く絞ってから使います。これらに気を付ければ、臭いや虫が気になることはほぼありません。ただ、水分が全くないと生ごみが分解しないので、水気を切ることにあまり神経質にならなくて大丈夫です。
また、キャベツの葉やスイカの皮などは、大きいままでは分解しにくいので、細かく切ってから使いましょう。コンポストの置き場所は、ベランダや庭先の雨に当たらないところがベストです。キッチンの近くで換気のいい場所があれば、目が届きやすく、生ごみを投入する際にもラクですね。
分解には夏なら3週間程度、冬はさらに時間がかかります。生ごみを入れすぎると分解せずに腐らせてしまう原因になるので、毎日大量の生ごみを投入するのではなく、少しずつ入れて変化を見ましょう。野菜の皮や葉の色や形が変わっていく様子が分かると思います。
例えば紅茶のティーバッグは、紙製のものとナイロン製のものがあります。紙製なら分解されて土に還るのですが、ナイロン製はそのまま残ります。実験的に観察してみると、物によって分解スピードが違うことも分かって面白いですよ」(アームシャー理恵さん)
これまでのお話には、ネギの根元、ハーブ類の茎、ラディッシュなど、初心者でも作りやすい野菜が出てきました。
「ラディッシュは種から育てるのですが、和名の二十日大根の名前の通り、春や秋であれば1ヵ月くらいで育つので、すぐに楽しめます。サラダや漬物など、いろいろと使えますよね。
ハーブ類は茎から育てられますが、自分が普段の料理でよく使うハーブを選んだほうがいいと思います。例えば、お茶が好きな人なら、ミントでミントティーが楽しめます。バジルもいろいろな料理に使えます。ただ、あまり自分と馴染みがないハーブだと、たくさん収穫できても結局あまり使わないのでもったいないですね」(アームシャー理恵さん)
アームシャーさんの実践では、レタスやセロリは切れ端を水耕栽培すると根が生え、葉も出てくるものの、その後、土に移し替えても食用になるほど大きく育つことはないんだとか。野菜によって向き不向きがあるようです。
「種や苗はホームセンターなどで買うこともできますが、例えばトマトやピーマン、キュウリ、カボチャなどは、実の中身の種の部分を土に植えると芽が出てきます。カボチャはつるを張って、ぐいぐい伸びるので、ベランダではスペースが足りなくなるかもしれません。トマトは実そのものを土に植えても、芽が出ます。これらの野菜は、コンポストに入れた生ごみの中の種から芽が出てくることもあります」(アームシャー理恵さん)
なるほど、植物の生命力を感じますね。でも、よりよく育てるには、栽培に適した季節があるようです。
「カボチャやトマト、ピーマン、ニガウリ、キュウリなどは夏が旬の野菜。5~6月に種を植えて、7~8月に収穫するのが、一番育てやすい季節です」(アームシャー理恵さん)
栽培の時期も考えて、生ごみコンポストも活用して、サステナブルな家庭菜園を楽しみたいですね。
「そうなんです。サステナブルって作って終わり、食べて終わりじゃなくて、続けていくことが大切です。『あ、捨てないでおこう』『これは他に使い道があるかな』とか『大切に育てよう』のように、普段からちょっと気にかけて行動することが、その一歩なんです。そうすると、自分の気持ちも豊かになるし、環境や自然にも優しく暮らせます。でも、そんなに気負わなくていいんです。ネギの切れ端など、『どうせ捨ててしまうものなら、ちょっと使ってみよう』そんな気持ちで始めて、楽しみながらサステナブルな生活を続けてほしいと思います」(アームシャー理恵さん)