「マクラメ」は、数本の細紐や糸などを手で結び、幾何学的な模様を作る手芸の1つです。その歴史は古く、中世に繁栄していたイスラム文化圏で、7~8世紀頃にラクダの鞍や袋に付けられていた「飾り房」がルーツだと言われています。「マクラメ」という言葉は、アラビア語で「格子編み」を意味する「ムクラム」が語源と言われていて、アラビア人によりイタリアやスペインを中心にマクラメ編みを施した装飾品が伝えられたそうです。日本にも、マクラメ編みの影響を感じられるものが多くあり、鎧や馬の鞍、茶道具や神輿などに編みの技術が見られます。
そのデザイン性の高さから、現在はインテリア雑貨やアクセサリー、ファッション小物などに使われているマクラメ。今回はバッグをメインに様々なアイテムをマクラメ編みで作り、作品の販売も行っている作家のRiRiさんに、マクラメの魅力や楽しさをお聞きしました。
「マクラメは結び方の組み合わせによって様々な模様を作れるところや、編み進めると柄が浮き出てくるところがおもしろいんですよね。タペストリーなどの大きいものは多彩な編み方を組み合わせることができるので、『世界に1つだけのもの』が作れるのも楽しいところ。光が射すと、編み目を通したシルエットがきれいなんですよ。また、基本の編み方さえ覚えてしまえば誰でも簡単に作れるのも魅力です。同じ編み方を繰り返して柄を作っていくので、やればやるほど精度が上がり、きれいな柄を作れるようになります。手仕事が好きな人は初めてでも挑戦しやすいと思いますよ」(RiRiさん)
編み物は編み棒やかぎ針などの道具が必要ですが、マクラメを始めるためにも、そういった道具を揃える必要があるのでしょうか。
「マクラメは基本的に手で編むので、特別な道具は必要ありません。マクラメ編みができそうな紐や糸、ハサミ、固定するためのテープ、キーチェーンやピアスのフープなどマクラメ編みをくくりつけたいアイテムさえあれば、すぐに始めることができます。素材にこだわらなければ100円ショップですべて揃えることもできますよ」(RiRiさん)
RiRiさんが作るマクラメバッグは個性的で美しい編み目が印象的ですが、どのようなアイテムから作り始めたのでしょうか?
「最初に作ったのは小さいキーホルダーです。まずは基礎をしっかり学ばなければ、と思って……。私は主に動画サイトで編み方の勉強をしましたが、最初は何度見てもわからなくて苦労しました。でも、やり続ければ慣れてくるし、どうすれば編み目がきれいに揃うのかもわかってきます。みなさんも最初はピアスなどのアクセサリーやキーホルダーなど、小さいものから作り始めるといいと思いますよ」(RiRiさん)
マクラメは編み方が多彩で覚えるのが大変そうですが、RiRiさんが作るアイテムはどのような編み方を組み合わせているのでしょうか。
「バッグを作る時の編み方はだいたい4種類くらいで、中には『平結び』と『巻き結び』、2種類の編み方だけで作れるものもあります。下で手順を説明している『平結び』は様々なアイテムに応用できる、マクラメ編みの基本の編み方の1つです。4本の糸を使って結んでいきますが、難しいのは結ぶ時の力加減です。きつすぎたり緩すぎたりすると結び目がきれいに揃わずに形が歪んでしまうので、そこは気を遣うところです」(RiRiさん)
平結びの編み方
大きくなればなるほど編み目をきれいに揃える技術が必要になり、それだけ難易度も高くなるようです。大きいものは事前にイメージ画を描いたり、設計図のようなものを作ったりするのでしょうか?
「私の場合はイメージ画も設計図も用意せず、頭の中でイメージしながら『次はどうしようかな』と考えながら編み進めていきます。『ここをこの長さで編むためには、このくらいの紐の長さが必要』と計算しながら進める必要がありますが、慣れてきて中・上級者になるとバッグやタペストリーも作れるようになります。大きいものに慣れていないうちは動画配信サイトを参考にするのがおすすめです。私もマクラメ編みの基本動作をゆっくり解説する動画を見て大きいものも作れるようになりました。海外でもマクラメの動画を配信している人が多いので『macrame』で検索して、ぜひ見てみてください。言葉がわからなくても動作を見るだけで上手に編むコツが掴めますよ」(RiRiさん)
いい作品を作るために、RiRiさんはいろいろな意味で「バランス」を意識しているそう。小さい頃から習っている「華道」で身につけたバランス感覚が、マクラメにも生かされていると言います。
「マクラメは模様の入れ方や、長さ、幅など、バランスによって雰囲気も作風もがらりと変わります。ですから全体のバランスがとても大切です。私は小学生の頃から親のすすめで『華道』を習っていたので、高さ、長さ、幅などのバランス感覚は『華道』がベースになっているんだと思います。模様をバランスよく組み合わせることで表現が広がり、それがオリジナリティにもなりますからね。数をこなすことも大事ですが、同じ感覚でやっていると同じものしかできないんです。だから常にアンテナを立てていろいろな知識や情報を吸収し、それをマクラメにうまく応用することを心掛けています。私の場合は大好きなシェル(貝殻)をマクラメに組み合わせていますが、それも1つの個性かもしれませんね」(RiRiさん)
マクラメでは、紐や糸などの素材選びも大切。RiRiさんが選ぶ素材には、子育て中のママらしい優しさが感じられます。
「大切にしているのは肌触りです。小さいお子さんが触ったり、口に入れたりしても大丈夫なオーガニックコットンを使っています。正直、少し高価ですが、いいものを使ってママにも安心して使えるものを提供したいという思いがあるので。あと、私の作品はフリンジを付けることも多いので、割いた時にひねりが戻らず、ふわふわと束になる素材を選んでいます。色は、グレージュなどのスモーキーなものが多いですね。マクラメはきれいでかっこよく、繊細で高貴なイメージがあるので、おしとやかな色を選んでいます。バッグの場合はどんな洋服にも合うような色を使い、ピアスは季節感を意識した色選びに。夏は明るめブルー、秋冬はカーキなどのシックな色で、その時期のファッションに合うようにしています」(RiRiさん)
現在、手がかかる2歳と3歳の子どもに加え、中学2年、高校1年、そして19歳と5人の子どもたちを相手に奮闘中のRiRiさん。育児休暇を機に、副業としてマクラメアイテムの制作を始めたそうです。そこで、マクラメ編みが副業に向いている理由についても伺ってみました。
「マクラメのようなハンドメイドの作品は、自分の時間さえ作ることができれば制作を進めることができるので、副業には最適だと思います。ただ、働きながら、子育てしながら、となると『自分の時間を作ること』がけっこう大変。そこは頑張り次第ですが、自分さえ頑張れば時間は作れるものです。作品作りが楽しくなれば、そのために頑張ろう、と思いますしね。私は移動中の車の中で作業を進めることもあります。大きいものは無理ですが小さいものは狭い場所でも作れるので。小さいものなら作る場所を選ばないのも利点ですね」(RiRiさん)
様々なマクラメアイテムを制作していますが、中でも人気のあるアイテムはあるのでしょうか。
「やはりバッグが人気です。ベースから編み、さらにマクラメを編み込んでいくため、当然制作時間はかかります。でも、手間がかかっているところに魅力を感じてもらえているようで、私の作品の中では人気ナンバーワンのアイテムです。その中でも、財布、携帯、ポーチ、ペットボトルが入るチョイ持ちタイプの使いやすいサイズは、待っているお客様も多いです。だからたくさん作れるように『手が千本あるといいな』と思っちゃいますね(笑)」(RiRiさん)
現在はSNSでのみマクラメ作品の販売を行っているRiRiさんですが、作品が出来上がるのを待っている常連客が多いのは、作品作りへの、そしてお客様への真摯な思いがあるからこそ。
「マクラメは編み目が命ですから、ひと目ひと目しっかりと、心を込めて編むようにしています。そのおかげか『モノがしっかりしている』『編み目がきれい』という言葉をいただくこともあり、とってもうれしいです。また、お客様には、丁寧な対応を心掛けています。作品をお送りする際は直筆の手紙を添えるなど、手間を惜しまないことも大切。届いた時に『かわいい』があふれる梱包にするために、封筒のテープにはマスキングテープを使い、梱包材にはハート型のピンクのプチプチを使ったりしています」(RiRiさん)
今も自分にしか作ることのできない作品を意識しながらマクラメ編みに取り組んでいるRiRiさんに、楽しく、長く続けるための秘訣をお聞きしました。
「1つのアイテムにこだわらず、いろんなものにチャレンジすることが大切です。キーホルダーから始めたら、次はピアスや腕時計のバンド、その次はトイレットペーパーホルダーやポーチと、だんだんと大きいものに挑戦していくのもいいですし、独自のアイデアで新たなアイテムに挑戦するのもいいと思います。赤ちゃんのおしゃぶり紐や女の子の髪ゴム、カーテンのタッセルなど、マクラメは応用が利きますからね。最近は、私のサイトを見て『マクラメを始めた』という人も増えています。みんな次々といろいろなものを作って楽しんでいる様子が伝わってきてうれしいです。アイデアを膨らませていろいろなアイテムを作ることで、長く、楽しく続けられると思います」(RiRiさん)
RiRiさんも、「どうしたら、編みバッグにマクラメをうまく編み込めるだろうか」と考え続け、数ヵ月かけて今の形を作ったそうです。いろいろなアイテムに挑戦しながら、多くの人が『欲しい』と思うものを考える。それがオリジナリティを生み出すヒントになるのかもしれませんね。
マクラメは、例え趣味で始めたとしても、隙間の時間を上手に作ることができれば副業にも成り得るクラフトです。バランス感覚やセンスを磨く努力を重ねれば、RiRiさんのような作家も目指せるかもしれません。自分が作ったものが売れて、人に喜んでもらえるのはこの上なくうれしいことです。ぜひマクラメ編みを追求して、夢の作家デビューを目指しませんか。