これまでマラソン、ラグビー、サッカーなどのトップアスリートをはじめ、学生やキッズアスリートまで、食事面からその体作りやパフォーマンスの向上などをサポートしてきた栄養士の新生暁子さん。
「どんな人でも必要のない栄養素というものはありません。その上で、成長期の子どもや妊婦さん、高齢者の方など、年齢やライフステージによって不足しがちな栄養素や、積極的に摂りたい栄養素は異なります。同様に、運動量が多いアスリートはエネルギーの消費が激しく、また必要としている栄養素も普通の人とは少し違っています。専門的な視点から栄養状況を分析し、アドバイスしていくのがスポーツ栄養士の役割です」(新生暁子さん)
チームサポートの現場では、監督やコーチ、トレーナーとの連携が不可欠。新生さんは、チームの目標にあわせて栄養補給方法を共有し、個人の強化ポイントをアドバイスされています。
「例えばチームで筋力強化をするという方針が決まったら、トレーニングチームが練習メニューを考えますよね。それにあわせて『栄養面ではこんな風にアプローチをしていきます』という方針を決めて、チーム内で共有します。これに加えて、選手ごとに持久力がない、貧血気味といった個別の課題や悩みがありますので、それについても食事面からサポートしていきます。もちろん食事をちゃんとしたからといって、記録が伸びる、試合に勝てるという単純なものではありません。でも日々の積み重ねが本当に大切なんです。毎日、トレーニングや練習はもちろん、食事を含めたケアをしっかりしているから『私は大丈夫!』と思えるお守り的なものだと思います」(新生暁子さん)
「同様にキッズアスリートにとっても食事はとっても重要なものです」と新生さん。
「運動する・しないに関わらず、成長途中の子どもたちにとって食事はとても重要なものです。スポーツをしていて、将来、野球選手やJリーガーなどプロスポーツ選手を目指すのならなおさら。子ども時代の食事内容は少なからずその後の活動にも影響してきます。できれば自分で自覚して、好き嫌いをなくしたり、少食でも少しずつ食べられるように努力するのが一番。しかし、本人の自覚だけでは難しいので、お父さん、お母さんのサポートが重要になってきます。嫌いなものでも一度はトライしてみなさいと言ってあげるようにしてほしいですね。それから、嫌いな食材でも調理法を変えると食べられる場合があるので、少し工夫してみるといいと思います」(新生暁子さん)
好き嫌いなく何でも食べることが、強い体を作る基本ですが、「無理したことで、食べること自体が嫌いになるくらいなら、多少食べられないものがあってもいい」と新生さん。食事は、まず楽しく前向きに。そこから少しずつ意識して改善していくことが、トップアスリートを目指すために必要なことなのです。
丈夫で強い体を作るためにも、スポーツでより良いパフォーマンスを上げるためにも、食事は重要とのことですが、具体的にはどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
「まずは、できるだけバランスよく、いろいろなものを食べるようにしてください。3食の食事は毎回、主食、主菜、副菜、汁物、乳製品、フルーツが全て揃っているのが理想です。でも実際、毎食は難しいですよね。そんな時は、1食ごとではなく1日でバランスが取れるように。1日で難しければ1週間でも大丈夫です。続けられなければ意味がないので、自分たちの生活スタイルにあわせてメリハリをつけてやっていきましょう。また、自分できちんと必要なエネルギーや栄養素が摂れているのかを判断するのは難しいと思うので、そんな時は学校や地域の栄養士さんに相談してみるのがおすすめです。すぐに実践できるチェック方法としては、パッとみて5色くらいの色が入っているかどうか。彩りは食材のバランスのバロメーターになりますので、ぜひ少し意識してみてください」(新生暁子さん)
食事全体で気を付けたいポイントに加えて、キッズアスリートが特に積極的に摂るべき栄養素についても教えていただきました。
たんぱく質
体を作るのに欠かせない栄養素。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などに多く含まれているため、1食に1種類、できれば違う食材で2種類入れるのが理想。動物性のたんぱく質と植物性のたんぱく質をミックスしながら摂るのがおすすめ。
炭水化物
炭水化物は糖質プラス食物繊維。糖質は運動する際に必須の栄養素で、脳を活性化するエネルギーにもなるので毎食必ず摂ってほしい栄養素。米、小麦類、果物、いも類などに多く含まれている。
カルシウム
丈夫な骨を作るのに重要な栄養素。子どもは骨が強くなって伸びることで体が大きくなるため、しっかり摂ることが必要。乳製品、大豆製品、海藻、小魚などに多く含まれる。
ビタミンD
カルシウムの吸収を助けてくれるほか、免疫機能を高めてくれる効果もあり、最近注目されている栄養素。魚、きのこ類に多く含まれている。
鉄
血中で酸素を体中に送ってくれる、アスリートにとって重要な栄養素。パフォーマンスに直接影響が出やすいので、トップアスリートも重要視している。豊富に含まれるのはレバー。赤身の肉や魚、ほうれん草、ひじきなどにも含まれる。
また、摂るタイミングにもちょっとしたコツがあるようです。
「毎食、バランスよく摂ってもらうこととあわせて、練習前後に摂るものを少し意識するといいと思います。練習前と練習中の間食は、エネルギーとなる炭水化物(糖質)を。練習後は体の回復を促すため、たんぱく質を積極的に摂るのがおすすめです」(新生暁子さん)
ここまで新生さんに教えていただいたキッズアスリートのための食事のポイントを、今回実践してくれたのがKAHO MAMAさん。アグレッシブインラインスケートの練習に励む娘のKAHOちゃんの練習風景などをインスタで発信しています。
「普段は練習終わりの娘を待たせないように、手の込んだ料理よりも、手早くできるメニューが中心です。作りおきのおかずなども積極的に活用しています。娘は食が細くて、一度にあまりたくさん食べられないのが、今は少し気になる点です」(KAHO MAMAさん)
【KAHO MAMAさんが実践した1日の食事】
■朝食
「朝はあまり食べられないので、ボリュームは控えめに。納豆、半熟卵、乳製品と複数の食材でたんぱく質を摂れるようにしました。練習前なので、ごはんで炭水化物もしっかり」(KAHO MAMAさん)
■昼食
「昼食は練習前や合間になるので、食べやすさ重視でロールパンのサンドイッチに。パンで炭水化物、玉子とハム、チーズでたんぱく質も摂れるように工夫しました」(KAHO MAMAさん)
■練習中の間食
「間食にあまり重いものは食べられないので、炭水化物(糖質)を摂れて食べやすい物、好きな物を選びました。練習で汗もかくので、チョロギで塩分補給も」(KAHO MAMAさん)
■夕食
「練習後なので、サワラの醤油焼き、肉じゃが(豚バラ)、おみそ汁の豆腐にして、魚・肉・豆類と異なる食材からたんぱく質を摂れるメニューに。栄養バランスを意識して副菜も添えました。3食のなかで一番様々な食材を使うようにしました」(KAHO MAMAさん)
新生さんのアドバイスを意識して、毎食のバランスを意識。1食にできるだけたくさんの食材を取り入れるように工夫されています。また、少食なKAHOちゃんのためにサンドイッチなど食べやすいメニューにしたり、間食用に好きなものを数種類用意するなどしていました。
「これまでは忙しくて、多様な食材を使うことがなかなかできていませんでしたが、今回アドバイスを受けて食材を増やす努力をしました。おかずの品数を増やすと食の細い娘は食べきれないので、一つ一つのおかずや汁物の中にできるだけたくさんの食材を入れるようにしてみました。食べきれる量でも、このように意識して作ることでいくつもの食材を入れることができるとわかったのが大きな収穫だったと思います。これからも続けていきたいです」(KAHO MAMAさん)
KAHO MAMAさんが実践してくれたように、自分も子どもも無理をしないことが大事。まずはちょっと意識を変えて、できることから始めてみるのがおすすめです。
「続けられて、ちゃんと子どもが食べてくれるのが一番。一度親子で話し合ってどんなものだったら食べられるのか、どうやったら食べられるのかを確認してみるのもいいと思います。親御さんも忙しい中で準備をするのは大変です。でも、どんなに忙しくても、食欲がなくても、ごはんを抜くのだけは避けてほしいです。少しでもいいから、その時食べられるものをチョイスしてみましょう。そして、いつまでも親御さんが全部用意してあげるんじゃなくて、アスリートにとっての栄養の重要性を食事をしながら伝えていってほしいと思います。そうやって身に付けたものはすごく心に残るし、いつまでも忘れないと思うんですよね」(新生暁子さん)
最後に日々、キッズアスリートのサポートをするお父さん、お母さんへ新生さんからメッセージをいただきました。
「子どもにとっては当たり前のことかもしれないんですが、キッズアスリートを支えるお父さん、お母さんのその愛って本当にすばらしいと思います。もちろんバランスのよい食事作りは重要ですが、今はお惣菜やコンビニの食品もとても優秀。完璧を求めすぎず、そういったものも上手に取り入れながら、ストレスなく取り組んでみてください。アスリートにとって食事は『お守り』みたいなもの。大事な時に『これだけしっかり食べてきたんだから、私はあの人に負けない!』と思わせてくれるものだと思うんです。そんなお守りを持たせてあげるような気持ちで、ごはん作りをしてみてくださいね」(新生暁子さん)
トップアスリートを目指すなら、トレーニングも食事も「日々の積み重ね」あるのみ。ぜひ毎日の食事の見直しから始めてみてください。