新型コロナウイルス感染拡大の影響で、「新しい生活様式」が求められています。密を避けてソーシャルディスタンスを保ったり、リモートワークが推奨されたり、これまでになく人と人との物理的距離が離れています。このような状況で起こるメンタル面の不調について、精神科医のゆうきゆう先生に詳しく伺いました。ゆうき先生はメンタルクリニックを開業し、多くの患者さんを診察しながら、多数の著作でメンタル面の不調や心理学について、わかりやすく解説する活動もされています。
まず、人と人との物理的距離が離れると、メンタル面にはどのような影響があるのでしょうか?
「人間は社会的な動物です。そんな人間にとって、何より恐れるものが『孤独』です。例えば、家に引きこもり、リアルな世界では誰とも会わない人が、ネットで友達を作ろうとしたり、SNSで共有感を抱こうとする。そんなニュースや記事を目にすることがあると思いますが、それは人が『孤独』を恐れているからです。しかし、当然ながら、ネット上の関係はリアルの関係にはかないません。どこかで本質的にネットはネット、と思ってしまい、虚しさを感じてしまうものです。同様に、人とリアルで会わず、リモートワークで仕事をしたり、オンライン飲み会などでコミュニケーションを取ることは可能ですが、その深さはリアルにはかないません。その結果、根本的な『孤独』『さみしさ』を抱くことになり、結果的にストレスはかかりやすくなってきていると考えられます」(ゆうきゆう先生)
人と人とのリアルな接触が減ると、ストレスがかかりやすくなるんですね。実際に、ゆうき先生のクリニックでの患者さんは増えているのでしょうか?
「新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出された直後は患者さんが減りましたが、その後は今まで以上に増えています。特に、新規の患者さんが増えている印象ですね。今までの患者さんも、生活様式の変化によって、さらに抑うつ状態になっている方もいます。
人と接する機会が減ったことでストレスがかかっている方も多いですが、この状況下で仕事が減ったりうまくいかなくなったりして、抑うつ状態になっている方も多いですね」(ゆうきゆう先生)
仕事がうまくいかなくなったとき、人と話したり食事をしたりすれば、発散できることもありますが、新しい生活様式下ではそれも難しくなっています。そのため、より一層ストレスを溜め込んでしまう方が多いようです。
新しい生活様式や今のような経済状況がしばらくの間は続きそうです。このような状況下でストレスが溜まりすぎていないか、セルフチェックできる項目をゆうき先生に教えていただきました。
【質問】あなたはいくつ当てはまりますか?
□ 今まで楽しかったことが、楽しくなくなった。
□ 一日中ゆううつな気持ちになってしまうことが多い。
□ ひどく眠れない、逆に眠りすぎてしまうなど、睡眠の質が今までに比べて低下した。
□ 食欲が減ってきた、逆に過食になってきた。
□ イライラして何も手につかないことがある、または動きが鈍ってしまう。
□ ひどく疲れやすい。
□ 自分はどうしようもない人間だ、などと自分を責めてしまうことがある。
□ 「死にたい」と思ってしまったことがある。
□ 集中力が落ちて、考えが進まない。
□ 仕事や勉強など、今までできていたことができなくなった。
【当てはまる項目の数】
「これらの項目は、うつの診断基準にも近いものになりますが、テレワーク中心で人と接する時間が激減した人が、多くなる傾向があるようです。当てはまる項目が多く要注意な方はもちろん、たとえ少なくても、最後の項目である『仕事や勉強など、今までできていたことができなくなった。』が当てはまり、日常生活に困っているならばメンタルクリニックの受診も検討してみてください」(ゆうきゆう先生)
セルフチェックの結果はいかがでしたか?メンタルクリニックなど、専門家に相談するほどではない結果だったとしても、今後もこの状況がしばらく続くと、抑うつ傾向が強くなるかもしれません。それを防ぐために、新しい生活様式の中でストレスを解消するポイントについて、ゆうき先生に伺いました。
「まずは『とにかく人と話すこと』だと思います。家族でも友だちでも同僚でもかまいません。また、リアルが難しければ、オンラインでも電話でも、話すことを心がけましょう。仕事や授業などで必要なことだけではなく、その前後に雑談の時間を作るなどして、今日あったこと、感じたことを共有できるようにしましょう。人間は、話すことによって気持ちが整理され、ストレスが減ります。もし話せる人がいないようなら、日記を書くなどして今の自分を整理しましょう。この『今の自分が行っていること、感じていること』を言葉にすることは、気持ちが安らぐ心理療法『マインドフルネス』の具体的な手法です。ネガティブな思考になっていても、ハッキリ言葉にして認識することで、その思考は弱まっていくんですよ」(ゆうきゆう先生)
確かに、悩みがあったり、気持ちがモヤモヤしたりしているときに、誰かに話を聞いてもらうだけでスッキリした、という経験は誰にでもありますよね。では、この状況で仕事がうまくいかず、ストレスがかかっている場合は、どうしたらいいのでしょうか?
「仕事がうまくいかなければ、副業など別の収入の手段を探してみてはいかがでしょうか。人間は、ストレスがかかると『挑戦反応』が起こります。ストレスを抱えることで、反動的に挑戦する気持ちが湧き上がることを言います。例えば『収入が5万円減った』としたら、それにより『挑戦反応が生まれている』と考えてみましょう。そのまま放置していても状況は変わらないかもしれませんが、挑戦反応によりエネルギーが出やすくなっていることをプラスに捉え、『悔しいから副業を始めてみよう』などと行動を起こしてみるのです。副業に限らず、この機会に新しいチャレンジをすると、順調でストレスがかかっていないときよりも、何倍ものエネルギーで取り組むことができて、ストレスが飛んでいくかもしれませんよ。このように、ストレス自体は、実は決して悪いものではありません。このストレスでかえってパワーアップして行動できる!というように、前向きに捉えてください!」(ゆうきゆう先生)
これまでとは異なる「新しい生活様式」のなかで、今までになかったストレスがかかり、メンタルが不安定になる人も多いようです。ストレスは、「今の自分」を言葉にして、気持ちを整理することである程度解消することができます。また、仕事や経済的な不安からくるストレスは、新しいチャレンジをすることで軽減できることも。ストレスは悪いもの、避けるものとばかり考えるのではなく、ストレスをキッカケにパワーが生まれると考え、新しいことにチャレンジしてみるのもいいかもしれません。