今回、お金の増やし方を教えていただく篠田尚子さんのお仕事は、ファンドアナリスト。あまり聞きなれない職業ですが、そもそもどんなお仕事なのでしょうか?
「ファンドアナリストは投資信託という金融商品の専門家です。投資信託の商品説明をしながら、資産形成についてアドバイスを行うのが仕事です。ファイナンシャルプランナーとアナリストの間のような仕事と言うと分かりやすいでしょうか。日本ではまだ珍しい職業ですが、若いうちから投資商品を使って資産形成することが根付いているアメリカでは、それをサポートするたくさんの仕事の一つとして割と身近な存在なんですよ」(篠田尚子さん)
元々、金融関係の仕事に全く興味がなかったという篠田さんですが、就職活動の際に「何かを極めたい!」と思い立ち銀行に就職。そこから専門性を高め、今では敏腕ファンドアナリストとして活躍中です。
「銀行で金融の基礎を身に付けて、通信社の金融商品の研究部署に転職しました。そこでは金融機関などプロに向けて情報を発信する仕事をしていたので、今の仕事に繋がる専門性をより磨くことができたと思います。その後、ファンドアナリストの仕事をする上でも重要と考えてファイナンシャルプランナーの資格も取得しました。投資だけでなく様々な視点から資産形成のアドバイスをするためには幅広い知識が必要ですから」(篠田尚子さん)
そんなお金のプロ中のプロである篠田さんのモットーは「貯める・増やすと同じくらい、お金をどう使うかも大事!」というもの。実際、趣味の音楽や野球観戦のための出費は惜しまないとのことで、「浪費型ファンドアナリスト」と称されることも。お金を増やすためには、使うことも大事というのはどういうことなのでしょうか?
「これは銀行時代から周りの先輩たちを見ていて思ったことなんですが、自分のためにも人のためにもしっかりお金を使っている人の方が、金回りがいいというか、その人にお金が吸い寄せられているような気がしていたんです。その場と状況に応じてお金が使える人は、しっかり貯めたり、増やすこともできている。要はメリハリをつけて、上手なお金の使い方をすることが重要なんだということがだんだん分かってきたんです。『使う』と『増やす』は両立できないと思われがちですが、そんなことはありません。上手に使える人こそ、上手に『増やす』ができる人なのです」(篠田尚子さん)
「節約や貯金が苦手、趣味のお金は削れない、そんな人でもちゃんとお金が増やせる!」という言葉は心強いですね。一般的に今後は「貯める」よりも「増やす」ことの重要性がますます高まると言われていますが、その理由についても教えていただきました。
「その理由の一つに、物の値段が少しずつ上がってきているということがあります。いわゆるインフレです。物の値段が上がると、同じものでも前より多くお金を払わないと買えなくなりますよね。それはつまり、お金の価値が下がっているということなんです。それに対応するためには貯めるだけでなく、増やすことが必要なのです。もう一つに、高齢化が進んで老後が長くなるとともに、その老後を豊かに過ごしたいという人が増えているということがあります。それに対して年金制度というのは、時代に合わせて少し金額は増えているんですが、そこまで大きく変わっていません。年金は最低限の生活をするためのものなのです。『旅行に行きたい』『おいしい物が食べたい』『孫に何か買ってあげたい』といった豊かな老後を送るためには、年金に自分でその分を上乗せすることが必要です。その資金を用意するためにも、お金を増やすことの重要性は高まっています」(篠田尚子さん)
物価やライフスタイルの変化は、今後ますます加速することが予測されています。「お金を貯めるだけでは、その変化のスピードについていけなくなってしまう」と篠田さん。その変化に対応していくために、今後はお金を貯めるだけでなく増やすことにも積極的に取り組んで資産形成していくことが必要なのです。
では、実際に資産形成に取り組もうと決意したら、まず何から始めればいいのでしょうか。
「最初にやるべきなのは目標設定です。どんな目的で、どれくらいお金を増やしたいのかを考えます。その考え方の基本となるのが、人生の3大資金と言われる『教育資金』『住宅取得資金』『老後資金』です。教育資金は子どもの教育だけでなく、学び直しや資格取得も含みます。このうち教育資金と住宅取得資金は、子どもの有無や年齢、いつ頃どこにどんな住まいが欲しいかなどを考えることで、ある程度の時期や金額がイメージできます。そういう意味ではそれほど難易度は高くありませんので、この2つから考え始めるといいと思います」(篠田尚子さん)
その一方で考えにくいのが老後資金です。
「確かに、どんな老後を送るかに大きく左右されますし、いくつまで生きられるかも分かりませんから、先の2つに比べると難易度は高いですよね。でもこれに関しては、公的年金がありますから、一から準備する必要はありません。年金プラスαでいくら欲しいのかを考えます。まずチェックするべきなのは「ねんきん定期便」。そこで給付額の目安が確認できますので、月々それに加えていくらくらいあればいいのか、仮に90~95歳くらいまで生きることを想定して計算してみましょう。よく世間で老後資金は3,000万円必要などと言われていますが、あながち間違いではない数字だと思います。もちろん個人差はありますが。3,000万円というと途方もない数字に見えますが、それを今からコツコツ増やしていけばそれほど難しいことではありません。大切なのは、とにかく1日でも早く始めることです」(篠田尚子さん)
その方法として篠田さんがおすすめしているのは、積立投資。特に税制優遇が受けられるiDeCo(個人型確定拠出年金)とつみたてNISAはフル活用するべき、イチオシの制度とのこと。
「どちらも税制優遇のメリットが大きいので積極的に活用したい制度です。ただiDeCo(個人型確定拠出年金)はその名前の通り、老後資金を自分で積み立てるための制度ですから途中で取り崩すことができません。またつみたてNISAは非課税期間が20年と決まっていますので、それを考慮して始めるタイミングを決めましょう」(篠田尚子さん)
では、具体的に収入のどれくらいの割合をどのように資産運用に回すべきなのか、年代別に教えていただきました!
■20代
まだ独身の人が多く、これから結婚、出産などライフスタイルの大きな変更があることが考えられます。収入が安定していない人も多い年代なので、まずは3~6ヵ月分の生活費を目安にお金を貯めることからスタートしましょう。さらに資格取得、結婚や出産などの予定があれば、それに向けて預金を増やすことを重視してください。その上で余裕があれば収入の15~16%ほどを資産運用に回せるとよいでしょう。始めるのは早ければ早いほどその後がラクになります。月5,000円でもいいのでiDeCoから始めてみてください。
■30代
「貯める」から本格的に「増やす」にシフトする時期です。独身なら収入の20%、既婚者の場合はパートナーと合わせて20~25%くらいを資産運用に回せるといいですね。iDeCoとつみたてNISAは、それぞれ非課税投資枠が決まっていますが、30代のうちにどちらも上限いっぱいまで活用することを目指すのがおすすめです。
■40代
40代で年収の2倍の資産を準備できているのが理想です。もし40代になってはじめて資産運用を始めるという場合でも、まだ間に合います。ただその場合は、iDeCoもつみたてNISAもはじめから非課税投資枠をフルで使ってください。
ライフプランによって、預金と資産運用のバランスや年収に対する割合は変わってきますが、これを目安にすると考えやすいと思いますので、ぜひ参考にしてください。
こうして実際に資産運用を開始したところで心配なのが、その管理法。普段の管理はどのようにしていけばよいのでしょうか。
「心配はいりません。最初の手続きは必要ですが、その後は基本的に何もしなくて大丈夫なんです。特にiDeCoやつみたてNISAは、時間をかけて積み立てる制度。もちろん投資信託を基本に運用していくものなので、短期間で見ると値動きが上下します。でもその1日、2日の値動きに一喜一憂しないことが大事。20年、30年と長期で積み立てて増やしていくためのシステムですので、ほったらかしにして細かくチェックしないのが実は上手くいく秘訣かもしれません」(篠田尚子さん)
それならお金の管理が苦手なズボラさんでもできそうですね。
「今はネット証券が主流になっていますので、確認はスマホで簡単にできます。年に一度くらい、例えば誕生月などと決めて確認するので十分です。ただiDeCoは年金の被保険者区分が変わったときに手続きが必要です。例えば会社員から自営業になったとき、一時的に専業主婦になったときなどには、忘れずに手続きを行いましょう」(篠田尚子さん)
失敗しないポイントは「過程を気にし過ぎずに、結果を見ること」だといいます。
「たまに値下がりに不満を持ってすぐにやめてしまう人がいるんですが、すごくもったいない。値下がりしているときは安く買えて得している!と思うようにすると全然気になりません。一方、順調だとそれはそれで少し欲が出たりします。もっといい商品に預け替えようとすると、それがその商品のピークであとは下がる一方……なんてこともありがちなパターン。とにかく積立投資では長い目を持って取り組むこと。そして、日本だけで考えないこと。世界中にバランスよく投資していくことで、長期的にはなだらかに右肩上がりでお金を増やしていくことができるのです」(篠田尚子さん)
難しそう……と思っていたお金の増やし方も、こうやって教えていただくと「自分にもできるかも」と思えてきますよね。あとは思い切って一歩踏み出すことが大事。最後に、これから資産運用を始めたいと思っている人に向けて、篠田さんからメッセージをいただきました。
「最初にお話しした通り、資産運用を始めるのは早ければ早いほどメリットが大きいです。より時間をかけてコツコツ積み立てることができるので、月々の負担を少なくしてラクにお金を増やすことができます。資産運用はスキル磨きと似ています。やったことがムダになることはありませんから。思い立ったらすぐに始めましょう。いつか、過去の自分に感謝するときが必ず来ますよ!」(篠田尚子さん)
思い立ったが吉日。迷っていろいろ考えるよりも、少しずつでも思い切って始めてみてはいかがでしょうか。