あつーしーさんは「医療・介護・福祉をポジティブに」をメッセージに、「歌う作業療法士」として活動しているシンガーソングセラピスト。歌と音楽を通じてお年寄りに元気をお届けしているあつーしーさんが「音楽健康指導士」という資格の存在を知ったのは、親しい友人からでした。
「音楽活動を応援してくれる友人が音楽健康指導士の資格を持っていて、私にも資格を取ることを勧めてくれたのです。またアーティスト仲間が、歌と音楽の力で健康づくりを目指すコンクール『音健アワード2019(音楽と健康アワード)』で優秀賞をとったことも、大きな刺激になりました」(あつーしーさん)
さらに、あつーしーさんの背中を押したのは、作業療法士としてのケアを通じた、高齢者やその家族の皆さんとのふれあいだったと言います。
「作業療法士として利用者様のご自宅を訪問していると、『声が出なくなってしまった』とか、『歌や音楽が好きだけど、それができなくなってしまった』という話をよく聞くのです。これは病気やケガだけでなく、加齢による老化、歌うことや音楽に対する知識や経験の不足など、様々なことが原因になっていると感じました」(あつーしーさん)
音楽や医療の知識と経験をさらに生かすために、あつーしーさんは「音楽健康指導士」の資格を取り、現在ではその資格を生かして活躍されています。あつーしーさんが取得した音楽健康指導士とは、どのような活動を行うのでしょうか。
音楽健康指導士は、歌と音楽が持つ力を最大限に活用し、認知機能の低下予防や身体機能の改善をしていきます。その中心となるのが「音楽レク」と呼ばれる、音楽を使ったレクリエーションです。
「レクリエーションにおいて一番大切なのが、楽しむこと。楽しいことはやる気や継続に繋がるだけでなく、人から人へと伝わっていくものです。音楽健康指導士が提供する音楽レクには100種類ものメニューがあります。そのメニューを実践して、歌と音楽を楽しんでもらうことにより、高齢者に元気になっていただければうれしいですね」(あつーしーさん)
歌や音楽は、愛好家のみならず、あまり関心がないという人にとっても暮らしの中で身近にあるもの。ふと耳にするだけでも心と体の活力を高め、癒しを感じ、気力を高めてくれます。
「音楽に合わせて体を動かすと、筋肉や関節はもちろん、普段は使っていない脳の部分に至るまで、とても良い刺激を与えます。また、運動が苦手な人でも体が動かしやすくなるというメリットも。音楽レクはそれを行う人の状態に合わせて、体や認知機能への負荷を調整できるので、体力や認知機能の状態をご本人が気軽に知ることができるのも魅力です」(あつーしーさん)
音楽レクの効果を生かし、高齢者に音楽と健康を意識してもらう。それが健康寿命の延伸や生きがいに繋がっていくのですね。
現在あつーしーさんは、神奈川県内のイベントスペースを中心に、公民館やカルチャーセンターなどで音楽健康指導士として活動をしています。実際の音楽健康指導の流れについて、あつーしーさんに教えていただきました。
(1)アイスブレーキング
まずは、音楽健康指導に参加する皆さんの緊張を解きほぐし、リラックスをしてもらうためのアイスブレーキングから始めます。あつーしーさんは、はじめに会場に設置したプロジェクターで映像や音楽を流しながら、親しみやすいトークによる自己紹介で参加者の緊張をほぐしていきます。さらに参加者同士による簡単なおしゃべりを積極的に促すことで、会場全体の雰囲気を和らげます。
(2)ウォーミングアップ
次は、本格的な音楽レクの前のウォーミングアップ。参加者にその場での肩の上げ下げや首の運動、腕の曲げ伸ばしなど、簡単なストレッチをしてもらいながら、本格的な音楽レクへと繋げていきます。この時、参加している人の体力や自立度を見極め、それに合わせた無理のない準備運動をチョイスすることも重要だとか。
(3)音楽レク
そしていよいよ音楽レクの開始!あつーしーさんが実際に主催したある日のメニューでは、お年寄りの誰もが知っている童謡『桃太郎』をカラオケで流しながら、参加者全員で歌い、リズムに合わせて体を動かしました。歌に合わせて体の前で手を打ったり、膝を叩いたり、腕を上げたり。一見単純そうに思えますが、あつーしーさんによると「実際にやってみると、想像以上に体を動かしていて、歌と動作が脳に刺激を与えていることが実感できますよ」とのこと。さらに、童謡や唱歌など誰もが子どもの頃に親しんだ楽曲と共に体を動かすことで、歌うことや体を動かすことに慣れていない人の抵抗感も軽減されるのだそうです。
こうした音楽健康指導のほか、あつーしーさんはボイストレーニングの指導やアーティストとして行っているコンサート活動などでも、音楽レクのスキルやノウハウを生かし、歌と音楽の力で、高齢者をはじめ幅広い世代の皆さんに元気になってもらえるよう心がけているそうです。
「参加者の声を聞くと、『音楽に合わせて体を動かすことで、気づくことや感じることが多い』とおっしゃられることが多いですね。また、音楽レクにより、『気持ちが明るくなった』『苦手な運動ができるようになった』『これからも続けられそう』『気持ちよかった』『楽しかった』といった前向きな感想が聞けると、本当にうれしく思いますし、そういった皆さんの言葉が、私自身のエネルギーになっていると強く感じています」(あつーしーさん)
音楽健康指導士としての知識と技術を生かして活動を続けるあつーしーさんに、今後の目標について伺うと……。
「音楽健康指導士として活動できることに、今、大きな生きがいを感じています。まずは地元である神奈川県で、私の音楽健康指導を心待ちにしてくれる皆さんがいて、活動をサポートしてくださる人たちがいる限り、歌と音楽の力で心も体も若返った明るく元気なお年寄りを増やし、健やかな未来を実現したいですね」(あつーしーさん)
社会の高齢化が急速に進む中、高齢者が心身ともに自立して健康な状態で生活できる「健康寿命」をできるだけ延ばすことの重要性が問われています。だからこそ、「歌と音楽の力」で高齢者の健康を支える音楽健康指導士の役割は、これからますます重要になってくると言えるでしょう。