今回おいしいお米をご紹介してくれる澁谷梨絵さんは、ご実家がお米屋さん。しかし、大学卒業後はSEとして勤務していたそうです。ところが、お父さんの病気をきっかけに、家業である米屋の跡を継ぐことを決意。今では「米処 結米屋(ゆめや)」を展開し、5ツ星お米マイスターとして著書を出したり、講演をするなど、お米のプロとして活躍しています。
そんな澁谷さんにまずお聞きしたくなるのは、たくさんある中でもおいしいお米の銘柄。今はどんなお米を買うのがおすすめなのでしょう。
「すごくよく聞かれる質問なんです。でも、今は毎年たくさんの新品種が開発されています。それぞれに『すごくモチモチしている』『あっさりしていて、カレーに合う』など、お米の特徴がはっきりしている時代。だから、『これがおいしいお米』というより、たくさんのお米の中から自分の味覚や食生活に合った味のお米を探すのを楽しんでほしいですね」(澁谷梨絵さん)
お米は大きく分けて、モチモチのコシヒカリ系とあっさりしたササニシキ系。
お米の特徴により、合う料理も違うそうです。
お米の特徴と合う料理
●モチモチが好き……コシヒカリ、ミルキークイーン、金色の風、夢ごこちなど
<合う料理>
ごはん自体の存在感があるので、お漬物や汁物などと合わせてごはん自体を味わう献立に。
●あっさりが好き……ササニシキ、ヒノヒカリ、あきたこまち、青天の霹靂など
<合う料理>
さっぱりしていて汎用性が高いため、朝ごはんや、中華料理など味の強いおかずに合います。すし飯にも。
●ふっくら炊き上がる……ふっくりんこ、ふさこがね、ゆめぴりかなど
<合う料理>
優しい甘みと食感は、和食や魚によく合います。炊き込みごはんや丼にもぴったり。
●強いうま味、甘み……コシヒカリ、元気つくし、つや姫、いちほまれなど
<合う料理>
具の味が強い丼など、強い味同士でバランスをとれます。
●冷めてもおいしい……森のくまさん、新之助、にこまるなど
<合う料理>
おにぎり、お弁当にするのがいいでしょう。もちろん、炊きたてもおいしいです。
このように、日本では品種改良が進み、毎年多くの新品種が市場に出回っています。
「令和元年には824品種が発表され、それぞれ話題となりました。私は多くの品種を試食しますが、それぞれに個性があり、『自分に合ったお米』を見つけるのはますます楽しくなっているなと感じます」(澁谷梨絵さん)
澁谷さんおすすめの【今、食べたい】お米3選
●雪若丸……しゃっきりとした歯ごたえがあり、粒が大きめ。多少水加減を間違えてもおいしく炊ける。値段もお手頃。山形県で「つや姫」の弟として誕生しました。
●いちほまれ……バランスがよく食べやすい。甘みは強め。コシヒカリ発祥の地・福井県で、「ポスト・コシヒカリ」と期待されているお米です。
●だて正夢……もち米のようにモッチモチ!お米好きにはたまらない。宮城県で誕生したお米です。
「いざお米を買うときに、どこを見て買ったらいいかわからないという質問を受けることがあります。おすすめは、お米屋さんで買うこと。専門知識があるので、どんな料理に合わせたいかなどを話せば、ライフスタイルに合ったお米を紹介してくれるはずです。また、どんな銘柄でも精米してから時間が経っているお米はおすすめできません。米袋にある精米年月日を見て、精米日が近いものを選ぶとよいでしょう」(澁谷梨絵さん)
おいしいのはやっぱり新米なのでしょうか。
「新米は、炊きたてにふわ~っと甘い香りが漂うので、たしかに季節のごちそうですね。ただ炊き方、特に水加減が難しいため、年を越して春先くらいの、水分が落ち着いた頃の方がそれぞれのお米の味を楽しめると思います」(澁谷梨絵さん)
好みの味のお米を買ったら、きちんとした方法で保存し、おいしくいただきたいもの。ただ、間違った方法で保存してしまっている人も多いようです。
「一般家庭なら、保存は冷蔵庫で。昔は家の中に食べ物の保存に向いた冷暗所があったものですが、今は家の気密性が高く、冬でも暖かいおうちが多いですよね。常温保存は湿気にさらされ、虫がわくこともあるので、冷蔵庫に入れてください。お米は、酸化すると味が落ち、食感もボソッとしてしまうので、できるだけ密閉し酸素に触れないようにして酸化を防ぎましょう」(澁谷梨絵さん)
お米を保存するポイント
●密閉できる容器に入れる……専用のお米ポットやジッパーのついた密封袋。洗ってよく乾かしたペットボトルも、冷蔵庫にしまいやすいのでおすすめ。
●冷蔵庫に入れる……保存に最適な一定の温度を保つことができる冷蔵庫に保存することをおすすめします。ただし、通常の冷蔵室内の保存では低温になりすぎてしまうこともあるので、冷蔵室より少し温度設定の高い野菜室に保存するのが最適です。
●常温保存しかできない場合は、保存袋に移し、唐辛子(鷹の爪)を入れて防虫しましょう。
「また、一度にたくさん買いだめしないのも、鮮度を保つのに大切なこと。家族が1~2人なら買うのは2kgくらいまでにして、精米したてをこまめに購入するのが、おいしいお米生活の基本です。めったに食べないのなら、酸化しにくい無洗米を選ぶのもいいと思います」(澁谷梨絵さん)
ではいよいよ、澁谷さん自身も日々行っているという、おいしいごはんの炊き方を教えてもらいましょう。「すでに知っている」という人も、ぜひもう一度おさらいを!
1:計量する
「計量カップを使うだけで満足していませんか?実は、お米とお米の間に空間があるので、すくうだけではきちんと量れていないかもしれません。今からご紹介する方法のどちらかで、きっちり量りましょう」(澁谷梨絵さん)
A
B
2:洗う
「『米を研ぐ』という言葉がありますが、最近のお米は割れやすくて繊細。ごしごしぶつけるように研ぐのではなく、そっと洗う程度にしましょう。また、お米は最初に水に触れたときから水をグングン吸い始めます。最初の1回で、洗米するときに吸う水の7割を吸水するといわれているので、最初だけはミネラルウォーターなどのいい水を使うのもおすすめです。2回目以降は水道水でOKです」(澁谷梨絵さん)
●米を洗う手順
3:水をきる
「昔は洗ったお米を30分ほどザルに上げて水をきるのがセオリーでした。現在のお米はザルの上で乾燥させると割れてしまうことがあり、食感を損ねます。しかし、水気たっぷりでも水加減に影響が出るので、1~2分だけザルに上げて水をきりましょう。そのとき、指でお米をザルに沿わせるようにすると、まんべんなく水気がきれます。または、冷蔵庫に入れて3~5分というのもおすすめです」(澁谷梨絵さん)
4:水加減
「炊飯器を使っている場合は『炊飯器の目盛り通り』という人が多いでしょう。でも、実は炊飯器の目盛りは見る角度によってびっくりするほど変わるので、正確な計量とはいえません。炊飯器の場合は、お米を計量したカップで水を量り、まったく同じ量を。土鍋などの場合は1.2倍を目安にしてください。お米の品種や好みによって、自分のベストな水加減をさぐってみてください」(澁谷梨絵さん)
5:浸水
「炊飯器の場合は内釜に、土鍋など水がしみ込みやすい素材の鍋の場合はボウルなどに米と計量した水を入れて1時間ほどおきます。夏場はお米が古くて吸水しやすいので、30分ほどでもかまいません。一方、新米は表面がつるつるしていて水が入りにくいので、2時間ほど置いてください。このとき冷蔵庫に入れておくと、雑菌が増えるのを防げ、さらに、冷たい水から一気に炊きあげることになるので、甘みとうま味が増します」(澁谷梨絵さん)
6:炊飯
「炊飯器の場合は、それぞれの性能におまかせ。土鍋は以下の手順で炊いてください」(澁谷梨絵さん)
●土鍋ごはんの炊き方
7:炊きあがり
「ふたを開けたら、しゃもじを縦に使い、十字に切り込みを入れます。1ブロックずつ底から返し、お米のひと粒ひと粒が空気に触れるようにほぐしてください。お茶碗によそうときは、ふっくらとした上の面がそのままになるよう、返さずにそっと『移す』感覚で」(澁谷梨絵さん)
8:冷凍保存
「ごはんをすぐに食べない場合は、適度な分量を炊き、冷凍保存しましょう。熱いうちにラップに移し、一食分をできるだけ薄くなるように包みます。このまま冷凍庫に入れるとほかの冷凍している食品が溶けてしまうので、アルミホイルで包んで熱を遮断。ごはんを冷ますことなく冷凍庫に入れられ、アツアツのおいしさを閉じ込めることができるのです。解凍するときは電子レンジでOK。アルミホイルを取り除いて、600ワットの電子レンジで2~3分解凍し、一度取り出してほぐしてからさらに2~3分温めるとふっくらと仕上がります」(澁谷梨絵さん)
お米屋さんだから知っている、手間がかからなくておいしい、お米が主役のレシピ。作り置きができて、白いごはんが止まらなくなる「卵黄の味噌漬け」と、澁谷さんオリジナルの「同時メシ」の2品をご紹介します。
卵黄の味噌漬け
「炊きたてごはんで作る卵かけごはんもおいしいですが、ひと手間加えて卵の黄身を味噌漬けにしてみましょう。卵の味がまったりと凝縮され、ごはんが止まらなくなりそうです。余った白身は納豆やお味噌汁に」(澁谷梨絵さん)
【材料】(2個分)
作り方
豚のしょうが焼きの同時メシ
「『同時メシ』とは、炊飯器でごはんもおかずも同時に作れる時短レシピ。簡単で洗い物が少なくてすみ、火加減の調整も不要でハマる人が続出!お肉を漬けた状態で冷凍しておけば、解凍せずにそのまま入れて作ることができます」(澁谷梨絵さん)
【材料】(2合分)
(A)
(B)
作り方
毎日1合以上のお米を食べるという澁谷さんはとてもほっそり。糖質を減らすダイエットが主流の昨今、なぜ澁谷さんはスタイルを維持できているのでしょうか。
「1合どころか、新米が出回って試食が多くなると、毎日ごはんでおなかいっぱい。2~3合は食べているのではないでしょうか。それでも、それが原因で太ったことはありません」(澁谷梨絵さん)
つまり、お米は太らないということですか?
「私はそう体感していますし、体の仕組みとしても証明されています。ごはんの糖質は20%が脳、70%が筋肉、残りはそのほかの臓器でエネルギーとして使われ、脂肪にはなりません。糖質を制限して痩せたという人は、体の水分が抜け、一時的に体重が減ったのだと思います。続けていると脳が飢餓状態になり、糖質が入ってこないことを補おうとして燃焼を控えるようになり、長期的に見ると痩せにくい体になってしまう恐れもあります」(澁谷梨絵さん)
具体的に、太らない食べ方というのはありますか?
「おかずで脂肪を控えることですね。それからごはんと、汁物や副菜も含めたその他ほかのおかずの割合を6対4にすること。脂肪を減らし、脳も満足している状態になるので、体はエネルギッシュに燃焼を始めるはずです。また、夜は、寝ている間に胃腸を休ませるために食事の量全体を控えめにするといいですね」(澁谷梨絵さん)
おいしいごはんをたくさん食べられて、太らない体になれば一石二鳥。お米生活を楽しみながら、元気な体になりたいものです。