今回、取材にうかがったのは、社会福祉法人みなわ会。日帰りの介護サービスを受けられる『デイサービス 所沢けやき』と、在宅の老人ホーム『ケアハウス 所沢けやき』を運営しています。近所には大学のキャンパスが広がり、たくさんの自然に囲まれ、とても過ごしやすそうな施設です。
ここで働くスタッフの原さんと大舘さんは、実際に「レクリエーション介護士」の資格を取得し、現在の仕事に役立てているとのこと。今回は、お2人に詳しくお話をうかがいました。
最初に訪ねた『デイサービス 所沢けやき』は、日帰りの介護サービスが受けられる施設で、食事や入浴サービスの他に、午後はレクリエーションの時間が設けられています。取材に訪れたのは、まさにレクリエーションを行っている真っ最中。この日はあいにくの雨だったので、室内で「脳内旅行プランを立てよう!」というレクリエーションが繰り広げられていました。
4つのチームに分かれ、まず決めるのはチーム名から!「それじゃあこのチームはどこに行く?」「そこに行くなら何を持っていく?」「どんな服を着ていく?」「おやつはどうする?」……といった具合に、各チームが次々と旅行プランを組み立てていきます。
「やっぱり沖縄に着ていくのはアロハかしら!」「おやつはおまんじゅうがいい」など、利用者の方たちも想像力をフルに働かせながら、楽しそうにレクリエーションに参加しています。
このレクリエーションを大きな声で盛り上げながらリードしていたのが、『デイサービス 所沢けやき』で働く大舘さん。2016年にレクリエーション介護士1級を取得し、勤務先のデイサービスで活かしているそうです。
「もともとデイサービスはレクリエーションの比重が大きいサービスで、それを楽しみに来てくれる利用者の方たちも多いんですが、そのネタに少し行き詰まりを感じていたんです。そこで、レクリエーション介護士を受ければ使えるネタがたくさん増えるかも……と思ったのがきっかけで、勉強をスタートしました」(大舘さん)
しかし、実際に学んで良かったと感じたのは、レクリエーションのネタが増えることより、もっと別のところにあったと言います。
「インターネットで検索をすれば、レクリエーションのネタ自体はいくらでも探せるんですよね。でも実際にそれをやろうとしても、なかなかうまくいかない。そんな中で、レクリエーション介護士の勉強は、『レクリエーションを実践で活かすための方法』を教えてくれました。
例えば、参加者の方に積極的にレクリエーションに参加してもらうためには、最初のアイスブレイクでどれだけ気持ちを盛り上げられるかが、とても大事なんです。これまで毎年やっていた壁画制作にしても、毎年の決まり事だからと押し付けるのではなくて、『じゃあ今回の壁画は干支にします?どんな風に作ります?』と声かけをしながらプランニングから参加してもらうなど、その企画にみなさんの気持ちが向くようにするコツを学びました。
勉強したことを実践で活かしていくうちに、『今日は大舘さんが担当なの?』と楽しみにしていただけるようになってきて、それが励みになってまた頑張ろうと思える。良い循環が生まれるようになりましたね」(大舘さん)
この日のレクリエーションでも、「今日は沖縄に行った夢を見られるよ」と笑顔で声をかけてくれる参加者の方がいるなど、みなさん存分に楽しんでくれたようでした。
次に訪ねたのは、デイサービスの向かいにある『ケアハウス所沢けやき』。56名の入居者の方々が、サポートを受けながら自立した生活を送っています。ここでは、参加型のレクリエーション「ボッチャ」が行われていました。
「ボッチャ」は、ヨーロッパ発のスポーツ。もともとは障がい者のために考案されたスポーツで、パラリンピックの正式種目にもなっています。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに向かって、赤・青のボールを投げたり転がしたりしながら、いかに近づけられるかを競うスポーツですが、この日は公式戦のルールを「けやき流」に少し変えながら対戦していました。
筆者も挑戦してみましたが、簡単そうに見えてなかなか難しい!しかし、力の強さは関係なく、ボールを狙ったところに近づけるための力加減やコントロールが肝となるスポーツなので、老若男女が平等に楽しめるものだと感じました。
このボッチャで指揮を執っていたのが、レクリエーション介護士2級の資格を持つ原さん。原さんに、レクリエーション介護士の勉強を始めるきっかけや、普段の仕事で心がけていることをうかがいました。
「私はユーキャンで介護福祉士の資格を取ったんですが、レクリエーション介護士が新設された際に、関連する資格ということでお知らせをもらったのが、勉強を始めるきっかけでした。
私が勤務するケアハウスは、デイサービスと違って、あくまでも生活する場です。みなさん、それぞれの予定や過ごし方がありますし、年齢も価値観も違うので、何事も強制はできません。それでも、部屋に閉じこもらずに外に出てきてもらうために、『ちょっとやってみようかな』『楽しそう』と思ってもらえるような、イベントやレクリエーションを企画するように心がけています」(原さん)
原さんに、これまで実施して特に喜ばれたレクリエーションを、いくつかご紹介いただきました。
「『けやき』は今年で20年目になりますが、オープン当初はみなさん体力もあって活発だったので、芝生にテーブルを出し、ビールサーバーを借りてビアガーデンなんかをして、とても喜ばれました。最近だと、脳にいい刺激になりそうな企画を考えて、『脳トレ』と題して定期的に開催しているんですが、その中でもパソコンを使ったペイント体験は、あまりに面白くて『パソコンが欲しい』と言い出す方までいましたね」(原さん)
他にも、近くの商店の方にケアハウスまで来てもらい、日用品や洋服、お菓子や佃煮などの食料品を出張販売してもらうなど、日常のちょっとしたレクリエーションも、入居者の方たちの楽しみなのだとか。自分で食べたい・着たいと思ったものを選んで買える環境は、とても喜んでもらえるようです。また、ケアハウスでは入居者の方の年齢や身体的な状態が年々変わっていくため、実施するレクリエーションも、それに合わせて変化させていくことも必要、と言います。
スタッフが中心となり、さまざまなレクリエーションを実施している『デイサービス 所沢けやき』と『ケアハウス 所沢けやき』。働いているみなさんは、やはり介護の現場でのレクリエーションの重要性を、日々感じているそうです。
「ケアハウスでは、入居者同士のコミュニケーションの場として、レクリエーションはとても重要だと考えています。例えば、今回のボッチャなどを通じて、『昨日は楽しかったわね』なんて昼食の時間の話題が増えれば嬉しいですよね。レクリエーションが、これまで話したことのなかった入居者さん同士が話すきっかけになれば良いと思っています。『カラダ元気、ココロ元気、アタマ元気』が、ずっと健康に過ごすには大事なことなので……みなさんの楽しそうな笑顔を、レクリエーションを通じて見られたら、私たちは幸せなんです」(原さん)
「今後、団塊の世代の方たちが高齢者になっていきます。この世代は、アクティブで遊び慣れた方も多いので、こちらからの押しつけのレクリエーションでは、満足していただけないと思うんです。ベースをしっかり学んで、心から楽しんでもらうためのレクリエーションをしなければと思っています」(大舘さん)
近年の福祉施設では、「おいしい食事や快適な睡眠」といった物質的な豊かさだけではなく、「喜びや生きがい」といった精神的な豊かさも感じられるサービスが、求められるようになってきています。そんな中で、レクリエーションや、それを行う「レクリエーション介護士」の資格は、これからの介護の現場で求められていくことでしょう。
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