3人の子どもを育て上げ、仕事や趣味、ボランティアなど、「やりたいこと」や「やらなければならないこと」で、忙しい毎日を送っていた山田あしゅらさん。しかし、義父のうつ病、義母の認知症が立て続けに発覚。怒濤の在宅介護の日々が始まったそうです。
「義父の身体の変調は、介護が本格化する5~6年前から始まりました。最初は、何でもないところでつまずいたり、手にかすかなしびれがあったりするくらいだったのですが、次第に症状は悪化。医療機関で診てもらったものの原因はなかなかつかめず、『脊髄小脳変性症』という病名を突き止めることができたのは、異常を感じ始めてから1年ほど経ってからのことでした。
『脊髄小脳変性症』の症状は、足のふらつき、ろれつがまわらない、手指の震えなど、運動機能が徐々に低下していくもので、現在も原因や治療法は見つかっていません。病名はわかったものの、老後を楽しみにしていた義父はかなりショックを受けたのでしょう。次第にふさぎ込むようになり、うつ病になってしまいました。
うつ病の義父への対応に苦慮する一方で、義母のほうも少しずつ『あれ?』と思うことが増えていきました。例えば、毎週通っている水彩画教室からなかなか帰ってこないので、『捜索願を出そうか?』と相談していたところに、義母が『路線バスを間違えた』と言いながら帰ってきたのです。そそっかしいところがあったので、その時は受け流してしまったのですが、今思えば義母の認知症はこの時すでに進み始めていたのかもしれません」(山田あしゅらさん)
一口に在宅介護と言っても、介護レベルや症状は個人によって大きく異なります。その違いなど、実際に義父母それぞれの介護を経験している山田さんだからこそわかる、在宅介護の実態について伺いました。
「ほぼ同時に要介護となった義父母。例えば認知症では、『物盗られ妄想』や『介護拒否』などがよくある症状と言われていますが、義母については、一度もこういった症状は見られませんでした。義母が認知症になって変化した点と言えば、子どものように私を頼ってくれるようになったことです。
一方、認知症の症状はほとんど見られなかったものの、頑固でプライドが高い義父は義母に比べて介護が何倍も大変で、ストレスも大きく……。何が良くて何が悪いのか、本当にわからないものですね」(山田あしゅらさん)
山田あしゅらさんが気付いた、義母の認知症の初期症状
一緒にテレビを見ている時、家族の顔を凝視する。
おそらく、顔を見ながら「この人は誰だっけ?」「私は今ここで何をしているんだっけ?」と、不安な状態に陥っていたのだと思います。
メモを見ながら電話番号が押せず、電話をかけられない。
目で見たものを脳から指に伝えるという動作は、意外に複雑なもののようです。そのうち、電話をかけること自体をやめてしまいました。
お漏らし
車を降りた後に義母が座っていたシートを見ると、ぐっしょり。でも、義母は漏らしている意識はまったくないのです。「認知症では?」という疑いが私の中でかなり色濃くなってはいましたが、本人は認めないし、義父に「義母は認知症では?」と言っても「そんなことはない!」と激怒するばかりで、諦め気味の毎日となっていました。
家族による介護は、体力的な負担に加えて、「あんなに穏やかな人だったのに……」「あのおしゃれだった父が……」というような精神的な負担も大きいと言います。山田さんは在宅介護をするにあたって、どのように精神面のケアをしているのでしょうか。
「介護の一番つらいところは、『終わりが見えない、先が見通せないこと』。長生きはめでたいことではありますが、そこそこ健康で、自立した生活が送れていればこそです。介護がロングランともなれば、介護する側の息も切れ、人生100年時代がうらめしく思えてくるのもまた現実です。
そんな中、ふいに始めたブログ。最初はストレス発散の目的で書こうと思ったのですが、愚痴ばかり書き続けていたら、気持ちがどんどん落ち込んでいきました。『こりゃオモシロくないな』と思い始めて、『せっかく書くなら、オモシロおかしく書いてみよう!』という思いがムクムク湧いてきたのです。
すると、ストレスの『タネ』がブログの『ネタ』に変身することに気付きました。そして、私の目線が『介護者』から『観察者』に変化したことにより、一歩引いたところから物事を見られるようになったのです。義父母の気持ちも客観的にとらえられるようになり、これが私にとって思いがけない転機になりました。
義父母の一挙手一投足にそれほどイライラしなくなり、腹の立つ言動にも少しは優しく対処できるようになったんです。また、ブログの読者には同じ悩みを持つ方も多く、『そうそう!ウチもそう!』と同感してくれます。聞いてくれる人、同感してくれる人がいるというだけで、悩みは半減した気がするものです。悩みを文字にしたり、周りに話を聞いてくれる人を見つけたりして、物事を客観的に見られるようにすることが効果的だと思います」(山田あしゅらさん)
超高齢社会において、介護は他人事ではありません。実際に直面するまでは受け入れるのが難しいものですが、あらかじめ介護に直面した際の心構えを持っておくことで、気持ちの負担を軽くすることはできるでしょう。介護の助けになる、行政の窓口や地域包括支援センターなどの存在を知っているだけでも違うはずです。まずはできることから始めてみましょう。
そして何と言っても、介護は健全な心と身体が資本です。がんばり過ぎず、自分なりに、『明るい介護』を目指してみてはいかがでしょうか。
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