大学時代から速読法や記憶法を学び始め、1ヵ月でCFP(ファイナンシャルプランナー)試験に、その後2ヵ月で行政書士試験に、それぞれ一発合格した宇都出雅巳さん。そんな記憶術実践家の宇都出さんですが、「読んだから覚えているはず、という考えがそもそも間違っています」と指摘します。
「私たちの脳にはワーキングメモリという作業領域がありますが、読んだ本の情報は、一時的にそのワーキングメモリに記憶されます。しかし、ワーキングメモリは容量が小さく、新しい情報が入ってくると古い情報は消えてしまうため、過去に読んだ本の情報を忘れてしまうのです。読んでも覚えていないというのは、むしろ当然と言えるかもしれません」(宇都出さん)
では、どうすれば本の内容を、記憶に定着させることができるのでしょうか。
「基本は『繰り返し読む』ことです。試験勉強のときに、参考書やノートを何度も繰り返し見て、内容を覚えるのと同じですね。繰り返すことで、忘れるスピードが遅くなり、脳に記憶として定着していくのです。また基本的に、記憶の定着に年齢は関係ありません。『もう年だから覚えられない』という人がいますが、実は繰り返すという行動が面倒になっていて、若いときに比べて繰り返していないことが、覚えられない原因になっている場合があります」(宇都出さん)
内容に興味がなくても、仕事や試験勉強に必要なため、本を読まなくてはいけないことも多いですよね。苦手な本でも覚えやすくなるコツはあるのでしょうか。
「興味のある本の内容は、すでに持っている記憶と結びつくため、覚えやすいという面があります。一方、興味がないと感じている本については、なんとか読んで、内容を強引につめこもうとしても、脳が疲れてすぐに忘れてしまいます。そのため、最初から一文ずつ読むのではなく、まずは全体像を把握するために目次を読み、次に見出しをチェックしてみてください。そして、順番は関係なく、自分が興味を持った目次や見出しの部分から読んでいくと、記憶しやすくなります」(宇都出さん)
記憶を定着させるためには、目次や見出しが大きな役割を果たすということですね。
「ビジネス書や参考書などは、目次、見出し、ポイントといった具合に、知識や情報が頭に入りやすいよう、階層構造に整理をされているものが多いですよね。この階層構造による結びつきが、理解を深め、記憶の定着を助けるのです。そのため、何度も目次や見出しに戻りながら読むと、今読んだことを思い出しやすくなり、深く記憶することができます」(宇都出さん)
それでは、ストーリーを楽しむ小説は、どのように読むのが良いのでしょうか。
「時系列でストーリーのあるものは記憶に残りやすいので、小説などは内容を覚えていることが多いのではないでしょうか。小説は、ビジネス書や参考書のように飛ばして読むことができないので、じっくり味わいながら読まれると良いと思います」(宇都出さん)
読書の後で、記憶を定着させるためにできることはありますか。
「『すぐに繰り返し思い出す』ことですね。記憶力が良い、頭が良いと言われる人は、この『すぐに繰り返し思い出す』ことが、習慣になっている場合が多いです。また、誰かに読んだ本の内容を語ることも効果的。その際、覚えていることだけでなく、わからないことや覚えていないことも言葉にするのがポイントです。すると、自分がその本について何がわかっていて、何がわかっていないのかが明確になります。わからない部分は、本を読み直して理解を深めることになり、読んだ本の内容が自分のものになっていきます。ブログやSNSを利用している人は、本の感想を書いて、多くの人に伝えるのも良いでしょう」(宇都出さん)
記憶が定着しやすい「身につく」読書ができるようになると、読書以外にもメリットがあるそう。
「物事の全体像をとらえる抽象化能力や、物事を結び付けて理解する思考力、論理的に考える能力が身につくので、ビジネスでも役立つのではないでしょうか。知識が身につき、言葉は磨かれ、人間的な成長のサポートにもなるかもしれません」(宇都出さん)
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