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2021.05.13

ペットの動物行動学の専門家が解説。愛猫とのコミュニケーションのとり方

ペットの動物行動学の専門家が解説。愛猫とのコミュニケーションのとり方

リモートワークの普及などで、おうちでペットと過ごす時間が増えた人も多いのでは。愛猫は歓迎してくれていると思いきや、実はストレスを感じている時もあるかも?そこで獣医行動診療科認定医の藤井仁美先生に、ペットとの最適なコミュニケーションのとり方を伺います。

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犬猫の気持ちを紐解く「動物行動学」とは?

犬猫の気持ちを紐解く「動物行動学」とは?

仕事もライフスタイルもニューノーマルな時代になり、おうちで過ごす時間が基本になったという人も多いのでは?常に家族の誰かが家にいる環境を、愛猫はどう捉えているのでしょうか。一緒の時間が増えて喜んでくれているのか、それともストレスに感じているのか。あぁ、 「猫心」 が分かればいいのに……。

「猫がどんな動物かを知ることで、『猫心』や猫が何にストレスを感じるのか分かりますよ」

そう語るのは動物行動学の中でも「ペットの行動」を専門にしている、獣医行動診療科認定医、ペット行動カウンセラーの藤井仁美先生。藤井先生は英国にてペットの行動学を学び、現在は自由が丘動物医療センターにて、犬や猫の問題行動の治療、しつけ方指導、メンタル面のケアを専門に行っています。

「動物行動学とは動物の行動を研究し、そこからその動物の特性や心理にアプローチする学問のこと。行動診療科認定医の仕事は、動物行動学で得た知識を生かし『なぜ問題行動を起こすのか?』を明らかにして診断を行い、適切な治療プランを提示し、その方法を飼い主自身が実践することをサポートするというものです。また、問題行動が病気に起因している場合や深刻な場合は、薬物を処方して治療を行うこともあります」(藤井仁美先生)

動物行動学の観点から、診察・治療を行うメリットは、何なのでしょうか?

「『猫(犬)はこういう動物だからこうなる』という原理を理解することで、問題行動の発見が早くなり、改善や緩和などの治療もしやすくなります。また、問題行動を起こす理由が分かるので、どのようにアプローチしたらいいかが明確に。結果、トレーニング・しつけ方指導やメンタルケアもスムーズに行うことができるようになります。飼い主さんも『猫という動物とは?』という本質を理解することで、猫のニーズに応えられるようになりますよ」(藤井仁美先生)

今回のイラストを描いていただいた宮路ひまさんも「猫が求めていることを知りたいです!」と興味津々。宮路さんはご自宅で、三毛猫のたんぽぽと柴犬のどんぐりと暮らしています。職業柄自宅にいる時間が多いため、たんぽぽにストレスを与えていないか心配だったそうです。次の章では猫の特性やどんな時にストレスを感じるのか、気になる 『猫心』に迫ります!

ずっと家にいる飼い主。愛猫にとってはストレスだった?

ずっと家にいる飼い主。愛猫にとってはストレスだった?

猫が感じるストレスの正体を知る上で、まず理解しておきたいことは『猫が感じるストレスは、人や犬が感じるストレスとは違う』ということ。そのため「猫を擬人化したり、犬と同じような接し方をしたりすると、猫にとってストレスの原因になってしまいます」と藤井先生。

ストレスが続くと、困った行動を起こしたり、病気を引き起こすことがあるので、余計な負担を与えないためにも、飼い主は猫の行動や習性についてよく理解することが重要なのだそう。そこで、猫の行動や習性を藤井先生に教えていただきました。

猫は単独で行動する動物

猫は犬とは違い、本来は群れを作らず、単独で行動する動物。その特性上、自らが傷つくこと、脅威に晒されることは死を意味するので、猫は見知らぬ人や環境に対して強い警戒心やストレスを抱きます。

猫は警戒心が強くて、デリケート

猫は縄張り(テリトリー)意識が高いため、警戒心が強く、様々な刺激(音、ニオイなど)に敏感。また、安心して食事や排泄、休息ができて、いざという時には避難可能な縄張りを非常に重要視するため、これらの環境が確保できないと強いストレスを感じてしまいます。

4つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚)を駆使してコミュニケーションをとる

猫は仲間と直接コミュニケーションをとることが少ない動物なので、視覚的・聴覚的なコミュニケーションの方法は犬に比べて地味でバリエーションは少なめ。ただし単独行動する猫にとって、ケンカで傷つくことは致命傷になるので、争いを避けるための体や声の表現は非常に派手です。また、ニオイを残すことによる嗅覚的なコミュニケーションも猫にとっては大切なもの。猫はマーキング(ニオイづけ)をすることで、人を含めた他の動物に縄張りを主張しています。

捕食本能がある

猫は本来、獲物を捕まえて食べる動物。家庭で飼われている猫にも捕食本能は残っているため、同居している人や動物が「獲物」に認定されてしまうと、時に本気で襲われて大怪我することがあるので、注意が必要です。

高い場所に上がるのが好き

猫は上る・下りる・ジャンプといった上下運動を好み、すぐに高いところに上りたがります。室内に高い場所を用意しておくことは、猫の本能を刺激するほか、安心して休める場所となり、運動不足とストレス解消にも役立ちます。

きれい好き

体をきれいに保つことは、猫にとって病気から身を守るための手段であり、体が汚れている=ストレスになります。そのため、猫は1日の多くの時間をグルーミング(自分の体を舐める行動)に費やしています。またトイレ環境が整っていないと、排泄を我慢しすぎて膀胱炎になる、トイレ以外の場所で排泄するなどの問題行動に発展することがあります。

「猫という動物とは?」という本質に触れたところで、やはり心配なのが、愛猫のストレス問題……。常に誰かが家にいるという環境は、単独行動を好み、音やニオイなどの刺激に敏感な猫にとって、ストレスになっている場合も多いのでしょうか?

「猫が単独でいられるお留守番の時間がなくなり、生活音が絶え間なく発生する家の中で過ごすことで、ストレスを溜めてしまうケースはあると思います。とくに飼い主が構いすぎていたり、猫のお気に入りのスペースを奪っていないでしょうか。こうした新しい生活に伴うストレスが原因の一つとなり、人を噛んだり引っ掻いて攻撃する、突発性膀胱炎になるなどの問題に発展し、受診されるケースも増えてきた印象ですね」(藤井仁美先生)

飼い主ができる、愛猫へのストレスケア

猫の基本的な行動や習性について理解したところで、愛猫のストレス回避のために、飼い主ができることはどういったことでしょうか?ここでは具体的なストレスケアや、猫の気持ちに寄り添うコミュニケーションのコツを、藤井先生に教えていただきます。

猫のペースを尊重した友好な信頼関係を築こう

ペットの動物行動学の専門家が解説。愛猫とのコミュニケーションのとり方

「猫のペースや好みのスタイルに合わせたコミュニケーションをとるようにしましょう。嫌がる猫を無理に触ったり、抱っこするのはNG。撫でられるのが好きな猫の場合も、頬や頭など、猫が喜ぶ部位から触れるようにして。また『家にいるんだから構ってあげなくちゃ』と気負う必要はなし。適度な距離感を持って、つかず離れずのスタンスで過ごすのが正解です」(藤井仁美先生)

家の中のニオイに配慮しよう

「ニオイの強い香水、刺激臭のあるルームスプレーなどを使用するのはNGです。外出の機会が減った方も多いことと思いますが、外のニオイを持ち込む際には注意が必要。とくに動物病院や他の猫のニオイには敏感です。また猫にとって、ニオイは重要な情報源。よく顔や体をこすりつける場所は、ニオイが残る程度の掃除にとどめましょう」(藤井仁美先生)

生活音もなるべく配慮する

ペットの動物行動学の専門家が解説。愛猫とのコミュニケーションのとり方

「猫は大きな音を感知した場合、警戒心やストレスを感じやすくなるもの。日中、ドアをバタバタと音を立てて閉めていませんか?猫が近くにいる時は大きな声で話さない、足音を立てて歩かないようにするなど注意して生活してみましょう」(藤井仁美先生)

猫が安心できる場所を用意しよう

「猫が好きな時に隠れられるスポットや、キャットタワーや棚などの高さのある場所を用意しましょう。また、猫は上下左右を囲まれた狭い場所に安心感を得るので、そうした居場所も用意してあげると喜んでくれるはず」(藤井仁美先生)

遊ぶ機会を増やそう

ペットの動物行動学の専門家が解説。愛猫とのコミュニケーションのとり方

「自由に生活する猫ですが、1日に何回か触れ合いの時間を持ちましょう。目安としては、5分遊んで、5分休憩して、5分遊ぶのが良いですね。その場合、フードやおもちゃを使って、獲物を捕まえさせる行動をまねた遊びがいいですよ。転がすとフードが出るおもちゃを活用するのも一つの手。猫の捕食本能を満たす遊びを取り入れることで、ストレス解消になってくれるでしょう」(藤井仁美先生)

食事、トイレは環境を整える

「フードや水を与える場所、トイレは、猫が落ち着いて飲食や排泄ができる場所に設置しましょう。とくにトイレ環境が快適かどうかは、猫にとって非常に重要です。猫の好みにあった形や大きさの容器と砂を用意し、こまめな掃除で清潔に保ちましょう」(藤井仁美先生)

猫の気持ちに寄り添い、猫本来のニーズを汲み取ってあげることが大切!

猫の気持ちに寄り添い、猫本来のニーズを汲み取ってあげることが大切!

おうちで過ごす時間が基本となった生活は、私たちと暮らす猫にも少なからず影響を与えています。「猫のストレスケアのためには、生活の中で必要としているものや期待していることを猫の気持ち、猫の立場になって考えてあげることが重要です。同時に、支える側の飼い主さんの心にも余裕がないと、猫の気持ちを汲んであげるのは難しいと思うんですよね。大変な状況ではありますが、猫のハッピーのためにも、私たちもリラックスして生活することが大切だと思います」と藤井先生。

三毛猫のたんぽぽと暮らす宮路さんは、今回先生に教わったことを今後の暮らしに生かしていきたいと話します。

「私は柴犬のどんぐりを子犬の頃から育ててきた経験から、いつも家に誰かがいて留守番の少ない環境の方が寂しい思いをさせず、情緒の安定にもいいのではと思っていました。でも猫は犬と違って単独行動をする動物なので、ひとりで過ごす時間も必要なのですね……。今回教わった猫の特性や犬と猫の求めていることの違いに注意して、それぞれストレスなくのびのびと暮らしてほしいなと思います!」

愛する猫の気持ちを理解しながら、お互いにストレスフリーな生活を目指しましょう。

<プロフィール紹介>
藤井仁美先生
藤井仁美先生
獣医師、獣医行動診療科認定医、伴侶動物(ペット)行動カウンセラー。ベックジャパン(Ve.C.)動物病院グループにて、犬と猫の行動診療やストレスケア、子犬・子猫の飼い主指導に携わっている。著書に『猫の困った行動 予防&解決ブック』(緑書房)がある。
<イラストレータープロフィール>
宮路ひまさん
宮路ひまさん
動物好きイラストレーター。2019年に子猫のたんぽぽを保護。猫と暮らすのは初めてなので、犬とは違う未知数な行動の数々に頭を抱えながらも、その可愛さ、奥深さに夢中になっている。
 

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