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2015.04.07

速報! 本屋大賞受賞、上橋菜穂子さんに聞く『鹿の王』創作秘話

人気シリーズ『精霊の守り人』『獣の奏者』で、幅広い世代の読者を夢中にさせてきた上橋菜穂子さん。2015年4月7日、最新作『鹿の王』で、全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」を受賞され、今もっとも注目を集めている作家・上橋さんに、受賞作の創作秘話をお聞きしました。

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書店員さんが“ジャンル泣かせ”の作品を支えてくれた

受賞作『鹿の王』あらすじ

受賞作『鹿の王』(KADOKAWA)は、異世界を舞台に繰り広げられる壮大なストーリー。主人公のヴァンは、強大な帝国・東乎瑠(ツオル)に抗戦した戦士団の生き残りで、岩塩鉱で奴隷となっている中年男性。岩塩鉱で謎の病(やまい)が発生し、ヴァンは混乱に乗じて、生き残った女児・ユナを連れて脱出。一方、帝国の医術師ホッサルは、病の解明に乗り出すが…。また、『精霊の守り人』に始まる<守り人>シリーズ(以下、<守り人>シリーズ)の主人公「女用心棒・バルサ」を彷彿させる女性が登場するのも注目したい。

――本屋大賞の受賞、おめでとうございます。

ありがとうございます。私にとってはこれ以上ないタイミングでいただけて、何よりの勲章です。まるで、暗夜の中にいたのが、パッと明るさが差し込んで来たような気がしました。

長く続けた<守り人>シリーズ、『獣の奏者』シリーズを書き終えたあとは虚脱状態で、いわゆるスランプに陥っていましたが、その期間を経て執筆した『鹿の王』は、ちょうど変わり目、転換期に執筆した物語です。今回こういった形で評価していただいてうれしいです。

――全国の書店員さんに、メッセージがあればお聞かせ下さい。

私の作品は、書店員さんにしたら、「ジャンル泣かせ」でしょう。ファンタジーの棚、一般書、児童書、どこに並べるか迷う、それこそ書店員さん泣かせの本だと思います(笑)。

そんな私の作品を、書店員のみなさんが「売ろう」と思ってくださったことがうれしい。デビューしたての頃から、書店員さんたちは、POPを書いてくださったり、児童書の棚だけでなく、一般書の棚まで送り出してくださったりして、応援してくださった。感謝してます。

本屋大賞にノミネートされた作品はこちらの記事をチェック!

スランプ脱出後、受賞作『鹿の王』で書きたかったこととは?

鹿の王 (上) ――生き残った者――
鹿の王 (下) ――還って行く者――
著:上橋菜穂子
定価:各 本体1600円+税
角川書店 (または、KADOKAWA刊)

――受賞作『鹿の王』に登場する「跡追い狩人」サエは、<守り人>シリーズの、女用心棒・バルサの面影を感じます。

実は、最初はサエを主人公にして、一生懸命書き始めたのですが、物語が進まなかったんですよ。跡追い狩人のサエは、あくまでも“追う人”であって、進んで行った人を見る人ですからね。主役の脇にいてこそ、輝くタイプなのでしょう。

――主人公はヴァンの方が書きやすかったと?

もともと、私は理屈ではなくイメージで描くのですが、最初に浮かんだのが、ヴァンの姿。そこにユナ。でも、ヴァンは1人ではあそこから出られないんです。ユナの存在があるからこそ、脱出するし、物語が展開していく。

ヴァンとユナの関係は、<守り人>シリーズの女用心棒・バルサと、彼女が守る皇子、チャグムとの関係に近いかもしれません。大人が子供の主人公を守って戦う、という意味ではなくて、ユナやチャグムは、物語を引っ張る原動力です。ヴァンにしろ、バルサにしろ、彼らが動いていくからこそ、一緒に動いていく。この関係性は、バルサの師であり養い親のジグロと、少女時代のバルサにも当てはまる、私はそういう関係性が好きなのかも。

私の場合、ヴァンだけの1人称の視点だけでは物語を書けない。主観のほかに客観が必要です。学者の職業病でしょうか、主観のままだと、とらわれてしまいそうで怖いんです。西洋医学に対して東洋医学があるように、2つの相対的な世界があると、うまく書けるようです。

――原因不明の感染症、西洋医学×東洋医学(漢方医)の対立など、シリアスな“医療サスペンス”のようにも読めますが?

医療サスペンスとは、とっつきやすいキャッチコピーですけれど(笑)、なにもパンデミックものを書いたつもりではないんですよ。本当に書きたかったのは、病が見せてくれるであろう、もっと別の姿、つまり「人が命とどう向き合ってきたのか」ということです。

たとえば、西洋医学と東洋医学では、背景の世界観は大きく違います。一口に医学と言っても、いろいろな考えがあるのです。それぞれの民族が、それぞれの文化のなかで育まれてきた、ぞれぞれの医学を持っている。

それなのに、最初は、物語に出てくる帝国・東乎瑠(ツオル)の医学について一切書いていなかったんです。そこで、医術師・ホッサルに対するものとして、東乎瑠(ツオル)にとっての病、医学とは何かを書き始めたら、彼の命に対しての考え方がどんどん浮かび上がってきて、“病のさなかにある男”ヴァンに対して、“病を治そうとする男”ホッサルという人物が生きました。

気になる次回作のテーマは? 上橋さんが受講したい講座は?

――大作を終えられたばかりですが、ファンとしてはやはり上橋先生の次回作が読みたいです。『鹿の王』は、フランク・ライアンの『破壊する創造者 ウイルスが人を進化させた』に着想を得たとお聞きしましたが、次回作へのインスピレーションが湧きそう!と感じている本はありますか?

次回作については、予定は未定で(笑)まだ考えられていません。ちょうど今、膠原病内科医の津田篤太郎先生が書いた『漢方水先案内: 医学の東へ』(医学書院刊)という本を読んでいますが、これがもう読み始めたら止まらない面白さ。漢方の本と思われるでしょうが、実は『鹿の王』の世界観と、ものすごくシンクロしているんですよ。命の見方、あり方にとても興味があるので、ここから次回作のテーマが生まれるかもしれないけど、でも、やっぱり未定です(笑)。

――オーストラリアの先住民・アボリジニの研究、中国武術、古流柔術など、さまざまな分野に深い造詣をお持ちですが、ユーキャンの講座では、挑戦したいものはありますか?

危険物取扱者合格指導講座」にもとっても興味を引かれますが、日々の「食」で家族を支えられたらうれしいので「薬膳コーディネーター」を受講したいですね。教材の行平鍋でクツクツ煮込めば、魔女が秘薬を作るような気分も味わえて楽しそうです(笑)。

上橋菜穂子(うえはし なほこ)さん

撮影/ホンゴユウジ

1962年生まれ。作家。文化人類学者(文学博士)。現職は川村学園女子大学特任教授。

デビュー作は、1989年『精霊の木』。2014年には、国際アンデルセン賞作家賞を受賞、2015年『鹿の王』で本屋大賞を受賞する。代表作に、『精霊の守り人』<守り人>シリーズ。『狐笛のかなた』『獣の奏者』。文化人類学者としての顔が見える『隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民』、エッセイに『明日は、いずこの空の下』、『物語ること、生きること』また、近著に、作家・荻原規子さん、佐藤多佳子さんとの対談集『三人寄れば、物語のことを』がある。<守り人>シリーズは、2016年、綾瀬はるか主演でドラマ化が決定し、ますます注目が集まる。

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