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2016.04.12

【速報!】本屋大賞受賞、宮下奈都さんに聞く『羊と鋼の森』創作秘話

全国の書店員が「最も売りたい本」を選ぶ「本屋大賞」。4月12日に「2016年本屋大賞」が発表され、作家・宮下奈都さんの『羊と鋼の森』がその栄冠に輝きました!本作は、登場人物の心情を丁寧に描写し、多くの人の共感を呼んでいます。今回は、そんな宮下さんに、同作の創作秘話をお聞きしました。

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2回目のノミネートで受賞!
背景には書店員さんの熱烈な支持が

受賞作『羊と鋼の森』あらすじ

受賞作『羊と鋼の森(ひつじとはがねのもり)』(文藝春秋刊)は、ピアノの調律に魅せられた1人の青年と、彼を取り巻く人々の日常を描く物語。北海道の美しい自然を舞台に、主人公・外村(とむら)が、調律師として研鑽の日々を送るなかで出会った先輩や顧客との交流を静謐な筆致で綴っている。外村が担当した双子の姉妹、和音(かずね)と由仁(ゆに)の挫折と成長の物語や、登場するシーンは多くはないが、外村が調律の世界を目指すきっかけとなった調律師・板鳥(いたどり)の存在感にも注目。

――2012年に『誰かが足りない』で初ノミネート、そして今回は満を持しての受賞、おめでとうございます。

ありがとうございます。自分ではそんな「満を持して」だなんて思っていなくて、本当に信じられない感覚です。2012年の候補作の中では7位だったのですが、書店員のみなさんに、ノミネートしていただいただけでも本当にうれしかったんですよ。

――全国の書店員さんに、メッセージをお願いします。

もう何年も前の話ですが、1人の書店員さんが「書店発信でベストセラーを仕掛けよう」とTwitter(ツイッター)で投稿されたのが呼び水となって「本屋さん秘密結社」が結成された出来事がありました。そこで選んでいただいた本が、なんと私の初めての長編『スコーレNo.4』(光文社刊)だったんです。今となっては、どなたが秘密結社のメンバーだったかなんてわからないのですが、今回の受賞もきっと、そういった書店員の方々の応援の上に成り立っていると思っています。

受賞作『羊と鋼の森』は、主人公の外村が17歳の時から始まる話なので、外村と同世代の若い人に支持されるのかなと思ったのですが、意外と年配の方も読んでくださって「読み終えたあとすごく胸が熱くなった」とまで言ってくださって……とてもうれしかった。私の小説は、華やかな世界を書いているわけでもない『地味』な話なので、受賞は無理だろうと思っていたのですが、今回の受賞をきっかけに、若い読者だけでなく、私と同年代の方にも読んでいただけたら、本当にうれしいですね。

私自身、書店で過ごす時間は、何物にも代えがたい、至福の時間です。1人の読者としても、書店員のみなさんに、いつも感謝しています。

家族で移住した北の大地で、本屋大賞受賞を夢見た日


――受賞作の舞台は北海道ですが、宮下さん自身、北海道で暮らした経験があるそうですね。


ええ、2013年から1年間だけ、一家で北海道の大雪山国立公園内にある、トムラウシ集落で暮らしたことがあったんです。麓(ふもと)の町に1軒だけ、小さな本屋さんがあったのですが、そこに並んでいたのが、そのときの本屋大賞受賞作、百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』上下巻(※2013年の本屋大賞受賞作品)だったんです。それを見て「いつかこの本屋さんに自分の本を置いてもらえたらどんなにうれしいだろう、でも無理だろうな……」と妄想していたのを思い出しました。今年の夏、またトムラウシを訪ねる予定なので、その本屋さんをのぞくのを今から楽しみにしています。そこに『羊と鋼の森』が並んでいたら、感激するでしょうね。

『羊と鋼の森』というタイトルの意味とは?



――これから受賞作を手に取る方も多いと思いますが、『羊と鋼の森』とは、作品世界を象徴するタイトルですよね。


前に、ずっと私のピアノを調律してくださっていた方が、ピアノの蓋を開けて「大丈夫ですよ、いい羊がいるから」と言ってくださったことがあったんです。ピアノを弾くときって、鍵盤を叩くと、ピアノ内部のハンマーヘッドが連動して弦を打って、それで音が鳴るんですが、ハンマーのフェルトは羊の毛でできているんですね。だから、タイトルの羊はハンマー、鋼は弦。主人公の外村が、ピアノという森、人生という森に入り込んでいく、という意味も含んでいます。

北の大地で目にした自然が、執筆のきっかけに

――トムラウシの大自然の中で実際に暮らしたことが、執筆のきっかけになったそうですね?

あまりに雄大な大自然を前に圧倒されてしまって、本当に言葉が出てこなかったんです。でも、そこで作家が「言葉にできない」と簡単に言ってしまったら、「作家としてはダメじゃないか?」という思いがありました。私は音楽もすごく好きなのですが、素晴らしい音楽も、それこそ「言葉にできない」と考えていたのですが、「音楽と自然、言葉にできないもの同士を結びつけたら、すごいものが書けるんじゃないか」という気持ちが沸き上がって来て、書き始めたのがきっかけだったんです。

物語の冒頭、高校の体育館で外村が板鳥に出会う、あのシーンが終るところまでは、もう一気に書けました。ただ、とにかく大好きな物語だったので「もっと良くしたい」という気持ちがあって、連載が終ってからも、どんどん直したくなっちゃって。今までになく、すごく手を入れた作品です。

――外村が出会った双子の姉妹も、とても魅力的なキャラクターです。

双子の高校生、和音と由仁の姉妹は、性格もピアノの弾き方も正反対なのですが、とにかく書いていて楽しくって、つい出番が多くなってしまって、あとから少し削ったほどです。

北海道・トムラウシ集落での日々を書いた『神さまたちの遊ぶ庭』(光文社刊)で、挫折を経験したけれども、それを乗り越え、新しい道を見つけた女の子「なっちゃん」のことを書いたのですが、もしかしたら、姉妹の成長の物語は、そういうことにも影響を受けているかもしれません。

天才よりも普通の人を書きたかった

――実は、ロックバンド「↑THE HIGH-LOWS↓ (ザ・ハイロウズ)」の大ファンという意外な一面も持つ宮下さん。これまでの作品でも、物語には音楽が深く関わっていますが、今回あえて、ピアノの調律師という、いわば『裏方』を主役にしたのはなぜでしょう?

もともと、「陰で支える」ことに、魅力を感じるんです。表舞台に立ってスポットが当たるような人の話よりも、表舞台に立つ人の活躍を、陰で支えるような人を書きたい。ごく普通の人間が、コツコツとやっていく話を書きたいんです。私自身が、才能とは無縁な人間なので。いわゆる天才や才能を持つ人の描かれ方に違和感があったんです。

――そうは言っても、宮下さん自身、小説を生み出す、という才能をお持ちだと思うのですが?

いやいや、特別な才能なんてあるわけないじゃないですか! それに、「才能があるから書く」というものではないと思うんです。強いて言うなら、書くのが好きで仕方なくて、とにかく書きたくて書いちゃう感覚ですね。だから、本作で書いた板鳥の言葉とも重なるのですが、自分にその才能があるかどうか判断するのはもっと、ずーっと後でいいと思うんですよ。調律師に限らず、とにかくコツコツ続けて、結果的に死ぬときに「やっぱり才能がなかった」って気づくことになったっていいと思うんです。

気になる次回作のテーマは?

――長編を終えられたばかりですが、宮下さんの次回作を楽しみにしているファンも多いと思います。

受賞作を書き終えた直後は、「本当にもう書ききった」と思っていて、しばらく休んでいました。でも休んでいる間に、試行錯誤というか、今までにない新しいことも書きたいなという気持ちも、新たに沸き上がって来たんです。今、家族の物語を書いているのですが、作品としてお目にかけられるようになるには、もう少し時間がかかりそうです。

宮下奈都(みやした なつ)さん

1967年福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒。

2004年、文學界新人賞佳作に入選した『静かな雨』で、デビュー。2007年、初の単行本『スコーレNo.4』(光文社刊)は、書店員の熱烈な支持を受け、秘密結社が誕生。『太陽のパスタ、豆のスープ』(集英社刊)、『田舎の紳士服店のモデルの妻』(文藝春秋刊)など、ありふれた日常を題材に据え、心の襞を丁寧に掬い取る描写が、多くの読者の共感を呼ぶ。『誰かが足りない』(双葉社刊)で、2012年の本屋大賞ノミネート(7位)。近著に、一家で北海道の大雪国立公園内トムラウシ集落に1年間限定で暮らした日々を綴った『神さまたちの遊ぶ庭』(光文社刊)があるほか、ESSE(扶桑社)でエッセイ「とりあえずウミガメのスープを仕込もう。」、地元・福井新聞社発行の雑誌 fu にエッセイ「緑の庭の子どもたち」を好評連載中。

【インタビュー後編】本屋大賞受賞、宮下奈都さんに聞く! もしも作家になっていなかったら?

2016年「本屋大賞」を受賞した宮下奈都さん。表舞台を影で支える、ひたむきな姿を描きたいといった思いから、この作品が生まれたのですね。まっすぐ、地道に努力することが仕事をこなしていく上で大事だということを、あらためて実感します。そんな宮下さんですが、子供の頃はまったく違う職業に憧れていたそう。その意外な職業とは……?

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