秘書という仕事の存在は知っているものの、実際にどんな仕事をしているのか知らない人も多いはず。まずは秘書の仕事や働き方について、能町さんの体験をもとに教えていただきました。
「秘書の仕事を一言で表すと、上司(ボス)のサポート役。みなさんがイメージされているようなボスのスケジュール管理や出張の手配と同行、会議室の予約やお茶出しなどはもちろん、スピーチ原稿を書くなどボスによってさまざまな仕事を任せられます」(能町さん)
ティファニー、バンクオブアメリカ証券(現バンクオブアメリカ・メリルリンチ)などの一流企業で社長をはじめ上級管理職を補佐するエグゼクティブ秘書を10年にわたって務めてきた能町さん。現在は独立し、人材育成コンサルタントとして一流秘書を育てるスクールを運営していますが、近年は秘書の働き方にも変化が訪れていると言います。
「秘書というと、以前は『役員の身の回りの世話をする人』というイメージで、ボスの仕事から身の回りの世話までする『誰にでもできる』職業という側面が強かったのですが、最近はAIの進化により事務的な仕事が激減するなか、秘書の本質をきちんと捉え、『専門職』として捉える会社やボスが増えてきている印象です。日本社会にも、『ビジネスパートナー』として秘書に接してくれる会社やボスが増えていくといいですね」(能町さん)
さらに、コロナ禍で働き方ががらりと変わり、現在は対面での秘書業務が以前の半分程度に減っていることから「秘書の仕事内容や働き方は今後ますます変化していくと思います」と話す能町さん。時代と世相が様変わりしたことによって、「常に言われたことだけを行うタイプの秘書は淘汰されていくのでは」と予想します。これからの秘書には「クリエイティブな発想と能動的に行動する力」が求められそうですね。
「千手観音のような人」と能町さんが例えるように、多岐にわたる秘書業務。そのスキルは仕事だけでなく、日常生活ひいては人生においても役立つのだとか!秘書の仕事を通して、能町さんが役立ったと感じたスキルについて教えていただきました。
◆日常でも常にマルチタスクで働く
「秘書の仕事は同時に10個くらいのタスクを抱えていることが多いので、頭の中は常にフル回転!それが習慣になっているので自宅でも仕事をしながら皿洗いや洗濯を同時進行してしまいますね。おかげで家事がはかどります!また、何かをやっている最中も先のことを考えたり別の選択肢を考えたりしているので、大失敗してしまうということは少ないように感じます」(能町さん)
◆コミュニケーション能力がアップする
「秘書をしていると、ボスだけでなくボスがかかわる多くの人に毎日会います。どんな立場の人とでも雑談し、気配りをしないといけないので、自然とコミュニケーション能力が上がりました。特に『楽しく雑談をする』というのは意外に難しいことです。私は京都大学経営管理大学院に進学し学びを深めていますが、教授と雑談して笑っていたら他の学生たちに『教授にどうアプローチすればいいのか』『何を話すと楽しく笑い合えるのか』と質問攻めにされました。
元々は私も他人とのコミュニケーションが苦手で、社会人1年目にはそれが原因で体を壊して1ヵ月休職したほどです。秘書としてさまざまな人と接することで克服できたので、みなさんも必ずコミュニケーション力がアップしますよ!」(能町さん)
細やかな気遣いからマルチタスクまで、さまざまな能力が求められる秘書の仕事。多くのスキルは普段から意識していないと一朝一夕では身につかないものばかりです。だからこそつい出てしまう「秘書あるある」が日常に溢れているそうなのですが……、一体それはどんなものなのでしょうか!?
◆プライベートでも圧倒的な気配りを発揮して驚かれる!
「『秘書は何事にも丁寧であるべき』『気遣いができて当たり前』という風潮があるのですが、そのせいで日常生活でも『そこまでしなくても!』と思われることがよくありますね。例えば、プライベートではお金を払って参加しているセミナーで講師の方が喋りっぱなしで声がかれてしまったのを見て、休憩時間に近くのコンビニでのど飴やお茶を買ってきたりといったことを自然にやってしまいます。相手のことを察知する力や相手が考えていることを読む力が強いので、つい気付いてやってしまうんです」(能町さん)
◆秘書の頭の中はグルメ予約サイトよりも情報が豊富?!
「秘書が集まってごはんを食べに行こうとなったらもう大変です!その瞬間からお店の予約合戦が始まります。『私は会社が渋谷にあるので渋谷周辺の飲食店に詳しいです』『和食ならこの3軒、イタリアンならこの3軒がおすすめですがどれがいいですか?』と、その集まりにベストなお店の予約をあっという間に完了させてしまいます。秘書が集まったら予約サイトで予約するより早いかもしれません」(能町さん)
◆秘書のポーチは四次元ポケット?!
「秘書が常に持ち歩くポーチには、秘書以外の人から見ると珍しいものが入っていることが多いと思います。例えば私の場合、欠かせなかったのは油性ペンです。ハイヒールがマンホールの穴にはまって傷がついてしまった時などに応急処置としてペンで塗れば傷が目立たなくなるんです。これは同僚にもよく貸してと言われていましたね。他には、会社の社章バッジをよく忘れるボスに付いていた時は、いつでも渡せるように2、3個ポーチに常備していたこともあります。
急に必要になるかもしれない葬儀用の黒のネクタイや、出張前に買いに行く時間がない時のために、事前に買っておいた日持ちするお土産はデスクに常に用意していました。どんなボスを補佐しているかで変わるとは思いますが、秘書ならきっとみんなポーチやデスクに自分だけの秘書グッズを忍ばせていると思いますよ」(能町さん)
ここまでのお話から、秘書は特殊な能力を必要とする仕事ではなく、意外と身近な仕事なのかもと思った方も多いはず。具体的に、どんな性格やタイプが秘書に向いているのかを能町さんに伺いました。
「好奇心が強い人は秘書に向いていると思います。秘書の仕事は、ボスを通して普通では見られない世界をたくさん見たり体験したりすることができます。他人には言えないことも多いけれど、毎日がドラマのよう。特に私は外資系企業で秘書として働いていたので、通訳をするためにボスと一緒に出張に行くことも多く、秘書という仕事を通じてさまざまな職種の人たちや一流の人たちを見てきました。普通とは違う世界を体験することができるというのは秘書の仕事の魅力の一つだと思うので、好奇心が強い人にとってはとても楽しい仕事だと思います。
もう一つ私が思う秘書に向いているタイプは、何事も素直に受け入れられる人。秘書はボスと長い時間を共にするので、何よりも人柄が大事です。キャリアや学歴よりも、一緒にいて楽しいか、言われたことを素直に受け入れて学び、成長できるかといった部分が大事になってきます。実際に私も、自分よりも高い学歴やキャリアを持った方々が大勢集まった秘書の採用面接で、『一緒に働いたら楽しそうだったから』『伸びしろがあるように見えたから』という理由で採用されたことがあるので、間違いありません」(能町さん)
好奇心旺盛で、向上心を持って素直に学び続けられる人であれば、心掛け次第で経歴や学歴を問わず目指すことができ、「一生活きるスキル」が身につく職業だったのですね!
最後に、秘書の魅力について聞くと、「人生を豊かにする宝箱のような仕事です」と話してくださった能町さん。
「さまざまなスキルが身につき、人と上手に付き合えるようになるので人生を豊かにする秘密がいっぱい詰まっています。一言で言うと『人間力を高められるポジション』でしょうか。ただの石ころが、いろいろな仕事を経験することで磨かれてダイヤモンドへと変わっていく……そんな経験ができるのが秘書の魅力だと思います」(能町さん)
普段出会う機会の少ない秘書という仕事も、お話を聞いてみるとグッと身近に感じられましたね。ビジネスマナーが身につき、人生も豊かになるという秘書の仕事。興味を持った方、これから目指してみたいと思った方は、まずは「秘書検定」からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。