仕事がうまくいかない、失敗ばかりでいつも上司に怒られる、自分は今の仕事に向いてないのではないか……。何かをきっかけに自信を失ってしまい、仕事が「しんどい」と思っている方は意外と多いのではないでしょうか。今回、お話を伺った『仕事術図鑑』の著者である小鳥遊(たかなし)さんとF太さんも、仕事が「しんどい」の経験者です。
タスク管理のイベントで知り合った小鳥遊さんとF太さんは、その帰りの電車で意気投合。出会いから3ヵ月後には、お二人の経験を活かして「自分は要領が良くない、と思い込んでいる人のための仕事術」というイベントを開催。すぐに席が埋まってしまうほど評判になり、定期的に同じイベントを開催していたそうです。そして、もっとたくさんの人にこの仕事術を知り、ラクに仕事をしてほしいとの思いから、『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(サンクチュアリ出版)を出版されました。やり方を変えるだけで要領よく仕事ができる「仕事術」は、いったい何をきっかけに生み出されたのでしょうか。
「出発点は、『できる自分になることを諦める』でした。それでも社会で仕事をしていくためにはどうしたらいいか、と考えた時、『自分の弱点をサポートする依存先を作ればいい』と思ったんです。例えば、頑張って覚えるのではなく、忘れてもいいように書き留めておく。段取りを組むのが苦手なら、落ち着いた状態であらかじめ段取りを書いておく。書き出すことで脳の記憶の代わりをしてくれる『第二の脳』ができて、自分をサポートしてくれますからね。つまり、やり方を変えればどうにかなる、と自分を諦めたことで気づいたわけです」(小鳥遊さん)
「僕は以前、コールセンターで働いていましたが、最初は何でも答えられると思っていたんです。座学は成績がよかったので『何でも来い』という感じでしたが、初めて電話を取った時にまったく言葉が出てこなくて。上司が慌てて対応してくれたのですが、『こいつ大丈夫か?』という目で見られるようになり、電話に出るのが怖くなってしまいました。仕事が何もできなくなり、心がポキッと折れてしまったんです。何から始めたらいいんだろうと思った時にまず手をつけたのが『気持ちを落ち着かせること』でした。自分を落ち着かせて、目の前のことだけに集中するにはどうしたらいいのかを考えた結果、自分の水準に合ったものを習慣化していけば要領のよさが身に付くことがわかったのです」(F太さん)
失敗を経験しつつも、落ち着いて自分を見つめ直すことで要領よく仕事をするための術を見つけ出したお二人。まずは自分自身と向き合って、どうすれば失敗なく仕事ができるのか、しっかりと考えることが大切なのかもしれません。
「完璧主義で責任感が強い人ほど、自らを要領がよくないと思い込む傾向にある」というのが小鳥遊さんとF太さんの共通認識。水準が高い要求でも「これぐらいできないとダメだ」と思い込んでしまい、そこをクリアできないことで自尊心を傷つけてしまうそうです。
「イベント参加者の中に、とてもいい会社で働いていて、手帳を見るとタスク管理もしっかりしている、という方がいました。僕としては、これ以上何を求めて来たのだろうと思ったのですが、本人はうまく仕事ができていないと思っている。その方を見て、『要領の良し悪しはまわりとの比較で決まるんだな』と実感しました。だからまずはハードルを下げることが大事なんです」(小鳥遊さん)
イベントなどを通してたくさんの人にアドバイスをしてきたお二人に、要領がよくないと思っている人が「まずすべきこと」は何なのか聞いてみました。
「とにかく、やらなければいけないことを全部書き出してみることですね。あれもしなきゃ、これもしなきゃ、と頭の中でぐるぐる回っていると不安が増幅しますから。その不安を頭から追い出すためにも、まずは落ち着きましょう、ということです」(小鳥遊さん)
「書き出すことは簡単なようでけっこう難しいんですよ。もやもやした思考に名前を付けなければなりませんから。でも、『例のあの件』が『〇〇さんから依頼された件』と変わると、人のイメージとパッケージングできて頭の中で扱いやすくなるものです。自分の言葉で書き出すことは、頭の中を整理するという儀式ですから、まずはここから着手するといいと思います」(F太さん)
頭の中の「もやもや」を具体的な言葉に置き換えると、やるべきことがより明確に。
(『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』サンクチュアリ出版より)
この「もやもや」に付けた名前が「タスク」です。そこからタスク達成までの手順を書き出し、自分がやるべきことを明確にする「手順書」を作ることが、要領よく仕事をするための第一歩だとお二人は話します。
「この手順書を作るだけで頭の中の『もやもや』、つまり不安が激減し、圧倒的な解放感を得ることができます。さらに言語化、明確化することで他人と共有ができるのも利点です。例えば、『この仕事、何%くらい進んでる?』と質問されることがありますよね。私も上司や同僚からこの質問をされて、言葉に詰まった経験があります。頭の中だけで考えていると即答できませんが、手順書を作っていれば、『今は5つあるうちの3つまで進んでいるから60%』と答えることができる。この数値が正確かどうかはわかりませんが、自分の中ではある程度自信を持って答えることができるんです。手順書があれば上司や同僚に説明するのがラクになりますし、プレッシャーのかかる場面も減らすことができます」(小鳥遊さん)
「この『何%』に関してはおそらく適当に答えてもいいと思うんです。聞いている方も正確な数値は求めていなくて、ざっくりとした感覚値が欲しいだけのことが多いですから。そこでざっくりでも60%と言えるのは要領がよい人ですよね。人間関係の柔軟性があるというか、重要な数字ではないとわかっている。でも真面目な人ほど、適当には言えず『要領が悪い』となってしまうのです」(F太さん)
共著されている『仕事術図鑑』には、「しんどい」がラクになる仕事のやり方がたくさん掲載されています。どれもお二人の経験から導き出された仕事術ですが、中でも多くの人が陥りやすい失敗を取り上げて、その克服法が生まれた経緯を聞いてみました。
■忘れ物が多い
小学生の頃から忘れ物が絶えなかったという小鳥遊さんの忘れ物対策は、「同じ場所に戻す」「笑い飛ばす」という二つの方法でした。「同じ場所に戻す」ために用意したのは特別な箱。財布や定期券など忘れがちなものはその箱に入れ、帰宅したらそこに戻すようにしたら忘れ物が少なくなったそうです。二つ目の「笑い飛ばす」は、自分を否定しないための防衛策だと言います。
(『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』サンクチュアリ出版より)
「一番避けたいのは『忘れ物をした自分はなんてダメなんだろう』と自己評価を下げてしまうことです。それを避けるには笑いに変えてしまうのが一番。家を出る前に『完璧だ』と思って出かけ、忘れ物をして取りに戻り『さらに完璧になった』と(笑)。いわゆる『てへペロ』というか、自虐的な笑いに変えるわけです。妻とはこうしたやりとりをよく楽しんでいて、そこから生まれた克服法です」(小鳥遊さん)
「小鳥遊さんは、普通なら深刻になってしまうところで笑ったり、場面の意味合いを変えたり、というのを自然にできる人。そこは僕も学びたいと思っていて。大変な時でも『しびれるな~』と言っていますし(笑)。普通は『これヤバくない?誰の責任?』となりますが、『これはしびれるね』と笑ってやり過ごすという話を聞いたことがあって。これは気持ちがラクになると思い、僕自身も真似するようになりました」(F太さん)
■雑談が苦手
仕事上の雑談は、相手のことをよく知らないことも多く、漠然と話を続けるのは至難の業です。そんな時は「聞き役」に徹してインタビュー方式を取り入れるのがおすすめ、と小鳥遊さん。
「最初はお笑い芸人のような話芸を真似しようと思っていたのですが、とても無理でした(笑)。そこでふと思い浮かんだのが、プロ野球のヒーローインタビュー。話が続かない時はインタビューしてしまえばいいのではないかと思ったんです。そこで質問の定型を作ってみました。『おすすめのラーメン屋はどこですか』とか。すると必ず教えてくれるんです。ラーメン好きな私にはいい情報を得ることができるし、相手も乗り気で答えてくれますよ」(小鳥遊さん)
(『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』サンクチュアリ出版より)
「小鳥遊さんの『ラーメン』のように、自分の興味関心に繋がる、誰にでもしていい質問が一つあると話が盛り上がりますね。僕の場合は事前にSNSなどで相手のことを少しでも知っておいて、あらかじめどんな質問をするかリストアップしておきます。そうすると安心できますし、話題が途切れた時の武器になりますから。聞きたいことがあると少し前のめりになって、相手に興味があることもアピールできますし。不安な時や緊張する相手の時は、いくつか質問を用意しておくのもいいと思います」(F太さん)
■いつも仕事が心配で気が休まらない
気になる仕事があると、常にそのことで頭がいっぱいになり、家に帰っても気が休まらない。そんな経験は多くの人がしているでしょう。その不安を取り除くためには、前述の「手順書」を作ることが解決策になるとお二人は話します。
「言語化されていると、これからやるべきことが明確になって、不安が軽くなると思うんです。家に帰ってもやるべきことがわかっていれば少しは安心できるはず。もちろん、手順書に書ききれない不安もあると思いますが、私の場合は書けるだけ書いておくことでずいぶん心が軽くなりました」(小鳥遊さん)
「手順書を書くことで見通しが立つんですよね。間に合うんだろうか、自分にできるんだろうか、と妄想を膨らませるからこそ不安が増幅すると思うので。見通しが立てば仕事のボリューム感やスケジュール感をイメージできるので、『これならしばらく放置しても大丈夫だな』という判断もつきます。そういう感覚が得られれば、自然と仕事のことが頭の中から出て行ってくれると思いますよ」(F太さん)
見通しが立てば仕事への不安を頭から追い出すことができます。そのため、会社からの帰り道も開放的な気分に。
(『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』サンクチュアリ出版より)
失敗や挫折を繰り返しながら、ラクな気持ちで仕事ができるように自分なりの「やり方」を生み出してきたお二人。最後に「もし失敗しても、難題をクリアするために得た知識は財産になる」と話してくれました。
「僕も小鳥遊さんも、最初の挫折は国家資格の試験に落ちてしまったことです。僕は公認会計士を目指して勉強していましたが、その時に得た知識は会社を立ち上げた今になって役立っています。つまり、身に付けた知識や資格は絶対にムダにならない、ということ。どんな知識でもいつかは役立つものなので、勉強をすることも『仕事術』の一つになるのではないでしょうか」(F太さん)